21.恐怖
「なんの悪い冗談なんだ?」
男性は続けて話しかけてくるけれど、親しみなんてゼロだ。
肌がビリビリする程の敵意、悪意を感じる。
あたしが黙ったままなので、軽く肩をすくめて部屋を見回した。
「天使に部屋を与えてキューピッド活動?魔王の三兄妹は揃いも揃ってバカばかりだな。そんなやつらが魔界を仕切ってるなんてゾッとするね」
「…あの。何のご用ですか?」
放っておいたら三兄妹の悪口が延々と続きそうなので、素っ気なく口を挟む。
瞬間。
男はあたしの前髪を片手で握り、力を込めた。
「お前はセスの女なのか?それともルウナリィの女か?」
髪を引っ張られた痛みで顔をしかめていたあたしは、その言葉で長身の男を睨みつける。
「…どっちでもないけど?」
「天使のくせにそんな顔もできるのか」
男がニヤリと笑ったその時、あたしと彼の間に何かがするりと入ってきた。
そしてそれは眩しい光線となる。
「!」
男の手が離れ、あたしも数歩後ろへ下がった。
「なんでアンタが城内にいるのよ!」
まだ目が開けられないけど、声でわかる。
クロエだ。
激しいけれど、緊張の色もにじませている。
「どっちの女でもないが、クロエのお人形さんってところか?」
男のあざ笑う声も聞こえた。
そっと瞼を開くと、中央にくまのぬいぐるみが落ちている。
これがクロエの力で強く光りを放ったんだろう。
「早く出て行きなさいよ!」
クロエは続けて怒鳴る。
「ガキは向こうで遊んでろよ」
男が手でしっ、しっ、と追い払う真似をした。
「ふざけんな」
白い肌を怒りで赤く染めたクロエに呼応したように、転がっていたぬいぐるみが2メートルくらいの大きさに変化をした!
そして威嚇をするように体を震わせ、牙を剥く。
「こっちのセリフだよ」
男が動いた、と思ったその時。
ぬいぐるみはバッタリ床に倒れ、たちまち元の大きさに戻ってしまった。
何をしたか、全く見えなかった…
と、ゆっくり驚いてる暇もなく、男はクロエに向かっていく。
「メル!」
あたしの意図に反応して、メルはすぐさまクロエに防御魔法を放つ。
ギリギリ間に合ったけど衝撃が強かったのか、クロエの小柄な体は壁にぶつかる。
男が何をしたのか、早くて全く見えない…!
男はしゃがみ込んだクロエになおも近づく。
頭で考えてる暇はない、体で反応するしかない!
そう思った瞬間、あたしの力が内側で高まった。
クロエを抱え、脇に飛びのき、銃を取り出すと光線を放つ。
「!」
男はそれを咄嗟に避け、あたしから距離を置く。
クロエが先程いた壁はヒビが入り、ボロボロと崩れ落ちていた。
…危なかった。
といっても危ない状況は続いている。
銃を握る手が汗で湿ってきた。
クロエは瞳に強い光は相変わらず宿っているけど、力の差を痛感してるだろう。
「銃…?最近の天使は弓じゃなくて銃が流行りなのか?」
男はあたしの机に腰掛け、首を傾げる。
「…隙をついて逃げるしかないぞ」
メルが囁くけど…そんな隙もあたしたちにくれるだろうか?
少し弱気な気持ちが浮かんだ瞬間、強い衝撃にあたしは床に転がった。視線を走らせると、メルの体も右の壁に飛び、クロエは左側に飛んだ。
男は机に座ったまま、ニコニコしている。
その笑顔にゾッとした。
全身に鳥肌をたつのを感じた。
あたし…今まで生きてきて、初めて。
恐怖を感じているんだ…!




