ペルソナ ~2002年生まれ男性~
僕と北村さん?
どうせ気づいてるでしょ。今朝のはまた嘘だよ。嘘。僕らはただの同級生。
久道には嘘ついてごめんって言っておくよ。新さん対策に適当言っただけだから。
あのひと嘘だろうとは思いつつも、仲間の彼女の可能性が捨てきれないなら、変なちょっかい出さないでしょ。
って僕が思いたいだけじゃないよな。大丈夫だよね、あの三人置いてきて。
「どうであろうな。拙者はどちらかというと、この間から耕造の態度が違ってきている気がしていたが」
えっそっち? しまった。そっちは考えてなかった。大丈夫かな。
ほんと困るんだよね。そういうの。
え? いや、ほんと。本当に北村さんとはなんでもないよ。元の世界では何年も会ってなくて、こっちで再会してびっくりしたんだから。
たださ、あのひと、北村さん。自覚ないみたいだけど、すごいひとなんだよ。
高校生、って言葉は分からないか。二年生だったから十六とか十七歳の頃だよ。学校でイジメが始まりそうな気配があってさ。女子の間でね。
理由なんかは知らないけど、多分よくあるやつ。一軍、てこの歳でそんな言い方ダサいな、声の大きい女子っていつの時代でもいるでしょ。その女子の彼氏と仲良くしたとかしてないとか、みたいな話。
事実は知らないけどさ、そんなのどう考えても言い掛かりでしょ。
だって男女共学だよ。同じ教室で勉強して休み時間には雑談したり、できなくても挨拶くらいは交わしてイベントはクラスで一致団結して、って青春してるなかでちょっと接近するくらいの話、どこにでも転がってる。
……僕の話はいいんだよ。くそっ北村さんが言ったの真に受けるなよ。
はいはいはい。ありますよありましたよバラされたくない過去のひとつやふたつやみっつやよっつ。ひーちゃんにだってあるでしょ。兄嫁さんのことは突っ込まないにしても、恥ずかしいアレコレくらい。
大怪我したら、治療して欲しくば吐けって脅すからな。大丈夫、僕まだ医者じゃないから倫理とか気にしない。
じゃなくて。だから僕の話じゃなくて北村さんの話。
そのターゲットになりかけてた子と北村さんが仲良い友達だっていうならまだ分かるよ。でも多分そうじゃなかった。違うグループにいたし、出身中学も違ったし。
そんなただの同級生がイジメの標的になったときって、みんな見て見ぬ振りするんだよ。加害者は声の大きい女子、だから特にね。
でもやっぱり、嫌でしょ。そんな空気。だから自分に言い聞かせるんだ。
被害者にも非はある。あれは仕方がないんだ、自業自得だ、自分は部外者だから、彼女たちの問題に口を出してはいけない。ってね。
北村さんはそうじゃなかった。
彼女は僕みたいな卑怯な奴とは違って、それはおかしいって言えるひとなんだ。
教科書がない、体操服がない、って言ってるクラスメイトを空気にしなかった。
当時の北村さんはそんなに目立つひとじゃなかったし、特別強いひとでもなかったと思うよ。
僕らの時代の強さって、剣の試合で勝つとかそういう分かりやすいものとはちょっと違ってて。なんだろうな。意思が強いひとが強いのかな。
悪いことは悪いって言うのって、強いひとじゃないと難しいんだよ。北村さんも、強いひとには見えなかった。
そのターゲットになったひとが泣きそうな顔で探し物をしてるのに、みんな関わろうとしなかった。
うん、そうだよ。僕も面倒臭いなと思うだけだった。
そんななかで、北村さんが普通に言うんだ。
「何なに? 失くなったの?」って。
教室内に緊張が走ったのを覚えてるよ。
加害者はその場にいなかったけど、そんなことがあったってすぐに伝わるはずだ。
やばいって思ったよ。被害者が増える、って思った。
そんな空気なんか気にせず、北村さんは至って普通に、当たり前の親切を実行するんだ。ロッカーにないの? 移動教室のときに忘れてきたかな。って。
それだけだよ。当たり前の顔をして、困ってるクラスメイトを助けようとした。
たったそれだけのことがその場の誰も出来なかったのに、彼女だけが動いたんだ。
そうしたら現金なものだよ。他のひとも後に続くんだ。加害者を問い詰めるのは怖いけど、みんなで失くし物を探すのは怖くないってね。
犯人もそこまで根性の入った苛めっ子じゃなかったからさ、そんなふうにして周りから暗に責められたらバツが悪くなって、それ以上の悪さはしなくなったよ。
それだけ? って思った?
ひーちゃんみたいに問答無用で悪を倒せるひとはそう思うだろうね。
でもチキンな僕は結構な衝撃を受けたんだ。
僕は面倒臭い、自分には関係ない、なんてポーズを取ってたけど、他人の悪意と正面から向き合うのが怖かっただけだ。相手が自分より小さい女子だからって関係ない。複数の悪意と無関心が怖かったんだよ。あの渦中に飛び込む勇気は僕にはなかった。
だから、これと言って特別な人間に見えない北村さんが普通に突っ込んで行ったことに驚いたんだよ。
びっくりして、自分が恥ずかしくなった。
ひーちゃんは絶対に元の世界に帰らなきゃって思ってるでしょ。
だからついて来たんだよ。
北村さんは元の世界に必要な存在だ。こんなわけの分からない世界で苦しみ続けさせるわけにはいかないんだよ。
ひーちゃんたちが築いてくれた僕らの住む日本では、死は遠いところにあるものなんだ。
男は殺し合う必要はないし、女の人は出産時に死なない、子どもは生きて大人になる。
もちろん絶対ではないけどね。少なくとも北村さんは、死を意識することなく生きてきたはずだよ。今みたいに毎月苦しんでいたのかもしれないけど、薬で調整しながら普通に生活してた。
それが、この世界にいたらできなくなるんだ。文字通り死活問題だよ。
ごめん、信用してないわけでは、って言い訳だな。
うっかりでもなんでも、ひーちゃんだけ先に帰られたら困るんだよ。僕の戦闘力なんか北村さんと同レベルだから。
それでも僕は、彼女を元の世界に帰すのが自分の仕事だと思ってる。そのためにこの世界に来たんだと考えることにしたんだよ。
この異世界転移物語の主人公は、きっと北村さんだ。
僕は都合のいい端役に徹して、彼女が無事元の世界に戻れるよう陰で働く。
だからさ、僕らはとにかく最速で魔王を倒す方法を探してこよう。
完全にひーちゃん頼りだけど、その代わり全力でサポートするから。地図係とか食料調達とか身体のメンテナンスとか?
これからもよろしく。




