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後日譚 初めてのデート


 今日はルカと付き合ってからの初めてのデートだ。デートスポットとしても定番の繁華街通りであるオードレット通りは観光客でごった返している。ルカとメアリはクレープを食べ歩きながら大通りを歩いていた。


「メアリ、口元ついてるよ」


 ルカ・ハニエルが蕩けるような笑顔をその天使のような甘い顔に浮かべて、目の前の彼の恋人に手を伸ばす。色気のある仕草でメアリの口元についた生クリームを掬いとるとそのままぺろりと口にする。するとたちまちメアリの顔は茹でたての蛸のように真っ赤になってしまうのだ。


(甘甘すぎませんか!)


 目の前のルカ・ハニエルは完璧に可愛い姿だった。ふわふわの金の髪は天使のわっかができるほど艶々だし、チークをつけてるんじゃないかと思うほどのバラ色の頬に、キラキラと碧のトルマリンの宝石のような綺麗な瞳、そしてその美麗な顔は斜めに傾げられている。とてつもなく可愛い。これは本当にあのルカ・ハニエルなのか。


「んー?」


 メアリの真っ赤な顔を、どうしたの、と言わんばかりに上目遣いで見つめてくる様はもう、眩しいあまりに卒倒しそうな気持ちをメアリに与えてくる。ルカ・ハニエルはこの前、高台の木の下で告白してきてからはずっとこんな感じだ。メアリの目の前の苺クレープなんかよりもずっとずっと甘い。

 

「あ、ここ、メアリの好きそうなお店だね」


 そう言って唐突に立ち止まったルカはこちらを意味ありげな視線で見てくる。

 彼の視線の先にはちょっといいお値段の服飾ブランドの店だ。


【SHOUSHOU~シュシュ~】


 メアリがこっそりと憧れてるフェミニン系統のハイブランドだ。憧れているだけで入ったことはない。入る勇気がなかったのだ。

 ルカのこちらを見る瞳にきらりと愉悦の色が混じる。


「よーし、入ろー」

 メアリと恋人つなぎをしていたそのままで、ルカは何のためらいもなく入っていく。


「ああそうだ、僕、新しい服がいるんだった」


 思い出されたように告げられる唐突なカミングアウトに流されてメアリは店に連れ込まれた。


(わわ……)


 店内の商品はほどんどが女性用で、端の方にひっそりと、ユニセックスな男性用のシンプルな服が陳列されている。


「あ、これ、メアリに似合いそう」


 そう言いながらルカが手に持ってるのは春色のワンピースだ。メアリの好きなベージュ系統のピンクである。 


「わ、かわいい!」


 シンプルながら洗練されたカッティングに、裾の方にさりげなくついたレースと、袖口の細いリボンが控えめながらも愛らしい。どこに着て行っても恥ずかしくないような上品さを兼ねそろえている。


「ねえねえ、ちょっと着てきてよ」


 ルカは可愛らしい様子で向こうの試着室を示した。


「僕はその間に、自分の服でも見てくるからさ」


 そう言われると断りにくい。

 彼は一人で服を探したいタイプなのかもしれないし。



 メアリが服を受け取り、試着室に入ると、それを見てルカ・ハニエルはその可愛い口元に弧を描いた。


 実はあのワンピースはメアリの好みをふんだんに詰め込んだものをルカが注文して作ってもらったオーダーメイドである。サイズはもちろん……寸分のくるいもないほどシンデレラフィットするはずである。


 ルカは試着室の前で待っていると思われないように、さりげなく店内の男性コーナーをうろついた。新しい服がいるなんて、嘘だ。


(ううん、メアリの新しい服は、いるよね)


 ルカは小さなことを積み重ねて、メアリのクローゼットを彼の服で一杯にするつもりだった。クローゼットの侵略である。


「大変お似合いです~」


 店員の声に、メアリが試着が終わったことがわかる。メアリは思っていた通りの姿、つまりとても似合っていた。ルカは感嘆の声を上げる。


「わあ、すごい、まるでメアリの為に作られたみたいに似合ってるよ」


 まるで、ではない。事実である。


「もう、いいすぎ……」


 メアリは店員の前でもいけしゃしゃあと砂糖を吐き出してくれる目の前の恋人にたじたじだ。


「じゃ、これ着て帰るから、そのままで」


 ルカがさらりと店員に言ってのける。


「え」


 ルカはきらりと白い歯を見せて何でもないように言った。


「もう払ってあるから、さ、行こ!」


 手を引いて颯爽と出ていこうとする。


(ええ、試着中に払ってたってこと?)


 本当は発注した時点で前払いだ。


「ま、待って!ルカの服はどうするの」


 結局メアリの服しか買っていないではないか!


「ああ、僕は思えば急ぎじゃなかったんだよね」

 さらっと流す彼にメアリは内心穏やかではない。


(この店、けっこういいお値段するのに。買ってもらうだけなんて申し訳ない!)


 メアリが視線をさまよわせると、ふと春用のストールを発見する。絹素材でできたそれはユニセックスなシンプルな淡色の物だからルカが身に着けても違和感のないタイプだ。

 カラフルな色展開のある中から若草色の物を手に取る。


「すみません、これください!」


 メアリが店員に声を掛けると。ルカは目をぱちくりさせた。


「それ、欲しかったの? 全然気づかなかったよ。言ってくれればいいのに」


 タグを取ってもらったスカーフを、メアリはルカの首元にふわりと巻いた。


(うん、やっぱり、すごく似合う!)


 金髪碧目にピンク系の肌、色彩パーソナルカラーが春系統のルカには若草色が良く似合う。彼の今日着てきた白いシャツにベージュのパンツのいい差し色にもなるだろう。


「これは、ルカの。ささやかだけど、お返し!」


 メアリの言葉にルカは一瞬目を見開くとスカーフの首元を確かめるように首を埋めた。目を嬉しそうに細めている。


「その若草色、よく似合ってるよ!」


 メアリの声掛けに彼は戸惑うような様子で口を開いた。


「まいったな。まさかこんなサプライズを僕が受けるなんて」


 そういって笑った彼の様子はひどく嬉しそうで。


 メアリはきゅんとしてしまったのだ。


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[気になる点] 。 憧れているだけで入ったことはない。ちょっと敷居が高いのだ。 敷居が高い 「不義理・不面目なことなどがあって、その人の家に行きにくい」『大辞林第3版』より
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