043 トシュレペ戦
2015/12/27
修正を行っています。
魔黒竜トシュレペ目掛けてイアンの乗るスカイボードが空を裂く。竜の息による攻撃の被害を考慮し、イアンはトシュレペの滞空高度まで先に上昇してから、水平高度で正面から突進する作戦を採った。
距離のあるうちにポーチからマジックカードを2枚取り出す。イアンが苦心して開発した技術により魔法を封じ込めたマジックカード。直接魔法を唱えても発動出来ないイアンが、カードに魔法を封ずることは出来た。その結果は、術者の魔力には作用されないが起動単語一つで魔法使いでなくとも一定の効力の元で発動するという稀代の魔法道具を生み出す事となったのである。
左足を前にした半身で、右手のカードを顔の高さでかざしイアンは起動単語を唱えた。
「ダムファイ!ダムファイ!」
イアンの右手付近に火球が2つ出現し、トシュレペ目掛けて飛び出した。
炎系Lv5「火球爆発」がトシュレペの頭部に着弾して爆発を起こすが、トシュレペはびくともしない。
続けて、イアンはフレイムタンを振りかぶって投擲したが、弧を描いて飛び込んだフレイムタンは、トシュレペの鱗に跳ね返されて突き刺さることが出来なかった。
「ちっ、かってぇなー!」
イアンの攻撃はいずれもトシュレペに傷を負わせることは出来なかったが、しかしトシュレペはイアンを敵と認識した。ようやく身体の実体化が落ち着いたこともあり、トシュレペの両目に敵意が宿る。
口蓋を開け、吸気にトシュレペの胸部が膨らむのを見たイアンは、速度を幾分落としてスカイボードを左に転換させた。次の瞬間、トシュレペが黒い炎を吐き出してイアンを焼き払うが、急上昇と急加速で回避するイアン。竜の生態として、上方への首振りは他の方向に比べて遅い事を知るイアンだからこその行動だった。
そのまま上方から宙返りぎみに、トシュレペの背中、首元よりに斜めに急降下、フレイムタンを持つ右手を真っ直ぐ伸ばし、左手を刃先の峰に添えて身体毎突っ込む。
「うぉおおおおおおお!」
騎士魔法を発動させたイアンは、自身の身体を一本の包丁に見立てて斜めに飛び込み、トシュレペの背中を捌くかのように、一直線の切り込みを入れつつ後方へ飛び去った。
竜鱗を斬られた痛みと驚きにトシュレペが咆吼を上げ、尾をでたらめに振り回すがそれを回避したイアンは、水平に大きく右旋回し、距離を取ってトシュレペの正面に回り込む。
「今回ばかりは直剣でないのが悔やまれるな。出来れば真っ直ぐ刺したかったが・・・・・・刺身包丁的なダイブはなんとか出来たか」
こういう時用に、そのうちパイルバンカー的な武器でも作ってみるかと思いつくイアンであったが今はそういう場合ではない。トシュレペの敵意を充分に稼いだと思ったイアンは、踵を返して中央広場へトシュレペを誘導し始めた。
イアンが付かず離れず、トシュレペの顔を振り回すように黒炎の息を回避しながら中央広場へ向かってきた。地上に息が向かないようにとの気遣いに、広場の冒険者達は一様に安堵と感謝をしつつ、臨戦態勢を整えている。
「対竜塔の攻撃が開始の合図じゃ!魔法と飛び道具の連中は続けて頼むぞい!墜としてからは竜殺しで攻撃じゃ!」
特段、広場で指揮を執る者も居なかった為、対竜塔の件でギルド職員と情報交換をしていたギルビーが声を上げた。
ギルビーの声に勇ましく応える冒険者達。一方で、なぜかテンションの低い戦士達が居る。
「“竜殺し”って、ツルハシかよ・・・・・・」
「採掘したことはあるが、俺の主武器は片手剣だぜ・・・・・・」
「俺は両手剣だから振り下ろしなら同じ要領だけどな」
「あ、これ終わったら報酬にこのツルハシ貰えるよう頼んでみようかな」
「剣に打ち直してもドラゴンキラー効果あるならそれもいいけどなぁ」
戦士達が愚痴をこぼしている中、対竜塔がいよいよ火を噴き、幾多の炎槍がトシュレペ目掛けて発射される。突如加えられた下方からの攻撃は、竜鱗を貫くまではいかずとも熱による苦痛とダメージを与え、その注意をイアンから外して地上に向けるトシュレペ。魔法や弓による攻撃も届き始めるが、痛痒を与えるだけの攻撃にはなっていないようだ。
と、そこへ2基の対竜塔から竜縛鎖が射出され、腹部と左翼に突き刺さった。
ギャオオオオオウ!!
痛みに咆吼を上げ、さらに縛竜鎖によって失速してしまうトシュレペ。そこへ、スフィが唱えていた魔法が発動する。
想念系Lv8「念動」を唱えていたスフィの魔法が発動し、巨大な握り拳をイメージした圧力がトシュレペの頭部上空に用意される。さらに上乗せして、自身の特性魔法“竜の尾”も同時に振り下ろすようにし、二つの魔力がトシュレペの頭部を一気に打ち下ろした。
轟音を上げて広場に墜落するトシュレペ。再びの飛翔を阻害すべく、縛竜鎖が巻き上げられる。冒険者達は一斉に群がり、それぞれ攻撃を加え始めた。
「手を貸せ!今のうちにここをやるんじゃ!」
ギルビーが近場の冒険者に声を掛け、トシュレペの顎関節にツルハシを振り下ろす。顎関節を砕ければ、顎の開け閉めが出来なくなり、驚異が大分減少するのだ。
騎士魔法を使える冒険者達が騎士魔力を貯めて発動させ、その膂力で竜殺しのツルハシを振り抜いていく。
軽微とは言え竜殺しの特性が与えられたツルハシは、竜鱗の強度を軽減してその下の筋肉をえぐり始めた。
戦っているのはもちろん前衛だけではない。冒険者の後衛達は、強化や回復魔法に忙しく、ラサヤは前衛のそばに行っては勇気と力のわき出る曲を、後衛のそばに行っては気力と魔力が回復する曲を奏で、リンネは舞踏によってウルシュナー神の加護を身体に宿し、周囲への疲労回復効果を発している。
ミスティは半目で辺りを見通しつつも、心静かに祈祷を続けていた。
ブルフォス村に着いてからスフィに言われた言葉。心を込める事が言葉に魔力を込める事になり、魔力の宿った言葉は言霊になる。ならば、それを理解した上で神魔法を使うとどうなるのか。
いつもであれば、祈りにより霊的魔法元素を身体に呼び入れ、神言発言と共に効果を発動させるのであるが、ミスティは祈りの際に魔力を込める思いで言葉を口にした。
「慈愛の女神アイーシャよ、ブルフォス村を守る有志達を手助けすべく、邪竜神ロドンが配下の魔黒竜トシュレペに対し、その顎の拘束を私は願います!茨の束縛!」
ミスティの神言発言により、トシュレペの顔付近の地面から茨が出現する。言霊に寄るものか、これまでとは太さも大きさも違う茨が、トシュレペの顎をぐるぐる巻きにして、口蓋が開くことを不能とした。
「これが、言霊の力?!」
驚くミスティとは別に、冒険者達は最大の脅威である竜の顎が封じられた様子に喜び、その攻撃の手をより一層強めた。
中央広場の様子を空中から俯瞰で見下ろしている視線は二人居た。1人はスカイボードで滞空中のイアン。もう1人は姿を消している悪魔ランサルムである。眼下ではトシュレペが顎を封じられ、左翼と胴体に縛竜鎖を打ち込まれて飛翔を封じ込まれ、狭い範囲で手足と尾により暴れ回るしかない状況まで追い込まれていた。
「さてと、そろそろ俺も目立つ活躍しとかないとな」
イアンはそう呟くとマジックカードを取り出す。取り出したのは水系Lv2「水刃」1枚と物質変化系Lv2「魔力付与」が2枚。マジックカードはまだイアンしか使う者が居ないが、それでもこれから行うのは裏技に類するものだ。
「エンチャント!」
魔力付与の効果が、もう1枚の「魔力付与」のカードに掛かる。続けて、同じ起動単語を唱えると、今度は「水刃」のカードに魔力付与が掛かった。イアンは左手で右手首を掴み、両手でトシュレペの尾の付け根を狙う。
「ウォッター!」
起動単語を唱えると、イアンの右手に突如として重圧が掛かる。このために左手を添えていたのだが、2枚分の魔力付与効果により超高圧の水の刃が右手の先から吹き出し始めたのだ。
地球でいうところの工業用ウォーターカッターを再現したのだ。水の刃は切っ先からは霧散していき場違いな虹を生み出していたが、イアンはトシュレペの周囲の冒険者に注意しつつ、ゆっくりとその背中、尾の付け根に水刃を降ろしてゆく。
冷凍マグロの尻尾切り落としの光景を浮かべつつ、イアンが手をゆっくり下ろしていくと、トシュレペの尾の竜鱗が削られ、肉にズブリと水刃が食い込む。しかし、そこからはトシュレペが暴れ始め、尾骨の中程までしか切り込みを入れられなかった。
トシュレペの暴れように、周囲の冒険者達も一端距離を置いたその時。
ヒィイイイインッ、ギュゴッ!
どこからともなく飛来した槍が、魔黒竜の右翼を斜め上空から貫通し、地面に縫い付けた。
続けて同様の音が響き、左翼、両後ろ足、尻尾を次々と地面に縫い付けてゆく。
「なんだ!?」
イアンが見渡すと、村の正門から少し入ったところに、その槍を投擲したと思われる一団が居た。上半身裸で作業ズボンのみ履いている男達が居る。槍を持った男が2人、大きなハンマーを持った男や魔法使いらしき者達も居た。イアンはこの時は知らなかったが、ソルスレート帝国の地竜騎士団である。7本槍達がグラーベンの自慢の投擲をトシュレペに放っていたのだ。
槍持ちの1人が槍を構える。青い光は騎士魔法か。その男が槍を投擲すると、弧を描いて槍はトシュレペの背中に深く突き刺さった。
動きを封じられ大ダメージを負ったトシュレペは既に息も絶え絶えになり始める。冒険者達は槍が飛んできた事に驚いたが、その事態に構わず再びトシュレペに攻撃を再開する。
ミスティは、なんとなく嫌な気配を感じた。ただ単純に嫌というものではなく、邪悪な者の気配。これまでは感じられなかったのだが、ミスティが戦闘中に感受性が上昇したのか、もしくはランサルムがたまたまミスティに近づいてしまったのか。槍の飛来に驚いた事も影響したのかも知れない。
上空で姿を消していたランサルムは、いずれにしてもミスティが自然に発現させた邪悪感知に感知されてしまったのだ。
「誰っ!?看破!」
「しまった!」
咄嗟に神言を唱えたミスティによって、空中に潜んでいたランサルムの姿が白日の下に晒され、ランサルムは失敗を悟った。
「悪魔だ!」
「あれが黒幕か!?」
冒険者達から驚愕の声が上がり、次いで敵意の視線がランサルムに集まる。幾人かの冒険者が、弓を射始め、魔法使い達も攻撃魔法を唱え始めたが、ランサルムの周囲には見えない障壁があるのか、攻撃が届かない。
「待て!殺すな!奴には背後関係を聞き出さねばならん!」
スフィが周囲に慌てて叫ぶが、その時。
ヒィイイイインッ!
ランサルム目掛けて槍が飛来してきた。
『俺の結界をそう簡単に破れることか!』
ランサルムはほくそ笑むが、飛来するグラーベンの先端が持つ魔力に恐怖を感じ始め、しかし時遅く・・・・・・
シュバァアアンッ!
7本槍の最後の1人、クラーオの放ったグラーベンはランサルムの結界も身体も易々と貫き、同時に穂先に蓄えた魔力を爆散させた。
『ばかなぁっ!?』
結局スフィの思惑は外れ、ランサルムは何も語ることなく彼女らの目前で散っていったのである。一方、トシュレペは。
「フハハハハーッ!退け退けぇいっ!止めは俺がやるっ!」
騎士魔法の青い光を纏った、髭面のむさ苦しい男が、巨大なハンマーを持って空中を縦回転していた。ソルスレート帝国地竜騎士団長、ガイアットだ。
ウルスハンマーを両手に構え、騎士魔法による跳躍、重心移動により縦回転するその技は、建造物破壊用両手槌技“破砕槌落下撃”。
ガイアットが建造物を粉砕するハンマーを魔黒竜の頭頂部に降ろすと、トシュレペの頭蓋は粉々に砕け、ついに崩れ落ちたのであった。
「獲ったぞーっ!」
ガイアットが右手を天に突きだして叫ぶと、周囲の冒険者達がそれに応えて雄叫びを上げた。
突然現れたガイアット達の正体はまだ誰も知らず、それ故に純粋にこの時は皆が勝利の雄叫びを上げて喜んでいる。数刻後、驚愕と困惑に包まれる事はまだ誰も予想していないのであった。
ソルスレート帝国地竜騎士団の団長補佐サレイア。
ガイアット達が参戦すると同時に、彼女は村の領主館を見つけ出し、領主に面会を要請していた。ソルスレートの騎士が来訪したという知らせに、館の召使いが驚いて領主に報告し、今サレイアの眼前にはブルフォス村領主、ジオスラーが居る。
齢60歳にもなるジオスラーは、元は冒険者であり、冒険者ギルド長であり、そして今は領主であった。しかし、その60年の歳月の中で、ブルフォス村でソルスレート騎士をジオスラーは見たことがない。王都では遭遇したことはあるが、ソルスレート帝国の南進は天険ウルスラントに阻まれて一度も成功したことはなく、この村にソルスレート騎士が来たところは見たことがないのだ。最も、南進のために間者を入り込ませていた可能性は充分にあるのだが。
「ソルスレート帝国地竜騎士団のサレイア殿と言ったか。遠くソルスレート帝国から遠路はるばるよくぞ参った。して、用件は何かな?何分、今は立て込んで追ってな、手短にお願いしたい」
「それでは申し上げます。我が騎士団は、“南進”を果たしました。つきましては、ラナエスト王国との今後の折衝に入りたく、また、その間は外交団としてブルフォス村への逗留を希望します。なお、我々の要求はここより北方との交易路の管理権、使用料についての取り決め、また、それらに見合う対価としてのブルフォス村のソルスレート帝国領への移管であります」
「何を馬鹿なことを!?」
ジオスラーは目の前の女騎士の言葉に驚くが。
「ジオスラー殿。先ほど、遠路はるばるとおっしゃいましたが・・・・・・」
サレイアは艶然と微笑む。
「南の気候は気持ちがいいものですね。我が国とラナエスト王国はもう、30ケリーの距離で繋がったのです。近いものですよ」
サレイアの語る「トンネル」の話にジオスラーは愕然とするのであった。
宜しければ応援、感想、ブクマ登録等、よろしくお願いします!




