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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
48/73

042 地竜と魔黒竜

2015/12/27

修正を行っています。

 元はと言えば、一人の若い騎士が騎士魔法ナイトルーンを使って放った一本の槍が発端だった。騎士魔力を槍自体の強化、先端への魔力量の蓄積、強化された肉体による投擲。崖に向かってひたすらに練習していたその騎士の槍は、崖に大きく穴を穿つ結果となり、それを見ていた者が地中に人工の洞窟を掘れるのではないかと考えたのだ。


 ストリアン大陸北方、ソルスレート帝国。

 シュナイエン帝国と並ぶ、大陸古参の強国であり、セフィリア紀以前から歴史の続く国でもある。広い国土ではあるが気候は寒冷で、北方や東方の海岸は冬は凍結して船が出せない程であり、夏は短く、冬が厳しい国だ。シュナイエン帝国同様、北西の海賊領域“ヴァイキング領”からの襲撃と略奪に備えて海軍は強固であるが、地勢状、近海でしか活動出来ないでいる。


 ソルスレート帝国は南下して国土を広げる事が建国以来の国是であるが、国土の南には天険ウルスラント山脈がそびえ立ち、過去には山越えによる南方侵攻も繰り返されたが、ことごとく氷帝竜スフィルによって山岳部隊が壊滅され、近年では西方の十二国領を併合して南進する施策が主体であった。そのため、十二国領とその周辺のシュナイエン帝国や光翼騎士団領は常に小競り合いの絶えない地域となっている。


 もし、ウルスラント山脈に人工の洞窟―トンネル―を作ることが出来たらどうなるだろうか?


ラナエスト王国の港街ルモンズから海上貿易品を真っ直ぐにソルスレートまで運ぶことが出来、平原の十字路とも言うべきラナエストを商業経済圏に取り込んでソルスレートの経済史に新たな項目が生まれる。これは実現すれば歴史的な快挙であり経済改革となるのだ。


 氷帝竜の妨害のため直接の南進は諦めていたソルスレート帝国であるが、山中を掘るという発想とそれを支える技術の開発に着手したのは3年前。


 騎士団が投擲によって掘削をする前提で、剛性の高い槍に先端内部で魔力を熱量に変える術式と触媒の設計、投擲後に手元に戻ってくる魔法の組み込み、これらの開発に1年を費やし、ついに掘削用投擲槍“グラーベン”が完成した。


 その後は、実際にトンネル掘削を開始しながら次第に作業環境が構築されていった。

 半年の間に、トンネル掘削の施工計画や組織体制、設備や人員等の体制が改善され様々な技術が開発されていく。


 グラーベンの投擲は、中心および周囲6カ所に突き刺して岩塊を破砕する手法が効率的だということが判明。それに伴い、7人の槍の使い手が集められた。

 ハイドバーと名付けられた、当時テオストラ露天鉱床で使われ始めたドステバーの技術を盗み出して劣化複製された土砂投棄空間の構築。ドステバーの原理までは解明出来なかったものの、あらかじめ特定の空間を定めて土砂を投棄出来るようになり、とある湿地帯の埋立ても同時に実行することとなった。

 作業用に開発されたゴーレム“ガイアート”による岩塊の除去とハイドバーへの投棄。ガイアット団長を模して作られたゴーレムは、単純作業の他、落石に対する防御魔法が仕込まれている。

 魔法使い達による、トンネル表面の整形や変質化、分子結合強度の魔法による内壁強化も、初期はその都度魔法使い達により実行されていたが、やがて専用の魔導具が開発されて作業効率は上昇していった。

 掘削深度が進むにつれ、粉じんや漏水への対策が必要となり、粉じんを含む空気浄化の為の浄化樽装置の開発、導水壁と排水路の整備、空気そのものの入れ替えを可能とする魔法などが新たに構築され、作業環境は当初より格段に改善されている。


 戦争とは違う国家プロジェクトにより人類の技術が飛躍的に進歩した事は、セフィリア紀に入って初めてのことかもしれない。

 最も、ガイアット団長率いるソルスレート地竜騎士団は、自分達が世界史に残る偉業を実行中ということには気づいて居らず、ひたすらに自国の夢を実現すべく作業を行ってきたのである。



「いよぉーしっ!モグラどもぉ!休憩終わりっ!おそらく最後の作業だ!気合い入れてやるぞぉーっ!」


 ガイアット団長の野太い声が地下空洞に響き渡り、各作業員は詳細は言われずとも最早慣れ親しんだ様子で配置に付く。

 14人の兵士達がハイドバーの設置や、資機材の運搬、休憩施設や食料保管場所への防護などを行っていく。9人の魔法使い達がトンネル内壁作業の為に左右に散らばり、そのうちの1人は作業用ゴーレムを起動させた。

 ガイアット団長と副官のサレイア、医療担当の神官2人が見守る中、地竜騎士団の誇る“7本槍”達が配置に付く。


 7本槍―

 クラーオ、アイカー、マヤコフ、ゴッゾ、トーリン、ダンケルフ、ボスティマと言った7人の騎士達。槍の扱いに優れた者として国中から集められた7人で、特にクラーオはこの作戦の発端となった、崖に向かって投槍していた最初の男である。


 ハイドバー設置完了の報とともに、3列に並ぶ騎士達。中央のみ3人で左右は2人づつだ。

 アイカー、マヤコフ、ゴッゾの3人が騎士魔法ナイトルーンを発動させ、掘削用投擲槍“グラーベン”に騎士魔力を充分に蓄えた後、正面の岩塊に同時に投擲した。


 ズガァァアアアンッ!


 空気を切り裂き、6角形を頂点とした上部3点に深く突き刺さったグラーベンが、内部に蓄えた熱量を爆発させる。轟音が響く中、続いてトーリン、ダンケルフ、ボスティマの3人が6角形の下半分の頂点に槍を投じる。


 ズゴォォオオオンッ!


 響く轟音の中、仕上げにクラーオが構える。


 クラーオはグラーベンを構えると全身に騎士魔力を蓄える。他の6人よりも時間を掛けて力を貯め込むと、他とは違い、助走を付けた一撃を6本の槍の中央目掛けて投じた。


 シュゴォオオオッ!ボッ・・・・・・


「あ、あれ!?」


 いつもと違う感触にクラーオが驚く。いつもなら大きな爆発音とともに、前方の岩塊が崩れ落ちるのだが・・・・・・爆発音がしない変わりに、槍が通り抜けていったような音がし、そして風が前方から吹き込んできた。


「勢いつきすぎなんだよテメーは!貫通しちまったんじゃねーか!」


 アイカーの指摘に自分のやったことを理解し顔をゆがめるクラーオ。


「ガッハッハッハッハ!まぁ良いじゃねーか。貫通したのは確かなんだぜ?判るかお前ら?」


 ガイアットが部下達の顔を見渡す。


「南国の風だよ!ラナート平原の風が今ここに吹き込んでるんだ!」


 嬉々として騒ぐガイアットの声に、団員から雄叫びが上がる。


「よぉーっしっ!俺のウルスハンマーを寄越せ!最後の仕上げだ!ガイアートも寄せろ!」


 ガイアット団長は兵士が持ってきた身の丈と同じくらいの大きさの巨大なハンマーを受け取ると、岩壁の前で騎士魔法ナイトルーンを発動し始めた。


 全身に青白い光を纏ったガイアットは、槌先を足下に卸してゆっくりと回り始める。ゆっくりと言ってもそこは騎士魔法ナイトルーンだ。瞬く間に独楽のように回転し始めるガイアット。多少の攻撃などはじき飛ばす程の回転から、愛用のウルスハンマーに遠心力を乗せながら上段に持って行き、最後に遠心力を乗せて上段から振り下ろす。


 反動で身体まで浮いてしまう衝撃を叩き込む技、攻城用両手槌技“重撃破城槌ヘヴィ・ブレイキン”だ。


 これまでのグラーベンの破壊力と合わさって、岩壁に亀裂が入った後に崩壊を始める。作業用ゴーレム“ガイアート”がガイアット団長のそばに行き、身体を盾にして落石から守りつつ、「落下防止」の魔法機能を発動させると、天井側にいくつかの落石が止まったまま、それ以外は崩れ落ちてラナート平原の光景が彼らの前に飛び込んできた。


 おお、と誰からか感嘆の声が漏れ、ゴーレムはそのままにして一同が自然と外へ駆け出る。折しも季節は夏。地底のヒンヤリした空気から、平原の夏の日差しが降り注ぐ環境に一同は暑さを感じたが、同時に平原の風も心地よい。


「やったんだな、俺達」

「ついに掘ってやったぜ!」

「とりあえずはベッドで寝たいわ」

「いや、まずは酒だろ!」


 団員達が口々に騒ぐ中、サレイアは異変にいち早く気がついた。


「おそらく方向からしてあっちがブルフォス村だと思いますが・・・・・・村が焼かれてますね」


 ガイアットが見ると、ブルフォスと思しき村のあちこちから、煙が上がっている。良く見ると、上空を飛んでいる何かも居るようだ。さらには、一同が見つめる中、村の入り口付近に突如として巨大な黒い竜が姿を現した。


「どうなってるんだ?」

「まさか氷帝竜か!?」

「いや、スフィルは白いって聞いたぞ、あれは違うだろう」


 団員達が戸惑う中、ガイアットが声を上げる。


「サレイア!お前はあれをどう見る?」


 サレイアは前に進み出て回答した。


「まず、あれは氷帝竜ではないでしょう。帝国軍の記録にある物とは、色が違います。そして今の状況ですが・・・・・・ブルフォス村はなんらかの襲撃を受けているようです。これは我々のチャンスです」

「チャンスだと?」

「我々もとりあえずは村に逗留したかったですし、最終的には村の譲渡や接収、もしくは占領を視野に入れています。ラナエスト王国と交渉するにしても、これは恩を売りつけるチャンスです。村にどれだけの防衛戦力があるか判りませんが、我々の手で少しでも怪物を退治する必要があります」


 判った、とガイアット団長は言うと、団員達に檄を飛ばす。


「聞いたかモグラども!戦闘準備急げ!ガイアート操作と内壁仕上げの魔法使いは残って作業継続!入り口の護衛に兵士3人!それ以外は全速力で怪物退治だ。槍共はグラーベン回収して走れ!行くぞ!」


 騎士団員達は各々動き出し、7本槍は魔法でグラーベンを取り戻すと鎧も着ずにそのまま、ブルフォス村目指して走り出すのであった。


 こうして、ラナート平原の動乱にソルスレート帝国地竜騎士団が参戦することとなったのである。トンネル開通と地竜騎士団の存在が、平原の動乱に拍車を掛ける事に、ラナエスト王国側は誰1人予想していないのであった。



 ソルスレート地竜騎士団が目撃した黒い竜は、悪魔ランサルムの仕業である。

 飛竜ワイバーン達と魔竜兵だけでは不利と感じて次の手を打つことにしたのが、邪竜神ロドンの手勢をさらに召喚することであった。

 魔竜兵の時とは違い、生け贄があるわけでも無いが、そこは条件付きで召喚を可能とするのだ。魔竜兵が呼び出してから半日と立たずに討たれて役に立たない。魔界へ戻る彼らの命と引き替えに、完全な状態でなくとも良いから手勢に助力させろという条件だ。


 そうして、描いた魔方陣を元に召喚呪文を唱えた結果、現れたのは邪竜神ロドンの配下、魔黒竜トシュレペである。本来よりも幾分、実体が薄い状態で現れたトシュレペは、ブルフォス村の対竜塔と同じくらいの高さの巨体を一対の皮膜翼を広げて浮かび上がらせ、自身の存在が確定するまで、ブルフォス村を睥睨し始めた。


 その異様は村中から注目を浴び、ブルフォス村を防衛中の冒険者達に絶望が生まれる。


「あんなでかいの、どうするんだ・・・・・・」

「無理だろ、流石にあれは」

「畜生、なんだってこんな連中が来るんだよっ!」


 スフィの戦う中央広場でも、ようやく飛竜ワイバーンと魔竜兵を仕留めた所に新たな敵である。周囲の冒険者からは落胆と絶望の声が聞こえだした。まだ侵略は途絶えていないというのに士気が下がるのは不味いとスフィが考えたその時。


「ほらほらみんな!あと少しだよ!」

「元気出して!あたしの踊りで、元気を分けてあげる!」

「怪我をしてる方は居ませんか?私はアイーシャ神の尼僧です!」


 住民の避難を行っていた、ラサヤ、リンネ、ミスティが戻ってきたのだ。ラサヤが早速、景気の良い短いリズムの軽快な曲を弾き始め、リンネがそれに併せて踊り出す。広場にいた冒険者達の疲労が、精神的にも肉体的にも癒やされ始め、何人かの治療をミスティが行い士気が戻り始めた事にスフィが一安心すると、ギルビーとミスティがスフィの前にやってきた。


「あのデカブツを退治せんとのう。手伝ってくれんか?」

「ふむ、良いだろう。だが勝算はあるのか?」

「広場まで誘い出せば対竜塔で地上に引きずり下ろせるじゃろう。後は頑張りようじゃ。幸い、竜殺しのツルハシなら沢山あるぞい」


 スフィは苦笑しつつもギルビーの言葉を認めたが、次の言葉でギルビーの作戦を修正した。


「誘い出しならばイアンが上手くやってくれるだろう。足の遅い我々がおびき出しに行くのは少し問題がある。我々はここで万全の体制を取ればそれでいいと思うぞ」


 スフィはそう言って周囲を見渡すと、折しもスカイボードに乗ったイアンがこちらに向かってきた。

 スカイボードを滑るように着地させたイアンが矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。


「スフィ!大丈夫か?あのデカブツはなんだ?」

「こっちは問題ない。対竜塔の方も上手くいったようだな」

「悪魔らしいのが居るようだ。それに魔法を掛けられて操られた結果の同士討ちだったらしい」

「ふむ、黒幕はそいつか。ともあれ、まずはあれをどうにかしないといかん」

「あれは何だ?」

「邪竜神ロドンの配下、魔黒竜トシュレペだ。強引な召喚だったのか、まだ存在がしっかり確定せずに影が薄いようだが、イアン、今のうちに攻撃を仕掛けて、後はこの広場におびき出してくれ。そうすれば全員で対処する」


 イアンは周囲を見渡した。二塔の対竜塔はもちろんのこと、見れば冒険者の集団パーティが6組ほどおり、こちらの方をチラチラと見かけている。


「よぉーしっ!みんな!今からあのデカブツ引っ張ってくるから、この広場で倒すぜ!」

「対竜塔の中に竜殺しの武器が閉まってある。使える者はそいつを持ってきておけ!」


 イアンとギルビーの呼びかけに冒険者達から気合いの入った応答が返ってくる。竜殺しの武器というフレーズに興奮しているものもいるらしい。まさかツルハシ限定とは思っていないのであろうが。


 イアンはスカイボードを踏むと、悪魔姿の敵が黒幕らしいので注意するように周囲に伝え、トシュレペ目指して発進した。


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