第7話 先輩と妹がヤンデレの片鱗を示した
俺からの告白を聞き、鹿内先輩は珍しく動揺した様子を見せた。
それもそのはず。
この1年間、絶対に揺るがない緑子への愛を語り続けていたから。
そんな一途な俺が、長年の恋を諦めた。
紅輝や茶夏丸、妹の瑠璃とさほど変わらない反応を見せる鹿内先輩。
しばらく言葉を探しているような様子で固まっていたが、将棋盤に視線を落として笑みをこぼした。
自分が勝ったことに気づいて喜んでいるんだろう。
「やっとあたしの番が来たみたいだね」
「え?」
「なんでもないよ」
もう将棋は終わっている。
俺の負けだ。
それなのに、まだ自分のターンがあると勘違いしているのか?
「いくつか質問してもいいかな?」
「なんでも聞いてください」
どうして緑子を諦めたのか。
まずはそれを説明する必要があるな。
「新しい恋、したい?」
予想外なところから投げられた、鹿内先輩の質問。
「……諦めた理由とか聞かないんですね」
「聞いてほしかったのかな?」
聞いてほしかったってわけじゃない。いちいち説明するのは面倒だし。
とはいえ、鹿内先輩に求められれば丁寧に説明するつもりだった。
「あたしが聞きたいのは、次の恋に移るつもりがあるのか、それだけ」
「……もう切り替えたつもりです」
鹿内先輩は俺の答えを聞いて目を細めた。
駒の配置をリセットしながら、静かに微笑む。
「紫音くんは可愛いね」
正座のまま、前屈みになる鹿内先輩。胸の谷間が強調されて目のやり場に困る。
髪の毛からふわっと流れてくる甘い香り。
「ちょっと無理して言っているように聞こえたけど」
「それは……」
「わかった。紫音くんが切り替えられるように、あたしが手伝ってあげる」
自信満々にそう言った鹿内先輩は、将棋盤を越えて俺の隣に座ってきた。
対局時の姿勢と同じ正座を作ると、スカートをぺらりとめくって太ももを見せてくる。そして、みずみずしい太ももをポンポンと叩き、俺を見た。
「頭をここに置くんだよ」
つまりこれは、膝枕ということか。
美人な先輩にしてもらう膝枕。
妹の瑠璃に自分が膝枕してあげることはあるが、年上の女性に膝枕してもらうことなんてない。
「いいんですか?」
「ダメだとしたら、ここまですると思う?」
「思いませんね」
断る理由はない。
鹿内先輩に膝枕してもらえるなんて、一生に一度の貴重な経験だ。
最初は男遊びが激しそうだと勝手に思っていた鹿内先輩。だが実際は、これまで恋愛というものをしたこともなければ、男子と深く関わったことすらないらしい。
普段の部活での男たらしな印象から考えると信じられないが、どうやら3年生の間では品行方正な清楚系美少女としてのイメージを保っているようだった。
「失礼します」
お言葉に甘えて、鹿内先輩の太ももに頭を乗せる。
スカート越しじゃない、生の太もも。
柔らかくてスベスベだ。
こういうことを考えているのは確かにキモいが、俺も男子だからしかたない。こればかりは大目に見てくれ。
俺の髪の毛が太ももに当たってチクチクするだろうに、鹿内先輩は嫌な顔ひとつせず俺を癒してくれる。
「幼馴染のことは、もう忘れようね」
頭を撫でながら静かに呟く鹿内先輩。
「今、紫音くんはあたしのことだけ考えていればいいんだよ」
鹿内先輩のおかげで気持ちが少し軽くなった。
穏やかな気分で、家の扉を開ける。
「おにぃ、おかえりなさい!」
扉を開けた瞬間、可愛い水色のワンピースを着た瑠璃が抱きついてきた。
いつもは玄関まで来ておかえりを言ってくれるだけで、抱きついてくることはない。
もしかしたら、瑠璃も瑠璃なりに気を遣ってくれているのかもしれない。長年の恋を諦めた兄を慰めようとしてくれているのかもしれない。
そう考えると、妹の優しさに感動して泣きそうになる。
「瑠璃は優しいな。でも俺はもう元気だから、そんなに心配しなくても大丈夫だぞ」
「違うんです。るーはいつも我慢してたんです」
「我慢?」
ペタッと頭をくっつけ、すりすりしてくる瑠璃。
頭をわしゃわしゃと撫でてやると、にゃーと鳴き声を上げた。
「これでやっと、るーがおにぃを独占できます」
無邪気な笑みを向けてくる瑠璃。
そんなピュアな笑顔を見せられると、こっちも自然と幸せな気分になってくる。
「よし、それじゃあ夜ご飯作るか」
「はい!」
威勢よく返事をした我が妹だったが、料理をするのは俺だ。
瑠璃は猫の手が得意なので、食材を切る作業だけは任せている。
とはいえ、それ以外の料理っぽいことは全部俺がやっているので、瑠璃はお手伝いって感じだ。
それでもすごくありがたい。
家族全員分の夕食を作って置いておく。
次は夕食前の掃除だ。
家の床全体に掃除機をかけ、散らかっているものを片づける。
「瑠璃、やっぱり部屋に入るのはダメなのか?」
瑠璃の部屋の前で立ち止まる。慌てて駆け寄ってくる瑠璃。
「おにぃだけは絶対に入ったらダメです! るーの部屋はるーが掃除します!」
そう。
瑠璃は中学に入ったくらいの時から絶対に部屋に入れてくれなくなった。
妹も思春期だし、俺に見せたくないものだってあるのかもしれないが……そんなに必死に拒絶されると、お兄ちゃん寂しいよ。




