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大好きな幼馴染を狙うライバルが現れたので、諦めようと思ったら幼馴染がヤンデレ化して激重感情を向けてきた。  作者: エース皇命


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第5話 幼馴染が徐々に病み始めた

 兎川(うかわ)先生が言ういつものところとは、他教室から隔離された位置にあるD教室のことだ。


 数学でクラス分けをした時、教室が足りなかった場合に使われるような教室。

 普段はまったく使われていないので、掃除当番を振り分けられている生徒もいない。


 廊下を歩く生徒たちの視線を気にしながら、D教室へのルートを歩く。


 俺が教室に入るところは誰にも見られなかったはずだ。


紫音(しおん)君、こっち来て」


 両腕を大きく広げながら、手招きしてくる兎川先生。


 彼女の裏の顔を知らない男子生徒なら喜んで胸の中に飛び込んでいくところだろうが、俺は違う。


「今日は何もしないから。ね、だからこっち来て」


 俺がここに来たのは、さすがに先生の指示を無視するわけにはいかなかったから。


 可能性はゼロに近いものの、重要な連絡をするために呼び出されたことだった考えられる。


 その可能性が捨てきれない以上、俺はD教室に足を運ぶしかない。

 だが、間違いなくこれはどうでもいい呼び出しだ。今この瞬間、それを確信した。


「もう帰ってもいいですか? 弁当食べたいので」


「お弁当なら、ここで食べればいいじゃない。なんなら先生があーんしてあげるけど」


 これが担任教師でなかったなら、喜んでいたかもしれない。


 今の俺は自由だ。

 長年の緑子(みどりこ)への想いを捨て、別の恋を探している段階なのだから。


 とはいえ、こんな教師と禁じられたロマンスを繰り広げるつもりはない。


「長い話ですか?」


「んー、それは紫音君次第かな~」


 兎川先生から一定の距離を取って椅子に腰掛ける。


 だが、そんなの無意味だ。

 ニヤッと笑った兎川先生は、まず教室の鍵を全部閉め、カーテンを閉め、このD教室を俺専用の監獄へと生まれ変わらせた。


 密室に美人教師と二人きり。


 俺に常識がなければ、興奮していたシチュエーションなのかもしれない。


「さて、紫音君が落ち着いたところで、恋バナを始めましょうか」


 やっぱりそう来たか。


 俺がこのD教室に呼び出されるのはこれで四度目だ。

 そのたびに緑子との進展を聞かれる。


 実はこの淫乱教師、2年が始まってすぐの頃は俺に手を出そうとしてきていた。


『わたし、生徒に手を出すことが趣味なの』


 いきなりD教室に呼び出されたかと思うと、ブラジャー姿の兎川先生に押し倒される。あの出来事はここ数年で1番の恐怖だった。


『俺には好きな人がいるんです!』


 とっさに出た言葉は、緑子への想い。

 それから俺は自分がどれだけ緑子のことが好きなのか熱弁し、気づけば兎川先生は驚いた表情で固まっていた。


『そっかぁ。好きな子がいる男子に手を出すほど終わってる人間じゃないから、わたし』


 もう十分終わってる人間だと思ったが、何も言わない。というか怖くて何も言えない。


『それじゃあ、紫音君の恋を応援してあげる』


 というわけで、それ以来俺を昼休みに呼び出して恋バナをするというのが、兎川先生のちょっとした楽しみになってしまった。


 教師という仕事はストレスが溜まるらしく、生徒に手を出さないとやってらんないとのこと。


 俺が今までの人生で出会ってきた人の中で、最もヤバい人間である。


「最近はどうなの? 大好きな緑子ちゃんとは」


 教室の外でガタンという音がした。

 立てかけてあったモップが倒れたのかもしれない。


「そのことなんですけど、もう諦めました」


「……え? なんで?」


「いろいろあって」


 担任教師に自分が緑子を諦めた経緯をいちいち話したくはない。


 だが、相手は社会不適合者。

 気を遣って深く聞いてこない、なんてことは起こり得ない。


「そのいろいろ(・・・・)が知りたいな~」


「言いませんよ、そんなこと。もう諦めたので、次の恋愛に進もうかなって思ってるところです」


「ふぅーん」


 人が恋を諦めたというのに、兎川先生はなんか嬉しそうだ。


「それをわたしの前で言うってことは、わたしに食べられたいってことかぁ」


「それはないです」


「まだ20代だし、若くて上質な体だと思うけど」


「犯罪ですよ」


「よくわかってるね、紫音君は」


 悪魔のような先生だ。

 教育委員会とかに訴えればこっちの勝ちだな。


 でも訴えようと本気で思わないのは、生徒に手を出すところを除けば生徒想いのいい教師だからだろうか。


「今日はすごく面白いこと聞かせてもらったから、これでおしまい。今度デートしましょうね」




 ***




 D教室の前。

 施錠されたドアに耳を当て、中での会話を盗み聞きしている女子生徒がいた。


 犬飼(いぬかい)緑子。


 紫音が長年片想いしていた幼馴染である。


 紫音と話をするため、昼休みが始まってからずっと紫音をさがしていたのだが、まさか人気(ひとけ)のない場所で担任教師と密会しているとは。


『最近はどうなの? 大好きな緑子ちゃんとは』


 急に出てくる自分の名前。しかも――。


 ――大好きな緑子ちゃんって……紫音は私のことが好きだったってこと?


 衝撃の事実。

 話を聞いたところによれば、つい昨日までずっと緑子が好きだったという紫音。しかし、何がきっかけだったのか急に諦めてしまった。


 ――どうしてなの……?


 緑子の中にモヤモヤが広がる。


 そのモヤモヤは、緑子の心を徐々に(むしば)もうとしていた。

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