第4話 絶対エロい担任教師に誘惑された
ずっと一緒に過ごしてきた、幼馴染の猫山紫音。
緑子は紫音から急に素っ気ない態度を取られ、困惑していた。
昨日まではいつもと変わらなかった。
一緒に電車で通学し、朝の時間に廊下で顔を合わせ、紫音の部活がない日は一緒に下校する。
その繰り返しだった。
それなのに、今朝から紫音は素っ気ない。
『なんか今日から朝の時間が忙しくなったっていうのか……電車を遅らせないといけないくらいやることが増えたから……先に行っててくれないか?』
『……わかった』
あの時は素直に頷いた緑子だったが、実は内心困惑していた。
本当に忙しくなったという可能性もあるが、どこか言い訳をして自分を避けているような気がしてならない。
普段感情を表に出すことのない緑子。
紫音には素っ気なく見えたあの返事も、実は動揺した末に絞り出した言葉だったのだ。
本当は何もわかっていない。紫音と一緒に通学することが日常の一部になっていた緑子にとって、紫音の先に行ってくれ宣言はダメージが大きかった。
――私のこと、嫌いになった……?
教室に戻り、思考を巡らせる。
緑子に話しかけてくる生徒は誰もいない。
無視されているわけでもハブられているわけでもないが、緑子はどこか近寄りがたい雰囲気を無意識に出してしまうようだった。
これまではまったく気にならなかったこの状況。
教室に話す人がいなかったとしても、紫音がいる。
だからこそ、彼女はこれまで孤独を感じることなく学校生活を送ってくることができた。
だが、今は唯一の友達である紫音からの態度も素っ気ない。
――紫音と話さなきゃ。
緑子はグッと小さくこぶしを握る。
机の下でやっているだけので、誰も見ていないし、気づいていない。
緑子にとって、紫音は大切な存在だ。
幼馴染という関係以上の存在であると言っていいだろう。
しかし、紫音と会話をする時、緑子は少し緊張してしまう。
昔は気楽に話すことができる幼馴染だったのに……いつ頃からだろうか。
中学に上がってから、紫音は大きく変わった。背も自分より高くなり、声が少し低くなり、そして何より、女子から異常にモテるようになった。
紫音に直接告白したことがある人はそこまで多くないが、実は紫音のことが好きだとか気になっているとかいう女子は山のようにいた。
更衣室で紫音がかっこいいという話をしていた女子たち。
紫音が風邪で学校を休んだ日は、自分がプリントを届けに行くんだと主張する女子も多かった(結局家が近いということで緑子が持っていくことになるが)。
本人はモテることなど気にしている様子はなかったし、モテたいという様子もなかった。
無論、それはずっと緑子に片想いをしていたからだが、緑子がそんなことを知るはずもない。
恋愛に興味がないものだと、勝手に解釈していた。
――今日中に聞かないと……。
授業が始まっても、緑子の不安はずっと続いていた。
***
3限目の授業は英語だ。
担当教師は担任の兎川先生。
可愛らしい顔立ちをしていながら、大人っぽい魅力を併せ持つ大人気の女教師である。
大学時代にカナダに1年間留学していたとのことで、発音はいい。
俺が先生の発音がいいとか悪いとか判断できる理由は、俺自身も1ヶ月だけではあるがアメリカに留学経験があり、英語には自信があるからだ。
小4から英会話教室に通い、家での勉強も重ねたことで、英語が得意と言えるようになった。
英検準1級を持っているし、日常会話やちょっとした討論くらいは余裕でできる。
「紫音君、前に来て問3の答え書いてくれる?」
兎川先生に言われ、前に出た。
この人はたまにこういうことがあるから面倒だ。
しかも、俺のことを気に入っているのか、最初に名前を呼ばれるのは必ず俺。
それを羨ましいとか言ってくるクラスメイトは多いが、それなら代わりにお前が問題に答えてくれって感じだ。
「紫音君、今日いつもより楽しそう。何かあった?」
「そう見えますか?」
兎川先生が俺を前に呼ぶ時は、だいたい何か言って絡んでくる。
だが、今日の一言はある意味確信を突いていたかもしれない。実際、今の俺は結構晴れやかな気分だ。
「今まではきつく縛られてたけど、ようやく解放されて自由になりましたって感じ」
「ある意味そうかもしれません」
「え、わたしの考察正解だった?」
はい正解ですとは言いたくない。
口を閉じたままホワイトボードの記入に集中していると、兎川先生が急に耳元に顔を近づけてきた。
「縛りプレイも楽しいんだけどね」
あ、この人やっぱりダメだ。
俺にしか聞こえてないからって、下ネタとして受け取れるようなことを授業中に言わないでほしい。けしからん。
答えを書き終わったので、兎川先生のウザい絡みと下ネタから逃げるためにホワイトボードに背を向ける。
だが、兎川先生は俺を逃がしてくれなかった。
「ついでにもう一通りの答えも書いてみて。紫音君なら余裕でしょ」
「……」
無視するわけにはいかない。
再び耳元に近づく兎川先生の口元。
「昼休み、いつものとこに来て。楽しいこと、しましょうね」
あんたとだけは普通に嫌です。




