第16話 ここに来て幼馴染を拒絶した
紅輝と茶夏丸は紫音を見捨てたわけではなかった。
「僕たちではどうもできない。誰か呼ぶべきだと思うんだけど……誰がいいかな?」
「担任か?」
廊下を走りながら、紫音と緑子の問題に介入できそうな人物を考える。
「先生を呼んだらかなりの大問題に発展するだろうから、紫音も困ると思うんだ。だから紫音の妹さんとか――」
「そうか! あの子なら犬飼のことも知ってるだろうし、仲介できる!」
「学校を出てないことを願いたいけど……」
瑠璃の教室である1年4組に向かう二人。
だが――。
「誰もいねぇな。もうとっくに施錠してある」
「少し遅かったみたいだね」
「次は誰だ? あの先輩か?」
「アナログゲーム部の鹿内先輩……話したことはないから緊張するけど、時間がないからね。行ってみよう」
次に向かうのはアナログゲーム部の部室だ。
大慌てで廊下を駆け抜け、部室のドアを開ける。
「紫音くん――じゃ、ないみたいだね。何かあったの?」
今日こそは紫音を拘束して部室に監禁しようと気合いを入れていたみかん。しかし、部屋に入ってきたのは関わりのない男子生徒二人。
だが、彼らが紫音と同じクラスの友人であることは知っていた。
だからこそ、紫音の身に何か危険が迫っているのではないか。
みかんの直感は紫音の危機を捉えた。
***
「何をしてるのかな?」
目をつぶり、諦めようとしていた。
もう緑子を止めることはできない。彼女をここまで闇堕ちさせてしまった俺にも責任はある。
だからこそ、彼女の愛を受け止めることだけはするべきだ、と。
だが、ここで思わぬ邪魔者が登場した。
俺は地面に押し倒された状態のまま、勢いよく開けられたドアから入ってきた人物――鹿内先輩に視線を送る。
「鹿内先輩……」
「紫音くん、これは本当にキミが望んでいることなのかな?」
「……」
「そして犬飼さん、紫音くんのことを本気で好きなんだとしたら、今の彼の顔を見て」
第三者の介入により、少しだけ冷静になる緑子。
落ち着いた呼吸に戻りながら、ゆっくりと俺の顔を見つめてきた。
「紫音……」
緑子の指が震えている。
瞳が揺れている。
「ごめん、私……紫音に酷いことを……」
「いや、俺も悪かったし――」
「ううん、私が悪い。紫音は嫌がってたのに、無理やり犯そうとした。そうだよね。紫音は嫌がってた。私のことを拒絶してるんだよね」
「……」
否定しようと口を開いたが、否定できない。確かにさっきの俺は恐怖で動けなくなっていた。
だからこそ、彼女の重すぎる愛を受け止める器ではないことが証明された。
そんな俺に、嫌じゃないとか、これからも仲良くしてくれとか言う権利はない。そんな気がする。
「紫音くん、部活あるから行こっか」
「でも……」
緑子の馬乗りから逃れ、立ち上がった俺。
鹿内先輩に手を引かれ、部屋の外に誘導される。
「いいよ、紫音。行って」
「緑子……」
俺を見送る緑子は寂しそうな顔をしていた。そんな幼馴染を放っておくわけには――。
「いいから……この教室から出ていって」
結局、沈んだ表情の緑子を放置したまま、先輩に引っ張られることしかできなかった。
「鹿内先輩……どうして来たんですか?」
「それはどういう意味かな?」
「いや……なんで俺たちがあの教室にいるってわかったのかなと思って」
「紫音くんの友達二人に聞いたんだよ。相当焦ってたみたいだったから、久しぶりに廊下を走っちゃった」
お茶目な笑みを見せる先輩。
あの二人のおかげで、俺は童貞を守り抜くことができたというわけか。明日礼を言っておこう。
「それで先輩……まさか部室に行くつもりですか?」
鹿内先輩は当然でしょと言うように頷く。
だが、今日から部活動は禁止のはずだ。
部室棟に入ることはできるようだが、どうやって部室の鍵を――。
「紫音くん、あたし、悪い生徒なんだ」
「……」
「部室の鍵、職員室からこっそり拝借したんだよ」
それは結構ガチで悪い生徒だな。というかもうバレてるだろ。
「呆れた顔してるね。でも大丈夫、今日は昨日よりずっと楽しいゲームを用意したから」
だが――。
結果として、俺たちは生活指導の先生から厳しく怒られた。
部室の前に行ったら先生が待ち構えていたのだ。
ブチ切れ説教を一緒に受け、ほぼ罪のない俺だけが先に解放された。
まあ実際、鍵を勝手に拝借したのは先輩だし、俺はその先輩に引っ張られてきただけだ。理不尽に怒られるのには納得がいかない。
テスト勉強もあるし、早速帰ろうかと思った矢先、スマホにメッセージの通知が来る。
「……先輩」
生徒指導室で怒られているはずの先輩。
こっそりスマホをいじってるのか。不良だな、鹿内先輩。3年生の間では品行方正な美少女ってことで通っているのが不思議でたまらない。
不良の道を順調に歩んでいる先輩に呆れながら、メッセージを確認する。
《テストが終わったら、カフェ行こっか》
《カフェでボードゲームするから、部活動の一環だよ》
《だから部員の紫音くんとしては、参加する義務があるね》
《デート、楽しみにしてるね》
説教を受けながらこれだけの文章が打てることに、俺はある意味感心していた。




