第12話 幼馴染と妹の闇に恐怖を感じた
窓の外に闇堕ち緑子がいた。
恐ろしいのは、こっちを凝視しながらノールックでスマホに文章を打ち込んでいるところだ。
慌てて窓のブラインドを閉め、ベッドに尻もちをつく。
リアルタイムで更新されるグリーンガールというアカウントのツブヤキを確認してみると――。
《今、ちょっとだけSの顔が見えた。私からの愛が窓越しに届いたってことなのかな》
《やっぱり私を愛してくれてる。愛してるって言ってほしい》
《私だけはずっとSのそばにいるから。どんな時もずっと。精神的な意味じゃなくて、物理的な意味で》
付き合いの長い幼馴染の暴走。
心配ではあるものの、恐怖が強すぎて彼女をフォローしてやることができない。
トントントン。
俺の部屋のドアが叩かれる。
トントントン。
まさかこれは――。
お化けにビビる肝試し初心者のように、震えながら部屋のドアに近づく。
そして――。
「うわぁ!」
「おにぃ、大丈夫ですか?」
緑子が家に侵入してきたはずないのに、緑子かと思ってビビる俺。それを妹に見られていたなんて、恥ずかしい。
結局、ドアを叩いていたのは妹の瑠璃だった。
普通に考えたらそうなるのはわかるが、さっき人生の中でも上位クラスの恐怖体験をしたばかりだからな。
「どうしたんだ?」
「寂しかったので、おにぃの部屋に来ちゃいました」
えへへって感じでにこっと笑う瑠璃。
やっぱり可愛いな俺の妹は。
ミディアムボブの頭を優しく撫で、そのままギュッと抱きしめる。
「にゃー」
子猫みたいだ。
「さっきは怯えてる感じに見えたんですけど、何かあったんですか?」
「いや……ちょっと怖い動画観ちゃってな」
「怖い動画ですか? るーは怖いの苦手だから泣いちゃうかもです」
「そうだな。瑠璃は怖いの無理だもんな」
「えへへ」
いつもと変わらない妹を見ていると癒される。瑠璃をハグしたことで、いくらか気分が落ち着いた。
そして改めて緑子のツブヤキを確認する。
《Sって、今好きな人とかいるのかな? だから私のことを避けるようになったの?》
《だとしたら、その女が悪い。そうに決まってる。Sも私も被害者。私はSの唯一の味方だよ。だからずっと一緒にいようね。これまでよりもずっと近くで》
暴走するグリーンガール。
しばらく更新を眺めていると、彼女のツブヤキに返信をする勇者が現れた。
《Sが好きなのはるーです。Sにこれ以上近づかないでください。Sも怖がっています》
……。
俺に背中をくっつけながら、コソコソとスマホをいじっている瑠璃に視線を送る。
まさか、そんなはずはない……よな?
「瑠璃、今何してるんだ?」
「最近流行ってるゲームをしちゃってます」
「そっか。しちゃってるのか。それって……どんなゲームなんだ?」
「自分の大切な人を襲う害虫を駆除するゲームです。すごく楽しいので、おにぃも一緒にやりませんか?」
「犬飼さんへの恋を諦めて、どんな感じ?」
「いろんな変化がありましたね……」
放課後の部室。
昨日はこれまでの人生で最大の恐怖を味わったが、部室で先輩といるこの時間は穏やかで落ち着く。
たまにドキドキさせてくることもあるが、アナログゲームは楽しいし、毎回新しいルールを教えてくれる鹿内先輩。
今日のゲームはリバーシ―だ。すでに3つの角を取られているので、俺の負けがほぼ確定している。
「いろいろな変化……具体的には、どういう変化なのかな?」
「緑子は多分俺のことが好きで……だから俺が恋を諦めたって知っておかしくなっちゃって……それで――」
「なるほど。確かにいろいろ大変だね」
ここで、鹿内先輩の勝利が確定する。
リバーシ―では一度も先輩に勝ったことがないので、また負けたかって感じだけども。
「紫音くん、犬飼さんのことはもう諦めたんだよね?」
「……はい。そうですけど」
「それなら、中途半端な気持ちで犬飼さんと向き合うのは、彼女に対しても他の人に対しても失礼だと思うな」
「……」
「あたしは覚悟を決めた紫音くんが見たい。紫音くんには、犬飼さんよりもふさわしい女性がいると思うよ」
「そうですかね?」
鹿内先輩のミステリアスな瞳が俺を見つめてくる。
心の内側まで見られている感じだ。
今、俺は自分の覚悟のなさを指摘された。確かに先輩の言う通りだ。
紅輝たちと話したように、今度しっかりと緑子に謝りにいこう。
それで、緑子とは今まで通りの幼馴染という関係に戻る。そう簡単に上手くいくとは思えないが、やってみなければわからない。
「紫音くん、実はあたし、新しいゲームを作ってきたんだけど一緒にする?」
「新しいゲーム? 先輩が作ったんですか?」
ふふっと微笑んだ鹿内先輩。
楽しそうな表情のまま、カードの束を取り出した。
「このゲームのタイトルを教えてあげる」
その名も、『命令に従わないと対戦相手とキスするゲーム』。
意味がわかるようでまったくわからないゲーム名を口にした鹿内先輩は、誇らしげな顔でルールの説明を始めた。




