第11話 幼馴染がヤンデレストーカーになった
中間テストが近づいてきた。
5月末の3日間で、合計10科目のテストを行う。
高校2年生になって文系を選択したことで、勉強する科目も文系中心になった。理系科目の方が計算問題や思考問題は多いのかもしれないが、暗記量はこちらの方が多い。
特に世界史が問題だ。
漢字よりカタカナの方が覚えやすいと思って世界史を選択したが、いろいろと後悔している。
「紫音って世界史選択だったよな? 難しいって聞いたが、実際どうなんだ?」
昼休み。
一緒に弁当を食べている紅輝が聞いてきた。
ちなみに紅輝は日本史選択、茶夏丸は地理選択だ。
いつも仲良くしている3人とも、別の科目を選択した。
それぞれの得意不得意はあるのかもしれないが、担当の先生や試験範囲の広さを含め、誰の選択科目が当たりだったのか。
「先生の期待度が高くて、いろいろと困ってる」
「そりゃあそうだろ。紫音はどの科目でも学年1位だからな」
「これまで頑張ってきたから成績は維持するつもりだけど……なんかなぁ」
「もしかして、犬飼さんを諦めたことでモチベーションが下がってるのかい?」
ここで茶夏丸が口を挟んだ。
少し気まずそうな表情をしている。
「んー」
なんとも言えなかった。
小学生の頃から、テストにしろ何にしろ、1位を維持している。不動のトップとして注目されてきた。
1位になるために努力を重ねるのは当然のことであって、誰かのためにやることではない。
「それは違うな。俺がしている努力は、やっぱり俺のためのものだ」
「……そっか」
安心したように溜め息をつく茶夏丸。
俺が緑子を諦めるきっかけを作ってしまったのが紅輝と茶夏丸だ。だから責任を感じているのかもしれないが、二人は何も気にする必要がない。
全ては俺の問題であり、俺の責任だ。
「話は変わるが、この前こんなツブヤキ見つけたんだけどよ――」
スマホを操作して、ある画面を見せてくる紅輝。
そこには、ツブヤクというアプリの画面があった。
思っていることを短い文章で呟いていくという流行りのアプリだ。
「――ここに書いてある幼馴染の同級生Sって……紫音のことだろ、絶対」
そこには、グリーンガールというアカウントのツブヤキが。
《Sのこと、死ぬほど愛してるのに、もう遅かった……》
《ずっと一緒にいた私のことより、他の女に惹かれているのが許せない》
《私って魅力ないよね?》
《でも、Sは元々私のことが好きだったんだって……》
《Sが私のことを諦めるきっかけを作った人、〇す》
「ヤバいな。オレたち殺されんのか?」
「謝りにいった方がいい流れだよね……」
確かにこれは緑子だと確信できる内容だ。
これによると、悪いのは俺たち3人だな。
他の女に惹かれている――わけではないものの、とりあえず鹿内先輩にデレデレしていた俺。
俺が緑子のことを諦めるきっかけを作ってしまった紅輝と茶夏丸。
これ、完全に俺たち3人が悪いよな……。
「紫音、頼むから変に切り替えたりしないで、これまでの想いを犬飼にぶつけてやってくれないか?」
「そう言われても……実は俺、気づいたんだ」
「は? 何に?」
「これまで緑子のことを好きだって思っていたのは、単なる友達としてというか……幼馴染として好きだったわけで、異性として好きだったわけじゃないなってことに」
「……マジかよ。多分それ血迷ってるだけだって。あんなに可愛くて魅力的な幼馴染のこと、異性として好きにならないなんておかしいだろ」
緑子のことを褒めるのに必死だな、紅輝。
だが、緑子はそれだけ魅力的な幼馴染であり、俺が彼女のことを好きなのは変わりない。
「僕たちからも説明するから、犬飼さんと冷静に話す機会を設けた方がいいのかもしれないね」
茶夏丸の的確なアドバイスに、俺と紅輝は頷くしかなかった。
家に帰り、部屋にこもってツブヤクの投稿を確認する。
昼には軽く流す程度でしか見ていなかったが、もう少しちゃんと読んでみることにしよう。
《この前、Sが家に来た。私が学校を休んでいたからプリントを届けにきたみたいだけど、気づいたら逃げられてた》
あ、これはやっぱりまずかったか。
緑子の不安を煽るようなことに繋がったのかもしれない。
《なんで逃げるの? 私って怖い? Sのことを本気で想う気持ち、間違ってるかな?》
《正直、他の女としゃべらないでほしい。お母さんとかだったらいいけど、妹のRちゃんは可愛いからしゃべったらダメ》
瑠璃と話すことも許されないとは。
これは大問題だ。
《Sのことは何でも知ってる。好きな食べ物も、好きな色も、今日履いているパンツのメーカーも知ってる》
あれ?
急に寒気がしてきたぞ。
《今もちょうどSの部屋の窓を見つめてる。気づいてくれないかな》
慌てて窓に視線を送る。
この投稿は10秒前のものだ。
つまり、今も緑子はこの窓をずっと見つめているんだろうか。
ブラインドをずらし、チラッと外を確認する。そこにはなんと――。
「……」
俺の部屋の窓を凝視しながら、スマホにツブヤキを打ち込む緑子の姿があった。




