第7話 完成前夜
朝。
「今日は、屋根の最後です」
紫鶴は、そう言って和室に入った。
白鷺城は、もう城と呼べる形をしている。
※
通学路。
「……今日は、完成しそうだな」
「はい」
それだけで、少し空気が変わった。
※
教室。
「真坂」
担任に呼び止められた。
「最近、三崎と関わっているそうだな」
「……はい」
「問題は起こすな」
「分かってます」
それ以上は言われなかった。
※
昼休み。
紫鶴とすれ違う。
小さく、親指を立てる。
彼女は、ほんの少しだけ笑った。
※
放課後。
今日はバイトがない。
いつもより早く帰る。
和室の戸は閉まっていた。
中から、コツコツと小さな音。
※
「……終わりました」
夜。
紫鶴が、そう言って出てきた。
和室に入る。
そこにあったのは――
白い城。
まっすぐな壁。
重なった屋根。
細かい窓。
ぐちゃぐちゃだった部品は、もうどこにもない。
「……完成だ」
「はい」
紫鶴は、少し誇らしげだった。
※
和室の机の上にそびえる白鷺城。
白鷺城は、部屋の真ん中で光っていた。
「お父さん、喜びますね」
「……ああ」
声が、少しだけ詰まった。
※
夕飯。
「先輩」
「ん?」
「完成したら……」
「?」
「ここに、いちゃいけない気がして」
箸が止まる。
「……どういう意味だ」
「城、先輩のものですよね」
「……そうだ」
「なら、役目は終わりかなって」
俺は、白鷺城を見る。
父の遺品。
紫鶴の居場所。
俺の部屋。
全部、同じ場所にある。
「……城は完成したけど」
「?」
「ここは、まだ完成してない」
「……?」
「部屋も、生活も」
「……」
「だから」
少し考えてから言う。
「まだ、いていい」
紫鶴は、驚いた顔をした。
それから、ゆっくり笑った。
「……じゃあ、もう少し、組み立てます」
「城は完成したぞ」
「生活のほうです」
※
その夜。
和室の灯りは消えていた。
白鷺城だけが、静かにそこにあった。
父が途中で止めた城。
紫鶴が完成させた城。
俺が、毎日見る城。
完成したのは、模型だけだ。
俺たちの関係は、まだ途中だった。




