第8話 休日と、閉じた襖
日曜日。
目を覚ますと、家の中が静かだった。
「……紫鶴?」
台所にも、リビングにもいない。
和室の襖だけが、閉まっている。
※
昼過ぎ。
俺は買い物袋を提げて帰ってきた。
「ただいま」
返事はない。
和室の前に立つ。
「……出かけたのか?」
襖に手をかけて、止める。
覗かない約束は、もう必要ないはずなのに、なぜか躊躇した。
※
しばらくして、襖が開いた。
「……先輩」
紫鶴が、ゆっくり顔を出す。
「どうした?」
「……ちょっと、考え事です」
そう言って、和室に戻ろうとする。
「……城、完成しただろ」
「はい」
「なら、今度は何を作ってるんだ」
紫鶴は、少し困った顔をした。
「……何も」
「……?」
「ただ……ここに、座ってただけです」
畳に目を落とす。
「……静かで、落ち着くので」
※
昼飯は、簡単な焼きそばだった。
「学校、どうだ」
「……普通です」
「噂は」
「もう、あんまり」
箸が止まる。
「……でも」
「?」
「帰る場所があるって、言えないんです」
「……」
「先生にも、友達にも」
紫鶴は、麺を見つめたまま言った。
「言ったら、なくなりそうで」
※
午後。
俺は白鷺城が載せられた机を拭いていた。
ほこりが溜まりやすい。
「……綺麗ですね」
紫鶴が後ろから言う。
「父さんが好きだった」
「……分かります」
城を見る。
「形があると、安心します」
「……形?」
「完成してるって、証拠だから」
少しだけ、声が震えた。
※
夕方。
紫鶴は、急に制服に着替え始めた。
「……出かけるのか」
「はい」
「どこへ」
「……ちょっと」
リュックを背負う。
「すぐ、戻ります」




