場所じゃなく心を探す
「ハァ……ッ、ハァ……ッ……」
「クソ……いねぇ……」
息が焼ける。
肺が痛い。
ランは二年二組の前で、
膝に手をついた。
去年の教室。
あの頃、
毎日のように過ごしていた場所。
ドアを開ける。
静まり返った教室。
机。
椅子。
黒板。
窓際のカーテン。
全部、覚えている。
――なのに。
「……いない」
教卓の下。
ロッカー。
カーテンの裏。
隅から隅まで確認する。
それでも。
涼香は、
どこにもいない。
「二年生じゃ……ないのか」
外した。
たった一文字。
『二』
それだけを頼りに、
ここまで走ってきた。
時間だけが、
無駄に過ぎていく。
開始から二十分。
次のヒントまで、
もう残り少ない。
「……クソ」
ランは近くの椅子を引き、
乱暴に腰を下ろした。
呼吸を整える。
焦るな。
考えろ。
走るだけなら、
誰にでもできる。
「なんで……“二”なんだ」
タブレットを見る。
表示されているのは、
たった一文字。
『二』
二年。
二組。
二階。
二人。
二回。
候補はいくらでもある。
だからこそ、
分からない。
ランは目を閉じた。
視点を変えろ。
場所じゃない。
“涼香だったら”。
涼香なら、
何を考える。
何を伝える。
もし自分が、
見つけてもらう側だったら。
疑問のテーマを、涼香の思考にフォーカスする。
「……視界がないなら」
ぽつりと、呟く。
「五感を使う」
寒い。
暗い。
匂い。
音。
足元の感触。
そういうものなら、
現在地を伝えられる。
でも。
“二”は違う。
数字だ。
「……見えてるのか?」
ランが顔を上げる。
見えて“しまっている”のか。
「……いや」
違う。
仮定を増やしすぎるな。
見えているかどうかすら、
分からない。
「数字を伝えたい……?」
「それとも」
「数字で、何かを……」
答えが出ない。
考えるほど、
可能性だけが増えていく。
「……駄目だ」
天井を見上げた。
分からない。
そして。
その事実が、
思った以上に悔しかった。
「何を伝えたいんだよ……」
少し間を置く。
「涼香ちゃん」
名前を口にした瞬間。
胸の奥が、
僅かに痛んだ。
分からない。
涼香のことが。
好きなはずなのに。
一緒にいたはずなのに。
笑った顔も知っている。
怒った顔も知っている。
泣きそうな顔も。
自分のために本気で怒ってくれた声も、
覚えている。
なのに。
たった一つ。
彼女が送った言葉の意味すら、
分からない。
「……俺」
何を見てたんだ。
その言葉は、
声にならなかった。
柊の後ろばかり見ていた。
勝ちたい。
追いつきたい。
強くなりたい。
ずっと、
そんなことばかり考えていた。
じゃあ。
その間。
涼香のことを、
どれだけ見ていた?
「…………」
答えられない。
その事実が、
静かに心を削っていく。
まるで。
自分だけが、
置いていかれているみたいだった。
その時。
ピロン。
無機質な音が、
静かな教室に響いた。
ランが顔を上げる。
時間だけは、
待ってくれない。
タブレットを見る。
ヒント②
「夢」
「…………………は?」
しばらく、
声すら出なかった。
『二』
そして。
『夢』
「…………」
繋がらない。
二年の夢?
二人の夢?
二つの夢?
夢を見た場所?
将来の夢?
いくら考えても、
一つの場所に辿り着かない。
「なんだよ……これ……」
立ち上がる。
教室を歩く。
もう一度、
タブレットを見る。
『二』
『夢』
意味がない。
いや。
違う。
意味がないんじゃない。
意味がありすぎる。
だから、
分からない。
「涼香ちゃん……」
ランは、
画面を見つめた。
何を考えてる。
何を伝えたい。
俺に、
何を分かってほしい。




