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春一つ、やり直せたなら  作者: タナカ


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駆け上がれ青春

体育館のボルテージは、最高潮に達していた。


一斉に走り出していく男子長たち。

 

それを見送る生徒たちの声が、渦のように体育館を包み込む。

 

「行けぇ!!」

「絶対見つけろよ!!」

「頼むぞー!!」

 

自分たちの後夜祭。


最後のダンスパーティー。


その開催が懸かっている。


男子長だけの勝負じゃない。


三年生全員の高校生活最後の祭りが、

ここから始まる。


そして。


その熱をさらに煽るように――


体育館の照明が、僅かに落ちた。


「おぉ……」


壁一面に、

巨大な映像が映し出される。


校舎。


廊下。


階段。


中庭。


グラウンド。


学校中に設置されたカメラの映像が、


いくつもの画面に分割されて映し出されていた。


走る男子。


階段を駆け上がる男子。


すでに外へ飛び出している男子。


そのすべてを、

体育館から見ることができる。


まるで――


ライブビューイングだ。


「……すっご」

 

ランは思わず足を止めた。


今、

何が始まろうとしているのか。


その規模に、

ほんの少しだけ飲み込まれる。


「何してんだ!!」


後ろから声が飛ぶ。


「ラン!! 行けよ!!」


「……あぁ」


我に返る。


「行ってくる」


床を蹴った。


体育館の出口へ向かう。


その途中。


まだ動かず、

一人で思考を巡らせている男の横を通った。


柊。


視線だけが、

一瞬交わる。


言葉はいらない。


一年目。


二年目。


何度も競ってきた。


だから分かる。


語るのは――


勝負のあとだ。


ランは体育館を飛び出した。



――

「どうするか……」


体育館を出て数分。


ランは校舎を歩いていた。


周囲では、

男子長たちが必死になって走り回っている。


片っ端から教室を開ける奴。


廊下の端から端まで確認する奴。


すでに階段を駆け上がっていく奴。


様々だ。


その中で。


ランだけは、歩いていた。


教室の中を覗く。


いない。


階段の踊り場を見る。


いない。


廊下の先を見る。


いない。


“いたらラッキー”。


今は、その程度でいい。


「闇雲に探しても無理だろ」


学校は広い。


それに。


女子長がどういう状態で隠されているのかも、

詳しくは明言されていない。


見える場所にいるとは限らない。


教室とも限らない。


外とも限らない。


なら。


探し方を一つ間違えれば――



最後まで見つからない。



「やっぱ……ヒントが肝だな」


この勝負。


必要なのは、

戦略。


体力。


そして。


少しの運。


「ただな……」


一つだけ、

引っかかっていることがある。


柊だ。


あいつは一度、

この高校生活を経験している。


もし。


以前の世界でも、

同じ長祭が行われていたのなら。


競技内容を知っていたら。


隠し場所まで覚えていたら。


「…………」


勝ち目がない。


まして、

前の世界でも柊が出場していたのなら。


勝負にすらならない。


「……いや」


ランは頭を振った。


違う。


そんなことを考えても、

答えなんて出ない。


前の世界で何があったのか。


今回と同じなのか。


柊が何を知っているのか。


全部、

自分には分からない。


だったら。


「たらればで考えてたら、負ける」


足を止める。


拳を握った。


「可能性は全部切り捨てろ」


今までの自分なら、

柊の後ろを追ったかもしれない。


柊ならどうする。


柊はどこにいく。


そんな風に考えていた。


でも。


今日は違う。


これは、

俺の勝負だ。


「今ある情報だけで、考えろ」


その瞬間。


ピロン。


タブレットが鳴った。


ランの目が変わる。


来た。


最初のヒント。


画面を見る。



ヒント①



『二』



「……は?」


一文字。


たった、それだけ。


ランは数秒、

画面を見つめた。


そして。


「……賢いな」


思わず笑った。


広い。


広すぎる。


二年。


二階。


二組。


二回。


二人。


意味なんて、

いくらでも作れる。


でも。


「一番素直に取るなら――」



二年生。



まず浮かんだのは、

それだった。


だが。


すぐに別の疑問が生まれる。


女子長が、

今いる場所を確認できている保証はない。


目隠しされたままかもしれない。


外が見えない場所かもしれない。


もしそうなら。


現在地を示すヒントなんて、

そもそも出せるのか?



「……違うか?」



思考が揺れる。


二。


たった一文字なのに。


考えれば考えるほど、

答えが増えていく。


でも。


止まっている理由にはならない。


「……行くしかねぇか」


ランは走り出した。


まずは、

一番可能性の高い答えを潰す。


二年校舎。


外階段を下りる。


隣の号館へ続く通路へ飛び出す。


もし違えば、

大きなタイムロスになる。


それでも。


ランは走る。

 


“何も動かないよりマシだ”


――

「……ヒントが大事だな」


ランが体育館を出たあとも。


柊は、

その場から動いていなかった。


「…………」


巨大なプロジェクターを見つめる。


走る男子たち。


教室を覗く者。


外へ向かう者。


階段を駆け上がる者。


焦る顔。


叫ぶ声。


誰もが、

必死に“探している”。


柊だけが、

まだ探していない。


「三十分に一回」


小さく呟く。


「ヒントが三回出る頃には、かなり絞れる」


つまり。


一時間半。


その頃には、

誰かが答えに辿り着いている可能性が高い。


「なら――」


勝負になるのは、

最初の一手。


“一個目で、どこまで削れるか”


闇雲に走る必要はない。


情報が来てからでいい。


そして。


ピロン。


待っていた音が鳴った。


柊はすぐにタブレットを見る。



ヒント①



『風』



「……風」


目を細める。


普通に考えれば、

外。


グラウンド。


中庭。


屋上。


校門。


候補はいくらでも出てくる。


「広すぎるな……」


でも。


一つだけ削れる。


“風”をそのまま場所として捉えるなら、

密閉された室内の可能性は低い。


なら。


まず外から潰す。


「……行くか」


ようやく。


柊が動いた。


体育館を出る。


廊下を歩き、

下駄箱へ向かう。


靴を履き替える。


紐を締める。


踵をしっかりと入れる。


立ち上がった。


その視線は、

もう前しか見ていない。


ランは、

『二』を追って二年校舎へ。


柊は、

『風』を追って外へ。


二人とも考えた。


二人とも、

自分なりの答えを出した。


遂に動き出した最後の長は、前だけを見ていた。


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