答えを証明する
体育館の空気が、一気に変わった。
女子長たちが姿を消したあと。
残された男子長たちに、一台ずつタブレットが配られていく。
さっきまで隣にいたはずの女子たちは、
もう学校のどこかに隠されている。
寧々も。
涼香も。
今、どこかで待っている。
最後の一台が配られたところで、
体育館の扉が開いた。
「お待たせしました」
女子長たちの配置を終えた若林が戻ってくる。
そのまま壇上へ上がり、
マイクを手に取った。
「それでは男子長の皆さんに、改めてルールを説明します」
体育館が静まる。
「学校中に女子長を隠しました」
「皆さんの仕事は単純です」
「見つけてください」
若林はタブレットを指差した。
「ヒントは三十分に一度」
「送られてくるのは、一単語だけです」
「“暗”」
「“音”」
「“風”」
「……まぁ、そんな感じですね」
男子たちが手元のタブレットを見る。
当然、
まだ何も表示されていない。
若林がくすりと笑った。
「そうですね」
「今、皆さんが想像した通りです」
一拍。
「隠れているのは、室内とは限りません」
ざわっ。
体育館が揺れる。
「今日、寒いですよ」
窓の外を見る。
冬空。
冷たい風が、体育館の窓を小さく鳴らした。
「辛いですよ」
男子たちの表情から、
少しずつ笑みが消えていく。
そして。
若林は淡々と言った。
「女子長は、自分から話すことも」
「その場所から動くこともできません」
静寂。
その言葉だけで、
競技の意味が少し変わった。
隠れている。
違う。
待っている。
自分たちが来るのを、
ただ一人で。
若林は男子長たちを見渡した。
「だから――」
少しだけ笑う。
「さっさと見つけてやってください」
その瞬間。
男子たちの目つきが変わった。
明らかな挑発。
分かっていても、
乗らずにはいられない。
「勝利条件は一つ」
若林が人差し指を立てる。
「どのクラスよりも先に――」
一度、言葉を切る。
そして。
「自分たちのお姫様を見つけること」
「うおおおおお!!」
体育館が一気に沸いた。
「絶対見つける!」
「余裕だろ!」
「一位取るぞ!」
男子たちの声が飛び交う。
その中心で。
柊は何も言わなかった。
ランも同じだった。
二人とも、
ただタブレットを見つめている。
これが最後。
最後の勝負だ。
若林が、もう一度マイクを握る。
「ちなみに――」
声が止む。
「二番に価値はありません」
空気が張り詰める。
「どれだけ早く見つけても」
「どれだけ頑張っても」
「一番じゃなければ、勝者ではない」
若林の視線が、
男子たちの間をゆっくり通っていく。
そして一瞬。
柊とランのいる方角で止まった。
「一番にしか、証明できません」
若林は続ける。
「一年生の春」
「知らない人ばかりだった教室」
「初めてできた友達」
「初めて本気でぶつかった相手」
「部活動」
「体育祭」
「文化祭」
「修学旅行」
一つ一つの言葉が、
三年間の景色を呼び起こしていく。
「もちろん」
「楽しかったことだけじゃないでしょう」
「喧嘩したこと」
「負けたこと」
「泣いたこと」
「もう学校なんて来たくないと思った日だって、あったかもしれない」
若林は、少しだけ笑う。
「それでも――」
「今日、皆さんはここにいます」
体育館が静まり返る。
「あと少しで、卒業です」
その一言だけが、
やけに重かった。
「高校生活って、不思議ですよね」
「過ごしている時は、当たり前なのに」
「終わりが見えた瞬間」
「急に、全部が大切だったように思える」
誰も笑わない。
誰も喋らない。
「だから」
若林は続ける。
「思い出してください」
「誰と笑ったのか」
「誰と喧嘩したのか」
「誰に助けられたのか」
「誰を助けたかったのか」
そして。
少しだけ間を置く。
「誰のことを、ずっと見てきたのか」
柊が顔を上げる。
ランも、
ゆっくりと前を見る。
「考えて」
「迷って」
「走ってください」
「正解なんて、最初から分からなくていい」
若林は笑った。
「あなたたちが三年間で積み上げてきたものを――」
「全部使って」
一呼吸。
「証明してください」
男子たちの目を見る。
「あなたたちが」
「どんな高校生活を送ってきたのか」
「そして――」
「どんな風に終わらせるのか」
若林は、
体育館の全員を見渡した。
「私は、見たいです」
ほんの少しだけ、
口元が上がる。
「三年間の答えを」
沈黙。
誰も言葉を発しない。
ただ。
胸の奥だけが、
熱くなっていく。
柊がタブレットを握る。
ランが一歩、前へ出る。
他の男子長たちも、
いつでも飛び出せるように構えた。
若林はそれを見届ける。
「それでは――」
一瞬。
笑った。
「頑張ってください」
若林は背を向けた。
その瞬間。
何かが、弾けた。
一斉に、走り出す。
誰よりも早く。
誰にも奪われないように。
――高校生最後の思い出を刻め――




