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第24話 保護対象


「保護対象です」


「違う」


 主人公は即答した。


 窓口の女が止まる。


「何がですか」


「俺」


「はい」


「保護対象じゃない」


「登録上はそうなります」


「勝手に?」


「申請していただいています」


「してない」


「今しています」


「してないって」


 女が画面を向けた。


《旧人類保護・生活接続申請》


「これ」


「それ何」


「今、あなたが署で記入した書類です」


「生活のやつだろ」


「生活接続と保護登録は同じ手続きに含まれています」


「聞いてない」


「説明しました」


「長かった」


「途中で『分かった』と」


「分かってなかった」


「では説明し直します」


「長い?」


「少し」


「短くして」


 女は一秒考えた。


「あなたが地上で寝る場所、医療、連絡手段、身元照会を利用できるようにする登録です」


「それだけ?」


「かなり省略しました」


「じゃあそれでいい」


「では保護登録を」


「その名前が嫌」


「名称は変えられません」


「何で」


「私が決めていないので」


 警察署の隣にある、小さな行政窓口だった。


 主人公は釈放されたわけではない。逃走の件、店での暴力の件、研究棟の件。確認することが増えたらしい。


「俺、捕まってるんじゃないの」


「捜査上の手続きと、生活上の支援は別です」


「また別」


「はい」


「別、多くない?」


「世の中はだいたいそうです」


「地下はもっと簡単」


「そうなんですね」


 女は反論しなかった。


 主人公は少し困った。


「帰る場所はありますか」


「ある」


「地下区画」


「うん」


「そこへ今すぐ戻る希望は」


「ない」


 言ってから、自分で止まった。


 女は普通に入力する。


「なし、と」


「待って」


「はい」


「帰りたくないわけじゃない」


「では、今すぐ戻る希望は?」


「ない」


「なしですね」


「言い方」


「項目なので」


「家はある」


「分かりました」


「捨てたわけじゃない」


「はい」


「養父もいる」


「はい」


「みんな」


「はい」


「でも姉ちゃん探す」


「それも記録しますか」


「して」


 女が入力する。


《家族照会希望》


「家族のお名前」


 主人公は答える。


「生年月日」


「知らない」


「旧住所」


 答える。


「最後に確認した時期」


 そこで止まった。


「子供のとき」


「何年前くらい」


「……十八年?」


「お姉さんは当時何歳」


 答える。


「移行期の混乱で離別?」


「そう」


「移行処置の有無は」


「知らない」


 声が少し硬くなる。


「されたかもしれない」


「分かりました。未確認にします」


「されたって書かないの」


「確認できていないので」


「でも可能性ある」


「あります。ただ、事実としては未確認です」


 主人公は画面を見る。


《移行状態:未確認》


 その二文字が嫌だった。


 でも、嘘ではなかった。


「照会には本人確認が必要です」


「俺の?」


「はい」


「昨日から何回してると思う」


「ここでは初回です」


「全部繋がってないの」


「必要な範囲だけです」


「不便」


「全部繋がっていた方が怖い人もいます」


「何で」


「知られたくない情報があるから」


「誰に」


「いろんな人に」


「役所にも?」


「役所にも」


 主人公は少し考える。


 地下なら、誰がどこで寝ているか、誰が何を食べたか、誰が怪我したか。だいたい誰かが知っている。


 人数が少ないから。


「本人確認」


「はい」


 指。


 顔。


 古い識別番号。


 そこで止まった。


「この番号、現行系にありません」


「地下のだから」


「照合経路を変えます」


「できる?」


「保護対象旧記録へ」


「また保護」


「名称です」


「嫌い」


「それも記録します?」


「しなくていい」


 照合には時間がかかった。


 主人公は椅子で待つ。


 また待つ。


 役に立たない時間。嫌いだった。


 隣の椅子に老人が座った。腕が四本ある。普通に書類を読んでいる。


 主人公を見る。


「若いな」


「何が」


「旧人類」


「分かる?」


「窓口聞こえた」


「聞くなよ」


「聞こえたんだよ」


「そっちは」


「何が」


「共生人?」


「見りゃ分かるだろ」


「四本だから?」


「生まれつき」


「便利?」


「肩凝る」


「四つとも?」


「四つとも」


 主人公は少し笑った。


 老人も笑う。


 番号が呼ばれた。


「照合できました」


 窓口へ戻る。


「あなたの旧記録は、地下側登録と一部一致しました」


「じゃあ姉ちゃん」


「家族照会を開始できます」


「今分かる?」


「今は分かりません」


「何で」


「照会先が複数あります」


「全部見れば」


「権限が必要です」


「家族なのに?」


「家族でもです」


「俺、弟」


「それを確認するための照会でもあります」


「面倒」


「はい」


「否定しないんだ」


「面倒なので」


「どれくらい」


「まず旧記録、移行期の保護・転居記録、現行住民記録を順に確認します」


「移行記録も?」


「該当すれば」


「見せて」


「今はまだ」


「何で」


「あなたの家族だと確認できていない人の情報を、あなたには見せられません」


「姉ちゃんだって」


「確認できたら進めます」


 主人公は机を叩きたくなった。


 叩かなかった。


「早くして」


「順番に進めます」


「俺も何かする」


「では、この欄」


 書類が出る。


《照会に使用する情報の提供同意》


 主人公は止まった。


「これ書くと?」


「あなたの旧記録と、家族候補の記録を照合できます」


「書かないと?」


「照会できる範囲がかなり狭くなります」


「……ずるい」


「選べます」


「選べるけど、探したいなら書けってことじゃん」


「そうです」


「保護される代わりに情報出せって?」


「保護とは別です」


「また別!」


「はい」


 主人公は紙を見る。


 名前。


 旧住所。


 地下での登録。


 姉の名前。


 自分が地上へ出たこと。


 地上の仕組みに、渡したくない。


 ずっと。


 でも、姉を探す。


 そのために来た。


「ここ?」


「署名欄です」


「後で消せる?」


「保存義務のある記録は消せません。照会利用の停止は申請できます」


「全部消えない?」


「全部は」


「嫌だ」


「では、やめますか」


 女は書類を引こうとする。


 主人公が押さえた。


「待って」


「はい」


「……使う」


「分かりました」


「好きでじゃない」


「はい」


「姉ちゃん探すため」


「はい」


「保護してほしいからじゃない」


 女は少し考えた。


「目的欄に家族照会と書いてあります」


「じゃあいい」


 主人公は署名した。


 紙を渡す。


 女が受け取る。


「手続きを開始します」


「早く」


「順番に」


「それ嫌い」


「知ってます」


「何で」


「さっきから言っているので」


 主人公は椅子へ戻った。


 嫌いな制度の中で、嫌いな待ち時間を使って。


 姉を探し始めた。

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