第20話 逮捕
「まず、全員その場にいてください」
警察官が言った。
主人公は止まった。
背の高い男も止まった。
無常ちゃんだけが十七番へ行った。
「お待たせしましたー」
トレーを置く。
「無常ちゃん!」
店員が呼ぶ。
「なに?」
「今、警察」
「知ってる」
「戻って」
「はーい」
戻ってくる。
警察官が少しだけ額を押さえた。
「店員さんたちは、危険がなければ営業を止めなくて構いません。ただし、関係した方はあとで話を聞きます」
「はい」
無常ちゃんも返事をする。
「はい」
「あなたもです」
「私?」
「あなたもです」
「はーい」
主人公は思った。
身体が変わっても、やっぱりこれだった。
「誰から」
警察官が聞く。
「通報したのは」
「私です」
店員が手を上げる。
「何がありました」
「お客様を本人の同意なく連れていこうとして、そのあと私たちにも処置をしようとしました」
「医療行為だ」
背の高い男が言う。
「正当な保護活動だ」
警察官が見る。
「許可は?」
「緊急性がある」
「許可は?」
「旧人類の未移行個体だぞ」
「質問に答えてください」
男が黙る。
「本人の同意は」
「必要性を理解できていない」
「同意は」
「……ない」
「店員さんへの処置は」
「適合確認だ」
「同意は?」
男は答えない。
小柄な女が言った。
「一名は同意した」
無常ちゃんを見る。
「私?」
「あなた」
「したよ」
警察官が記録する。
「ほかは」
「輪廻ちゃんは勝手にやった」
主人公が言う。
「勝手に?」
「自分で刺した」
「刺してない。入れただけ」
輪廻ちゃんが厨房から言った。
「それを刺したって言うんじゃ」
「違うと思う」
「今そこいいから!」
警察官が手を上げる。
「順番に聞きます」
秩序ちゃんの足元では、小さなぬいぐるみが床を拭いていた。
「そちらの方は」
「入れられた」
秩序ちゃんが言う。
「頼みましたか」
「頼んでない」
「身体から排出したものは」
ぬいぐるみが容器を持ち上げる。
「これ」
「……証拠品として預かります」
「返して」
「必要です」
「容器」
「中身だけ預かります」
「ならいい」
警察官は少し疲れた顔になった。
強硬派の三人が壁際へ移された。
外へ出た二人も、別の警察官が連れて戻ってきた。
「どうして」
背の高い男が言う。
「救済しているだけだ」
「その話は署で聞きます」
「こいつらは旧型だ!」
「それも署で」
「危険性を」
「署で」
「聞け!」
「聞くために署へ行きます」
手首へ拘束具。
主人公は見た。
少しだけ。
勝ったような気がした。
「じゃ、俺帰る」
「待ってください」
「何」
「あなたもです」
「俺?」
「はい」
「何で」
警察官が記録端末を見る。
「店内で暴行しています」
「俺が?」
「映像があります」
「守った」
「それは事情として聞きます」
「向こうが先」
「それも聞きます」
「じゃあ俺は悪くない」
「それを今ここで私が決めません」
「何で」
「調べるからです」
主人公は背の高い男を見る。
男が笑った。
「同類だ」
「違う!」
「一緒に連れていかれる」
「理由が違うって言ってるだろ!」
「結果は同じだ」
「違う!」
「お客様」
店員が呼ぶ。
「何!」
「大声」
「今それ!?」
「はい」
主人公は口を閉じた。
「俺、止めただけ」
「分かっています」
警察官が言う。
「じゃあ何で」
「止めるために許される範囲だったか確認します」
「殴られた」
「あなたも蹴っています」
「脚払っただけ」
「それを確認します」
「捕まえられそうだった」
「それも確認します」
「全部確認じゃん」
「仕事なので」
主人公は嫌になった。
地下なら。
危険なやつが来る。
止める。
終わる。
少なくとも、自分が知っている範囲では。
「じゃあ、店員は?」
「事情を聞きます」
「輪廻ちゃんは?」
「事情を聞きます」
「無常ちゃんは?」
「事情を聞きます」
「みんな捕まえるの?」
「逮捕と事情聴取は違います」
「俺は?」
「現時点で、あなたは身柄を確保します」
「それ逮捕?」
「はい」
「……俺も?」
「はい」
胸の奥が沈んだ。
強硬派を見る。
同じ拘束具。
「同じじゃん」
自分で言ってから、嫌になった。
警察官が首を振る。
「同じ器具を使っているだけです」
「でも」
「疑われている行為が違います」
主人公は黙った。
同じに見える。
でも違う。
またそれだった。
「連絡したい人はいますか」
警察官が聞く。
「養父」
「連絡先は」
主人公は止まった。
「番号」
「はい」
言える。
三番線で何度も覚えた。
緊急時に、自分が誰で、どこに属して、誰へ繋げるか。
子供の頃から。
番号を言う。
警察官が復唱する。
「地下区画の連絡先ですね」
「うん」
「照会します」
「薬の子」
「はい?」
「いや」
関係ない。
今は。
主人公は店を見る。
無常ちゃんが警察官に何か聞かれている。
「施術後に変化は?」
「服がちょっと古い」
「身体症状です」
「お腹すいた」
「それは施術前から?」
「たぶん」
警察官が困っている。
店員が横から言う。
「さっきポテト食べてました」
「じゃあすいてないかも」
「どちらですか」
「分かんない」
主人公は笑いそうになった。
笑わなかった。
「行きます」
別の警察官が言う。
「どこ」
「署です」
「帰れない?」
「今は」
主人公は出口を見る。
昨日、そこから地下へ帰った。
今日は。
同じ扉を通る。
でも帰らない。
外へ出る。
雨は降っていない。
店の前の水溜まりも、もうない。
警察車両が二台。
強硬派は一台へ。
主人公は別の一台へ案内された。
「同じじゃない」
小さく言う。
「何がです?」
警察官。
「別」
「はい?」
「車」
「そうですね」
強硬派の男がこちらを見る。
何も言わない。
主人公も言わなかった。
車へ乗る前。
「待って!」
店から声。
無常ちゃん。
紙袋を持って走ってくる。
「走らない!」
店内から声が飛ぶ。
無常ちゃんは速度を落とした。
「これ」
「何」
「残り」
「また?」
「また」
紙袋。
バーガーの残り。
「持ってっていい?」
警察官に聞く。
「中身を確認してからなら」
「確認するんだ」
「します」
袋を渡す。
主人公は待つ。
強硬派も待っている。
店も営業している。
全部同じ場所にある。
でも。
同じ理由ではなかった。
確認が終わる。
紙袋が戻る。
彼はそれを持って、警察車両へ乗った。




