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大体わかるぞ!第二作『ドッペルライアー・ファンタズム』中編

【日常の中で】

偶然にも出会した星翠の友人、結立灯も交えた四人は、束の間の日常を楽しむ。その最中、静と二人きりで話す時間を得た星翠。彼女は、彼の鮮烈な外見についての拘りを問う。


「結局のとこ、だ。生まれ持ったもんなり、培った何某なり。何かを持ってるから、持ってねーから……そんな物差しで『だからてめーはこういう人間だ』って言われるのがウザったらしいもんでな。逆張りでおちょくってるってだけだ。お生憎、拘りやプライドなんぞとはほとほと縁遠いばっかりなんだよ」


呆気なく……本当になんでもない事の様に口にされたその言葉に、星翠は強烈な羨望を感じた。


「私は……その、こんな性格だから。人にどう見られてるのか、どう思われてるのかっていうのが凄く気になって、気にして。花蕗君みたいに、自分に対しての確かな自信とか、こういう風に生きているんだから人の目なんか気にしないって言うのがとても難しくて……」

「人跡未踏の離れ小島でひっそりしてる訳でもあるまいに、人の目気にするなんざ取り立てておかしな事でもねーだろ。俺が言えた義理でもねーけどよ」

「うん——だから多分、羨ましいって感じてるのは、人の目を気にしていない事それ自体じゃ無くて、その生き方を選べる事、なんだと思う」


誰かになりたいという曖昧な願望ではなく。抱いていたのは、自分の道を自ら選び取る事への渇望であると吐露する星翠。そんな彼女に静は、ただ「肩の力を抜け」と言う。それでもどうにもならない時には抄帷を……自分ではない誰かを頼れ、とも。


「今回は俺らの番だった。事が終わりゃ、次はアンタの番だ。いつになるかは知りゃしんねーけどよ、期待してるぜ文学兎。俺は、アンタに助けられる日をよ」


【強襲、再び】

夜の闇を引き裂いて、〝黒鉄の騎士〟マールス・ブロワが再臨する。仙波宅を目指すその眼前に立ちはだかるのは、〝逆理の徒〟『花蕗静』。


星翠の口から語られたマールスの人物像——知略に長け、規範を重んじる厳格な騎士としての性格から逆算し、彼が無条件で自身を生み出した『パラドクス能力者』に従っている可能性は低いと予測した。

幻想から現界しながら、明確な自我を有する虚構。

絶大な力を持つマールスとパラドクス能力者になんらかの利害関係があると予想した静は、単独で彼と交渉——決闘を持ち掛け、その勝利の対価として能力者本体についての情報提示を要求した。


これを承諾したマールスとの戦闘はしかし、突如現れたもう一人の幻想——マールスを従えるテサウルの女王デケムの介入によって中断を余儀なくされる。


戦闘の気配を察した抄帷の機転により、静は辛くも生き延びる。そして、デケムとの会話において、自分達の推論が根本から間違っていた事を悟った。


傲慢不遜の君臨者。

その自我を世界に認めさせるだけの異能。

それでも尚、彼女達が警戒する何かがあるとすれば——それは、自身らの手で制御出来ない終焉——パラドクス能力の喪失ただ一つ。


「パラドクス能力で現れた連中にとって、能力者はとっておきのブラックボックス。ぶっ殺すのは容易いが、その後の自分達がどうなるのかはまるで想像もつかねー。だからこそアイツらは先手を打った——端から連中に、アイツを殺すつもりなんざ更々無かったんだよ……連中を生み出したパラドクス能力の本体は、仙波星翠だ」


【幻想世界『テサウル』へ】

翌朝、小休止の中。

女王デケム達の目的は、仙波星翠を生きたままその手中に収める事。意図しないパラドクス運用停止に伴う、自身達の消滅を避ける為。

人外の力を持つ彼女達が現界規模を広げれば、現実世界に甚大な被害が出るかもしれない。勝ち目の無い状況で抄帷達に残された手段は一つだけ。

女王デケム達が生かそうとしている仙波星翠を、パラドクス使用不可能状態まで追い込む。


「——————ふざけるな」


合掌抄帷がその選択肢を踏み付ける。

それは覚悟か、蛮勇か。

抄帷と静は、勝ち目の無い——勝ち筋のわからない戦いに挑む決意を新たに、仙波宅を目指す。


だが時既に遅く、女王デケムの干渉によって心の均衡を喪失した仙波星翠のパラドクスは暴走——彼女の自宅は広大な幻想世界へと変質していた。


踏み入った丘陵の只中、女王デケムの超能が静達を襲う。

圧倒的な戦力差を前になす術のない二人の前に、思わぬ助けが入る。


【幻想の勇者】

「私達は、君達の味方だ。シジマ——そして、トバリ」

デケムを一時撤退に追いやったのは、彼女と同じく『テサウル国物語』の世界の住人——物語の主人公『名無し』と、その盟友……少女の姿をした『〝雷霆の魔法使い〟ラキエス・シーシス』であった。


彼らは、今日までの静と抄帷の闘いを知っていた。

そして自身が〝仙波星翠の能力によって顕現した存在〟である事もまた、同じく。

その上で彼らは、二人への全面協力を申し出た。


【空の只中】

ラキエスの能力によって、星翠が幽閉されているデケムの城を特定した一行は、幻想の雷翼竜の背に乗り、大空を行く。

そんな彼らを待ち受けていたのは、天を覆う規模の光の剣による掃射攻撃であった。

女王デケムによる異次元の広範囲・高火力攻撃の嵐を退けながら、〝雷霆〟ラキエスは高らかに宣誓する。


「恥じるな、誇れ!迷うな、進め!主が選んだ生き方が、たとえどれだけ無謀で稚拙でも!それを咎める者など居らん!主がそうだと信じる限り、主の生き方は決して間違わん!だから、怯えるな!慄き震え、自らの生き方を名付ける事を恐るな!そして、笑え!自らの選択に見合うだけの明るさで!……そっちの方が——格好良いからの」


自らの善性を決して言葉にすることの無かった静に、ラキエスの言葉は深々と突き刺さる。


「手本を見せてやる!シジマも、トバリも!よぉーく見ておけ!

我が名はラキエス・シーシス!海峡森の守護者にして、〝雷霆〟の魔法使い!我が友シジマとトバリの行く道を開く為——そして、我が友・ホシミを救う為参上した‼︎

黒き天使の剣、満足ゆくまで差し向けるがいい!その全て、我が雷を以って撃ち落としてくれる‼︎

——私は必ず、君達をホシミの元まで送り届ける!必ず果たすと、約束する‼︎」


【反逆の英雄】

辛くもデケムの攻撃を退けたまさにその時、強襲を仕掛けてきたのは軍神マールス。

上空、雷翼竜の背。

誰もが動けずにいた一瞬を踏み抜いたのは、花蕗静だった。

道連れの形でマールスを竜の背から叩き落とし、自らも落下していく。


「仙波を頼むぞ!抄帷!」


後を託し、無謀な闘いに身を投げる静。

そんな彼を救ったのは、ラキエス・シーシス。

彼女は静を魔法で翼竜の背に戻し、自らはマールスの相手をする為に地上へと落ちていった。

 

「後はまかせよ!だから——そっちも頼むぞ!シジマ」


初めから、そうすると決めていたかの様な迷いの無い行動。元より『名無し』と『ラキエス』は、自分達の命を投げ出すつもりで助力を申し出ていた——静と抄帷はその事を思い知る。


「——センバホシミ、だろう。君が守り、救い、取り戻すべきは。——紛い物の私達では、ない」


問い詰める静に、『名無し』は全ての真相を語る。

彼ら『テサウル』の住人は、真の意味での幻想ではなかった。

星翠の記憶の中の『テサウル』のキャラクター像に、彼女自身の心の一片が注がれて生まれた——その存在は、いわば彼女の心そのものであった。


静と抄帷を襲っていたのは、星翠自身の負の感情……心。

空想の勇者も。幻想の魔法使いも。その事実だけはどうしても、口にする事が出来なかった。


贖罪に裏打ちされた、今こそ明かされた真実。

だが、二人は決して星翠を咎めなかった。


「『パラドクス』なんて望んでもねー超能力さえ身に付かなきゃ、アイツは今でも誰も傷付けることもなく、思い悩んではぐったりしながら日常を生きてるばっかりだったろーよ。だからまぁ、そーな……怒っちゃいるが、別にアイツのせいじゃねーし、アイツに対してじゃねーよ」

「それに仙波さんはずっと戦ってくれてた。制御不能……どころかその存在すら自覚出来ていない能力を使って、あなた達を私達のもとに寄越してくれた——あなた達がいなければ、私達は今ここには居られなかった。それが全部——だよね」


そして静は、『だからこそ』ラキエス・シーシス救出へと向かう決意を固める。


——————


「悪性善性区切りを付けて、決め付けて。ソイツがどんな人間なのか言い表すなんてのは心底下らねーし、反吐が出らぁ。野郎が善でも、お宅の魔法使いが極悪でも、正直俺にとっちゃどっちだって構やしねー」


 覆らぬ現実は眼前に。

 成し遂げられる何かなどはあり得ない。


「けど、アイツにゃ借りがある。全く、闇金だって引き攣る位の馬鹿でかい借りだ。だから、利子分だけでもきっちり払う。アイツが仙波の善性だってんなら、ガキの癇癪なんぞに芋引きゃしねーってのを証明してやる……それによ、忘れちゃねーかよ、ファンタジー」


『故に』。


「——俺らは逆理《パラドクス》だ。負け戦なら百戦錬磨だぜ」

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