紅蓮の館
「さぁ着いたわよ。ここが紅蓮の館」
鬱蒼と静まり返った薄暗い森の中、それは突如として姿を現した。
燃えるように赤く染め上げられた、不気味な洋館。驚くべきことに、その建物は生物のように脈を打っていた。ドクン、ドクンという心音に合わせて壁面が細かく振動する。まるで、館そのものが一つの巨大な生き物であるかのようだ。
「えっ? これが紅蓮の館? ……気持ち悪りぃ」
コロウスはあからさまに嫌そうな顔で眉間に皺を寄せ、舌を出しながら洋館を指差した。
「あぁ。とりあえずここのボスのモエン・アーツィを倒せば、十分なレベルが上がるはずだ」
バルバトスを送るついでに、結局ここまでついて来てしまったベルゼバブが応じる。
「それって裏ボス?」
「いや、違うわよ。ここのは普通のボス。ただ三年前に追加されたダンジョンだから、それなりに強いわよ」
コロウスは、そのササキの返答にあからさまに不満な表情を浮かべる。
「なら、俺からしたら雑魚だな」
「あらっ、自信満々じゃない。でもあなたのステータスじゃ私のヘルプがあってようやくクリア出来るレベルよ」
「何!? 俺のステータスとやらはそんなに低いのか。そんなことないだろう! はーはっは!」
「申し訳ございません。私は確認するように申し上げているのですが、コロウス様は自分のステータスを見たことがございません」
バルバトスは大きな口を開けて笑うコロウスの前に立つと、両手を前に揃えて深々と頭を下げた。
「……うん、もう慣れた。コロウスさん、ステータス見せて」
「おぅ! どうすればいい? ――やめろ、く、くすぐったい」
ベルゼバブは無理やりコロウスの鎧の隙間に手を突っ込むと、リモコンを奪い取って『STATUS』画面を空中に無理やり表示させた。
――――――――――――――――――――
NAME:コロウス・ゾ・コラ
LEVEL:99
HP:30000:30000:50000
ATK:563
DEF:852
INT:27
AGI:365
JOB:魔王
WEP:闇の剣
GEAR:魔王の鎧
EX:NON
――――――――――――――――――――
「ほぉほぉ! ……英語と数字ばっかりで分からん……あの、これは高いの?」
「いや、かなり特殊だな」
そう言ってベルゼバブは自身のステータスを開示する。
――――――――――――――――――――
NAME:ベルゼバブ
LEVEL:999
HP:99997
ATK:2347
DEF:3521
INT:652
AGI:1458
JOB:勇者
WEP:宝光の剣
GEAR:宝光の鎧
EX:ロザリーのペンダント+99
EX:グラナドの指輪+99
EX:黄金のオーラ+99
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「え? えっ?」
コロウスは交互に表示された二つの画面を、何度も見返した。
見比べ、見比べ、そして――動きを止めた。彼は察した。
「……あれ? 俺、弱くね?」
「まぁ、時代遅れだからな」
「……ベルゼバブ君が……嫌いになりそうだ」
明らかに落ち込むコロウスを前に、ベルゼバブは真剣な表情で話を続けた。
「いや、ステータス的には足りないが、さっきも言った通り、かなり特殊なんだ」
「特殊?」
「そう、特にこの『HP』……体力な。これは今までの経験から、HPストッパーに違いない。つまり、コロウスさんは三個分のHPを保有しているってことだ」
「おぉ! やはり俺は凄いのか!」
「あぁ! 後、『ATK』は攻撃、『DEF』は防御なんだけど、今のレベルにしては高すぎる。レベルアップの上昇幅にもよるが、かなり高水準になりそうなんだ」
「うぉぉおお! 前言撤回だ。ベルゼバブ君、君のことが大好きだー!」
コロウスは満面の笑みでベルゼバブの肩を何度も叩く。
「痛い痛い」
「――じゃあ、これなんだ? 低ければ低い方がいいのか」
コロウスは画面へ顔を近づけると、少年のような目で『INT:27』を指差した。
「……あっ、それは知力だな……」
「……知力が低いってこと」
「……あぁ、異常なくらいに……」
不穏な空気が流れ出したことを感じてか、バルバトスが慌てて二人の間に立つと、ベルゼバブに向かって言い放った。
「ベルゼバブ様。いくら本当のこととはいえ、言って良い事と悪い事がございます。コロウス様は筋肉だけが凄いのです」
「うぉぉおおおお!」
コロウスは闘牛のような雄叫びを上げると、バルバトスへ勢いよく飛びついた。
「ありがとうバルちゃん! 流石は長年の友だー!」
「はい。私はいつでもコロウス様の味方でございます」
バルバトスは穏やかに微笑む。
ベルゼバブはそんな二人を見ながら、小さく息を吐いた。
(……うん、やっぱり知力は低いな)
「あはは、あなた達本当に仲が良いわね。さて、そろそろ攻略と行きますよ」
ササキの笑顔は一瞬だった。次に見せた顔は歴戦の戦士のそれだった。そこに一切の迷いはない。
勇ましく一歩、また一歩と紅蓮の館へと向かう。
「勿論だな、魔王の強さ思い知らしてくれるわ」
「コロウス様。いざとなれば私を盾としてお使い下さい」
コロウスとバルバトスもそれに続く。
「手は貸さないけど、俺も一応ついて行くよ」
ベルゼバブも後へと続く。決してササキが弱くないということを彼は知っている。コロウスとバルバトスも、今までの戦闘経験から問題ないと想像が着く。
では、何故彼がついて行くのか。それはベルゼバブ自身も分からない。ただ、彼は思う。
(こいつらといると楽しいな)
それが全てだった。




