はじめての戦闘
紅蓮の館に近づくにつれて、来る者を拒むような熱気がコロウス達を襲う。それでも彼らは足を止めることなく――館の赤い扉を開く。
錆びついた金属が擦れる鈍い音を立てながら開いたそれ、一行は躊躇することなく、中へと入っていった。
館内に入ると、広々としたエントランスがコロウスたちを歓迎した。ただし、そこは薄暗く、熱気は湿気により、肌に不快に纏わりつく。
エントランスの中央、一人の男が待っていた。全身黒の、仕立ての良いスリーピーススーツ。頭には深くシルクハットを被り、手入れされた白髭を蓄えた老紳士だ。
老紳士は手にした赤い杖を前につき、恭しく腰を折った。
「ようこそいらっしゃいました、この館の奥でモエン伯爵がお待ちです」
「そっか、伝達ありがとうな」
ただの案内役と思い、コロウスが老紳士の横を通り過ぎようとした時だった。
「――!」
男の杖が音もなく滑り込み、コロウスの胸元を遮った。もう一歩踏み込めば、確実に彼の胸を貫いていただろう。
「えっ? 危なくない?」
コロウスは思わず立ち止まった。
「綺麗事はここまでとしましょう……ここは通しません。この私、ステイ・キールを倒せたら話は別ですが」
深く被ったシルクハットから、紅の瞳を覗かせコロウスを睨みつける。同時に彼の頭上に名称が表示された。
『地獄の紳士 ステイ・キール』
「えっ? あっ? ボスなの」
この期に及んでようやく状況を理解したのか、コロウスは慌てて半歩ほど距離をとった。
「あはは、本当にコロちゃんって面白い人なのね。ゲームやるの本当にはじめてなんだね」
本来なら一触即発の緊迫した状況のはずが、あまりにも無防備すぎたコロウスの行動に、ササキは腹を抱えて爆笑し始めた。
「もー! ステイとやら! お前のせいだぞ」
僅かにコロウスの頬が赤らむ。
「ベルゼバブ!」
「んっ?」
「スキルは使えなくても武器は使えるよな」
「あぁ、さっきのステ情報だと、武器に闇の剣があったから大丈夫だと思う」
「なら、お前らは手を出すなよ。恥をかかせたお礼は俺がしてやる」
コロウスは右手を掲げた。闇が集り――収束する。それは、形状を成していき、実態のない一つの剣となる。
これこそ、コロウスに与えられた専用武器――闇の剣だった。
それは一般的な剣よりもやや大振りではあるのだが、コロウスの立ち姿と重なると、不思議とそうは感じさせない。
「さぁ、魔王の強さ見せてやろう」
さらに後ろに飛び跳ねて、コロウスはステイと充分な距離をとる。
左手を前へ。右手に握る闇の剣を顔の高さまで持ち上げる。足を大きく開き、獲物を狙う獣のように腰を落とした。
姿勢から感じ取られる王の気配。今までのコロウスとは違っていた。
「バブちゃん、大丈夫なの? コロちゃんのステだとかなり厳しいと思うけど……」
「まっ、様子見てみようぜ。俺が知っているコロウスさんなら、ワンチャンあるかも知れないぜ」
「行くぞ!」
仕掛けたのはコロウスだった。ステイの元へと一直線に駆け寄り――数歩手前で跳躍。両手で剣を持つと上段に構えて、ステイの頭を目掛けて一気に振り下ろす。
「――なっ!」
いなかった。
剣は床へと突き刺さり、石片が飛び交っただけ。
先程まで、まさに振り下ろす直前まであったステイの姿。それがそこにはなかったのだ。
刹那。
コロウスの背後に影が迫る。
『Critical 15868』
『HP 14132/30000』
「ぐわぁぁああ!」
一瞬であった。
コロウスの背中を凄まじい衝撃が襲った。鎧を砕くような轟音とコロウスの悲鳴が鳴り響く。
コロウスの頭上に刻まれた数字。それは圧倒的なレベル差を示していた。
「ク、クソが」
地面にひれ伏す一歩手前で踏みとどまった。コロウスは剣を床へと突き刺して支えにしたのだ。だが、息は乱れ、自然と片膝は地面へと落ちる。
「ほらっ、バブちゃん私の言った通りでしょー」
「まぁ、もー少し様子待ってみって」
「本当に大丈夫なんでしょうね」
ベルゼバブの言葉を信じつつも、ササキは心配そうにその様子を見ていた。
「コロウス様! いざという時は、このバルバトスにお申し上げください」
その光景が見るに堪えなかったのか、バルバトスが呼びかけた。
「……うるさい。これは俺の戦いだ。黙って、黙って見ていろ」
「も、申し訳ございません」
バルバトスは思わず後退った。その理由は簡単だった。普段のコロウスから考えられないほど、声に圧があったのだ。
「――隙だらけですよ」
ステイに情けなどある訳なかった。
コロウスが気付いた時には、もうステイは真横にいた。
跪くコロウスの体を持ち上げるように、杖は腹下から、天井へと向かって容赦無く振り上げられた。
『Critical 18785』
『HP 0/30000』
「がっ!」
宙に舞うコロウスの体。
弧を描き、鈍い音と共にその身体は地面に叩き付けられた。
――その時である。コロウスの全身から禍々しい黒いオーラが放たれる。
「……ふっ、面白い、本番ここからだ」
ダメージを受け、HPがなくなったはずなのに、コロウスの口角は僅かに上がっていた。
地面へと寝そべった身体を起こすと、その場に胡座をかいた――ゆっくりと腰を持ち上げて立ち上がった。
「よし! 思った通り、第二フェーズ、戦闘モードだ」
ベルゼバブは胸の前でガッツポーズを決めると「ステータスを見てみてくれ」と、ササキにお願いをした。
「えっ、えぇ」
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NAME:コロウス・ゾ・コラ
LEVEL:99
HP:0:30000:50000
ATK:1263
DEF:452
INT:14
AGI:965
JOB:魔王
WEP:闇の剣
GEAR:魔王の鎧
EX:魔王のオーラ
EX:NON
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「えっ? 能力が変化しているわ」
画面を見つめていたササキの目が大きく見開かれた。
「そう、やっぱり思った通りだった。」
「バブちゃん、分からないわ。お姉さんにも分かるように説明して」
「あぁ、コロウスってはじめは玉座で座ったまま戦うだろ?」
「うん」
「つまり、防御中心なんだ。動くこともないから足も遅い。だけど、第二フェーズは戦闘モード、防御を捨てて、本気で挑んで来る。だからステータスも変わったんだ」
「じゃあ、『INT』が下がってるのは何故?」
「……それは知らん」




