戦闘再開
「さて、再開といこう」
禍々しいコロウスのオーラが霧のように漂い出す。それは次第に濃さを増していき、彼の姿を隠した。
そして、霧は揺らめいだ。
『5865』
「ぁああっ!」
瞬きなどする暇なかった。霧が――コロウスがステイの背後から出現。剣を下段に構えると、垂直に切り上げたのだ。
闇の剣特有の黒いエフェクトと共にステイの身体が浮き上がる。すると、コロウスはまた霧の中へと姿を消した。
――浮き上がり続けるステイの身体。その先には、霧の中から再びコロウスが姿を現した。
「今度は外さん。これはお返しだ」
剣を両手に持ち上段に構える――ステイが目の前まで来た時、ステイの身体を叩き斬るように、力強く振り下ろした。
『Critical 7654』
床を揺らす重低音が響き、ステイの身体が地面に激突した。 床の石畳がクモの巣状にひび割れ、凄まじい土煙が舞い上がる。
館内が静まり返る。
「えっ? 凄いわ、コロちゃん、やるじゃん! でも、やっぱりレベル不足ね、攻撃が足りてないわ」
ササキは歓喜を上げるが、すぐに指先を頬に当てて首を傾ける。
「あぁ、でもあれでレベル99だぜ。レベルが上がったと思うと……ぞくぞくするな」
ベルゼバブは舞い上がる土煙を見つめながら口元を吊り上げた。
その瞳には、隠しきれない期待の色が宿っていた。
「楽しみだな。あいつなら、本当にミーナを倒せるかもしれない」
「バブちゃん嬉しそうね。でも、これじゃ……」
「あぁ……」
二人はほぼ同時に同じ結論へ辿り着く。
(倒すのに時間がかかる……)
「伝えて加勢した方が良いかしら」
「そうだな」
倒れ込んだステイを見つめながら、仁王立ちしているコロウス。また霧の中へ姿を隠そうとした時、ササキの声が彼の耳に飛び込んだ。
「コロちゃーん!」
「なんだ? 黙って見ていろ。すぐに終わる」
「あのね、言いにくいんだけど……」
ササキは気まずそうに、胸の前で人差し指同士を突き合わせた
「なんだ?」
「あ、あのね、ステイのHPは四十万あるの! だから今のコロちゃんの火力じゃ……」
「……えっ? マジ?」
「うん、マジ」
「俺、クリティカルで七千だぞ」
「うん」
「本当に四十万?」
「四十万よ」
「……」
コロウスは黙った。
「……えっと、だから、加勢しようか」
耐え切れず提案したササキに、コロウスはか細い声で返答する。
「……ちょっとだけな」
「あ、うんうん。ちょっとね。分かったわ。ちょっとだけ手を貸すわ」
「違う」
「えっ?」
「手を貸すんじゃなくて、……その……攻撃を許可してやる」
「あ、はーい」
ササキは勇ましい足を一歩前に出すと、丸太のように太い腕を水平に横に伸ばす。
「行くわよ」
赤黒いエフェクトがササキの手元で火花を散らす。眩い光を伴い、空間を裂くように徐々に物体が形成される。
姿が現れるにつれて光は膨れ上がり――閃光を放って消えた。
次の瞬間、ササキの手には屈強なオーガの身体も優に超える、巨大な斧があった。
柄には血に染まった包帯が巻かれている。圧倒的な大きさの質量を誇る両刃は、赤黒く鈍く輝く。だが刃毀れが激しいその刃は、切るためのものではない。ただ敵を叩き潰すためだけに存在しているようだった。
――地面が揺れた。しかし、それは地震ではない。
ササキが巨大な斧を片手にステイへ突き進む。その踏み込みの度に館全体が震えていたのだ。
ステイは身体を起こし、その場から離れようとする。
『2397』
「ぐっ!」
コロウスの刃がステイの足元をすくった。バランスを失った身体はコントロールを失い、再び石畳へ叩き付けられる。
「逃がさないぞ」
コロウスがニヤリと笑う。
その視線の先では――巨大な斧を担いだササキが一直線に迫っていた。
「コロちゃん、ナイスだわ!」
ササキの斧に赤いオーラが宿る。宿ったオーラから――鬼の顔が現れる。
そして、ササキの斧がステイへ振り下ろされた。
「味わってね。【鬼斬割災】」
『UnCritical 345812』
まるで、巨大な地震が来たようだった。地面は激しく揺れ、振り下ろされた刃を中心に、大地には巨大な亀裂が入っていた。
砂埃どころでない。瓦礫と化した床材が弾丸のように飛び、至る所に突き刺さる。
エントランスはもはや、原型を留めていなかった。
「あぁー、またマイナス会心だわー」
ササキは悔しそうに片足を踏み鳴らした。
コロウスはステイの頭上に浮かぶダメージ表示を見上げたまま固まっている。
「……三十四万?」
「ごめん、マイナス会心だったわ」
「いや、そうじゃなくて……なんでもないです」
コロウスはそれ以上口を開くのを止めた。




