パーティ募集中
「おっ! あいつ良さそうじゃないか?」
パーティ募集をはじめてから三時間。コロウスの視線の先に一人の人物がいた。
一際目立つ赤いモヒカンに、左目から顎にかけて刻まれた深い傷跡。その圧倒的に屈強な体躯を、重厚な黒鉄製の鎧で隙なく護っている鬼人だ。鬼人特有の、異常に発達した歪な骨格がゴツゴツと皮膚を押し上げるように隆起しており、下顎からは巨大な二本の牙が突き出ている。
「あー、ササキか。あいつだったら、俺も知ってるし、丁度良いかもな」
ベルゼバブは、コロウスが指差した相手を見て安堵した。
それも無理はない。これまでにも何度となくパーティ募集を試みてきたが――結果は散々だったからだ。
「ごめん」
「無理」
「嫌」
「遠慮する」
「死にたくない」
返ってくるのは、そんな言葉ばかりだった。
もっとも、当のコロウスは気にした様子もないのだが。
ササキと呼んだ鬼人に、ベルゼバブは手を振って見せた。
「あらっ? バブちゃん。私に何か用事でもあるの?」
黒鉄製の鎧をガチャガチャと鳴らしながら、ササキはベルゼバブへと手を振り返すと――軽快に彼へと近付く。鬼人特有の悍ましい見た目の筈だが、桃色に澄んだ瞳と、少しハスキーな女性の声からは敵意が全く感じられない。
コロウスは思わず身構えた。凄まじい強者の気配を感じたからではない。想像とは違ったからだ。
(えっ、ササキ!? 女だったのか!? 想像と全然違うんだが!?)
「ササキって、ドーク・クラワード・デスってまだ未討伐だったよな」
「そうよ。まだ討伐出来ていないのよねぇ」
「じゃあ、この人達一回パーティ組んでみないか? ちょっとレベル上げは必要かも知れないけど……」
「さっき目立ってた人達よね」
「そうなんだよ。この人達も、新規プレイヤー目線でってことで、ベータテスト用に選ばれたプレイヤーでさ。あんまりまだエデファンのこと分かってないんだよなぁ」
「あらっ? バブちゃんが教えてあげてるんじゃないの?」
「いや、ほらっ、俺強過ぎるからさ。ササキだとステータス的に丁度良いかと思って。お願い出来ない?」
「えー、そんなにバブちゃんから頼りにされるとお姉さん困っちゃうなー」
ササキは、コロウスとバルバトスの頭の先から足の指先まで、まるで何かを吟味するように見つめる。
「うん、悪くはなさそうね。仕方ない、今回だけよ。お姉さんが手取り足取り教えて、あ・げ・る」
「ありがとう、助かるよ! お礼に今度レアアイテム渡すよ」
「約束よ」
ササキは拳を握り締めて小指だけ立てて突きだした。それに応じるかのようにベルゼバブもまた小指を立てて突きだし、両者の小指を交わすことで約束を立てた。
「じゃあそこのお二人、私にパーティ申請を送ってくれるかしら」
「おぉー、パーティ申請だな……ど、どうすれば」
「あーごめん、そこは俺から教えるよ」
ベルゼバブは、コロウス達にパーティ申請の方法を説明し始めた。
「ササキのIDって3756564だったよな」
「そうよ」
「よし、まずコロウスさんから説明するな。『MESSAGE』開いて」
「開いた」
「次に『PARTY』選んで」
「おぉ、あったぞ」
「そこにササキのID入力」
「……ID」
「最後に送信」
「はっはっは! 俺にかかればこんなもの簡単だな!」
「……来ないわよ」
「えっ?」
「私の方に申請来ないわよ」
ベルゼバブはコロウスの画面を覗くや否や、雄叫びをあげた。
「ち、ちがぁぁあう! 言ったよね! ササキのID入れてって! それが何で一桁の数字になってるの?」
「えっ? 好きな数字じゃ駄目なの」
「駄目に決まってんだろ! やり直し!」
――その後、六回やっても上手くいかなかった。そして七回目の送信にて――。
「あっ、バブちゃん! 来たわよ」
「よ、良かった」
バーチャル空間のアバター越しでも分かるほどに、ベルゼバブは肩で息を切って、ゼェゼェと声を漏らしていた。
「あらっ、変わったステータスね。職種が魔王!? 名前がコロウス・ゾ・コラ!」
(やっべ、忘れてた)
二人の介護でいっぱいだったベルゼバブは、パーティ申請時にシステム上、相手に名前とジョブ情報が丸見えになることを完全に失念していた。
ベルゼバブの動きが思わず固まった。言い訳を必死に脳内構築しようとした、その時だった。
「……その様子を見ると何か訳ありそうね。まぁ詳しいことは良いわ。お姉さんはゲームが出来れば問題ないわ」
「ササキ、ありがとう」
「そのかわり今度、攻略に付き合ってね。お礼はお茶でも良いのよ」
「か、考えておくよ……」
ベルゼバブは口を尖らせて口笛を吹くと、ササキと目を合わせようとしなかった。
「さて、本題ね。レベルの割には凄く高いステータスだけど、まだまだ足りないわ。まずはレベル上げしないと。ステ的に紅蓮の館ぐらいならいけるかしら――うん、行きましょう」
「――! おぉーーい、俺の手を引っ張るなー!」
ササキはコロウスの右手を強く握り締めると、鎧をガチャガチャと鳴らしながら、酒場の外へと飛び出していった。
「ふぅ、これで何とかなったか……」
(何か視線を感じる)
ふと、ベルゼバブは斜め下を覗くと、そこにはバルバトスの姿があった。
「あの、私のパーティ申請はいつでしょうか」
「早く言えよー!!」
ベルゼバブはバルバトスを軽々と持ち上げて肩に乗せると、急いで二人の後を追っていくのであった。




