表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/17

旅立ち

 最後の街、ガレス。魔王城の近郊に建設されたこの街は、外の世界を拒絶するように聳え立つ重厚な外壁に囲まれていた。最低限の設備のみ設置され、そのすべては装飾を削ぎ落とした無骨な金属作りである。

 その数少ない建物の中で、唯一の酒場。本来はコロウス討伐のためにプレイヤーが集う場所だ。しかし今は裏ボス攻略の拠点として利用されており、多くのプレイヤーで賑わっている。

 そんな喧騒のなかに、見慣れた三人の姿があった。彼らは店の隅にある円形のテーブルを囲んで座っている。


「なぁ、大丈夫なのか。ラスボスがこんな所にいて」


 並々と注がれたビールを片手に、ベルゼバブが顔を顰める。


「大丈夫だろ。ちゃんと扉にメンテナンス中のメッセージも貼って来たしさ……それよりこれがビールか、はじめてだな」


 申し訳程度にフードを被って顔を隠したコロウスは、両手をテーブルに乗せて、下から覗き込むようにしてビールをまじまじと見ていた。


「いや、そういう問題ではなくて……」


 そのベルゼバブの言葉すら届いていない。

 コロウスにとっては、そんな戯言より、今は目の前にあるビールが第一優先であったのだ。彼はは恐る恐る口をグラスへと近付けて――ビールを口に運んだ。

 直後、彼の頭上にメッセージが表示された。


『GUARD』


「ん? ベルゼバブ君、これはなんだ」


 そのメッセージに視線を送りながら尋ねた。


「あぁ、ラスボス耐性だな。ビールはこの世界だとアイテムの一種だからな。見てろよ」


 そう言うなり、ベルゼバブも手に持っていたビールを喉に流し込んだ。すると、コロウスとは別のメッセージが頭上に現れた。


『攻撃力上昇 600秒間』


「ほら、普通はこうなるんだよ。ただコロウスさんはラスボスだから、一切のアイテムは効かないようになってる」


「おぉ! アイテムが効かない俺は特別ってことか」


「コロウス様、流石でございます」


 目を輝かせながら会話する二人をよそに、ベルゼバブは割って入る。


「逆だ。……はぁ、ますます大変だぞ」


「どういうことだ」


「つまり、コロウスさんはアイテムを使えない。つまり強制的な縛りプレイをしなくちゃいけないんだ」


「なぁんだと! しまった、俺としたことが強すぎるための試練なのか」


「いや、コロウスさんは今のエデファンだと強くないから……」


 容赦のない本音の言葉。

 コロウスの動きが完全に停止する。


「ベルゼバブ様! 事実でも言って良いことと悪いことがあります!」


 ガタッと椅子を引いて詰め寄るバルバトスに、ベルゼバブは両手を振って「ごめんごめん!」と苦笑いした。

 気を取り直すように、コロウスが身を乗り出す。


「ところでベルゼバブ君。今一番の裏ボスは何なんだ?」


「一番って言ったらミーナ・ゴールド・シーだな。俺を含め、重課金プレイヤーは誰も勝てていない」


 テーブルを強く叩くと、まだなみなみと入っていたバルバトスのビールが衝撃によって溢れた。


「そんなに強いのか、そのミーナってやつは?」


「ああ。奴には行動パターンが存在しない。挑むたびにアルゴリズムが変わるんだ。ガチのテンプレ最強編成で行っても、無意味なんだ」


 それを聞いたコロウスは、体を小刻みに震わせると立ち上がる。右足を椅子の上に乗せて、酒場の入口を指し示す。

 そして、腹の底から大見栄を切った。


「面白い! だったらその最強の裏ボスとやらを倒して、エデファンの真のボスがこの俺であることを知らしめてくれるわー!」


 酒場中の視線がコロウスに集中する。

 シン――と静まり返った。

 その沈黙を破るように、バルバトスだけの拍手が鳴り響く。


「あれって、ベルゼバブじゃね」

「何あのパーティー、職業ジョブ小鬼ゴブリンの選択ってあったっけ」

「あの叫んだやつの鎧。コロウスの鎧だろ。そんな装備ってドロップしたっけ」


(やべっ!)


 周囲の空気を察して、ベルゼバブがテーブルの上に乗って手を広げ、皆に喋りかける。


「すげーだろ! 開発者から俺に協力依頼が来てよ。これはベータテスト中でな、今後実装予定だけど、今は内緒な」


 バーチャル空間では平然としているベルゼバブだったが、その内心は穏やかではなかった。現実空間であれば、嘘とバレるほどの冷や汗が出ていたことであろう。


「なーんだ。そういうことか」

「まぁ、ベルゼバブなら有名人だしな。そりゃ声かかるよな」


「分かったよ! 皆、内緒にしとこーぜ」


 小人ドワーフのスキンをした男が意気揚々と大声をあげた。


「すまんな、ありがとう」


 皆に手を振って頭を下げたベルゼバブは、再度椅子へと腰掛け――見栄を切ったままのコロウスに向かって耳打ちをする。


「(コロウスさん、あんま目立つことするなよ。バレると大変だぜ)」


「(すまん、助かったぜ、ありがとうな)」


 ポーズを解除したコロウスは、席に着くなり身を乗り出して、興味津々に尋ねる。


「で、ミーナってのはどこにいるんだ」


「慌てるな。ミーナと戦うには、今アプデで追加された十二人の裏ボスを倒さないといけない。そのためにもまずはパーティメンバー募集とレベル上げだな」


「なるほど……どうすれば良いんだ?」


「ベルゼバブ様。私たちにも分かるように教えて下さい」


 やれやれといった具合でため息を吐き出すベルゼバブは、「ちょっと待ってな」と言うと、微動だにせずボソボソと独り言を呟く。


「えっ、ちゃんとステータス画面あるじゃん……コロウスの癖に結構良いステしてるじゃん……パーティの募集も……出来る……良し」

(コロウスの癖に……)


「今、あんた達にパーティ募集送ったから、画面見てみてくれ」


「ベルゼバブ君!」


「あっ! 分かってるよ、俺と組まないってことだろ! これはやり方の説明だけだから」


「違う! 画面ってどうやって見るんだ……」


「そっか! あんた達、こっちの世界の人だもんな。どーすっかなー」


「ベルゼバブ様。これで良いのでは」


 横にいたバルバトスが鎧の中からリモコンを取り出すと、次に赤いボタンを押した。そこには玉座の間で見たホログラムが映し出された。


 その中から『START』を選択すると、別の選択肢が表示される。


『STATUS』

『SKILL』

『ITEMS』

『MESSAGE』


「それそれ。でもすげぇなそれ、『START』から一気にメニュー画面表示になるのな。じゃあ、そこの『MESSAGE』を押してみてくれ」


「これでございますね」


 バルバトスは言われたままに『MESSAGE』を選択した。


「――ベルゼバブ様から、ステータス情報と共に招待が来てますね。それに承認か拒否かと」


「そうそう、そんな感じでパーティに誘うんだ。こっちの情報も送られるから、それで組むかどうかを判断するってわけ」


「なるほどでございます。ありがとうございます」


「後は実戦だな。じゃあ早速、誰かパーティに誘ってみようぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ