やりたいこと
混沌、秩序の崩壊。世界には流れがある。川のように、常に同じルートを進み続ける。時に激しく、時に優しく。それがエデファンでのルールである。では、もしも川の水が溢れ出したらどうなるか。それは、未だに誰も知らぬ新世界の始まりとなるであろう。
(これが混沌……誰か助けてくれ……)
ベルゼバブは尚もまだ頭を抱えていた。
「おい! バルバトス! 見ろよ!」
コロウスは、いつもは閉じられているはずの入口の扉の前に立っていた。そして、片足を上げて外の廊下へと近づける。
「まさか! 外のエリアに出られるのですか!?」
「その通りだ」
次の瞬間、コロウスは身を外へと放り投げた。 その身体は、ボスエリア外の廊下へと軽々と移動する。
「おぉぉおお! 見ろよ、見えない壁がないんだぜ」
「素晴らしい。プレイヤーがそこにいても、私達は何もすることが出来ず、何度悲しい思いをしたことでしょうか」
バルバトスは出来事を思い出していた。
扉の前で延々と屈伸を繰り返す者。ダメージを与えては扉の外へ逃げ、また戻って来る者。負けそうな癖に強気な捨て台詞を言い残して逃げる者。思い返せば、ろくな連中ではなかった。
「……なぁ、自由になったとしてあんた達はどうするんだ?」
何かを諦めて、現実を受け入れたベルゼバブが二人へと問いかけた。
「そうだな……俺は……」
コロウスは黙り込んだ。今までは決まったことの繰り返しだった。ただ初期ラスボスとしての役割、インフレした社会ではチュートリアルボスとして倒されるだけの役割。自由になった今、何をすべきか迷う――筈だった。しかし、コロウスの中で目標は決まっていた。
「裏ボスを倒す。俺は俺より強い奴に会いに行く」
胸の前で腕を組み、左斜め下を見つめ、コロウスは言った。
ベルゼバブは戸惑いを隠せなかった。
十年続くエデファン、アプデで追加された裏ボスは数多い、初期の裏ボスならまだしも、最近の裏ボスは、重課金者のベルゼバブにしても、適切な武器、スキル、パーティ構成が揃ってようやく倒せる。それ程の強さだったからだ。
「じゃあよ。俺とパーティ組まねえか。今まで何度も倒して来たしさ。そのお詫びと言っては何だけど、俺ほぼ全部の裏ボスを倒してるから、役に立てると思うぜ」
「はっーはっは、それじゃつまらん」
コロウスは腕組みを解くと、鋭い青い瞳をベルゼバブへと向けた。
「何言ってんだよ! お前は初期のラスボスだぞ。アプデで追加されたボスにかなうはず――」
「だからこそ面白いのだ!」
ベルゼバブの言葉をかき消すように、コロウスは叫んだ。
「俺は飽き飽きしてたんだよ。あっさり倒されるのも、あっさり倒すのも。昔のように、あの生死を分かち合う必死の戦い――ゲームがしたいんだ」
「本気かよ……」
「俺はいつだって本気だ。それにいざとなったら【破斬】で倒せばいいだけ」
不敵な笑みを浮かべたコロウスは、自身の右手を突き出すと、舐め回すように見つめる。
「はぁ、それ無理だと思うぜ」
「えっ?」
「コロウスさんよ。【破斬】は第一形態、つまりはじめのHPストッパー前で使える技だよな」
「あぁ、それが」
「じゃあ、どうやって使う?」
「俺の素晴らしい技が見たいのか? 仕方ないやつだな。まずはこうやって……」
スキップするかのように、軽い足取りでコロウスは玉座へと向かうと――深く腰掛けた。
「ほらっ、玉座に座ってだな、右手を掲げて……ん? 玉座に座って……」
「そう、第一形態、玉座にいる時にだけ使える技なんだよ」
「うぉぉおお! 俺の最強スキルがー!」
こうして始まったラスボスによる裏ボス討伐のMMORPG。コロウスは果たして全ての裏ボスを倒すことが……出来るのだろうか。




