第四話 俺って最強?
―ベルゼバブが倒れた後、残された新規プレイヤーたちは完全に意気消沈し街へと帰っていった。それから二時間が過ぎていた。
玉座の間からプレイヤーがいなくなった為、バルバトスも元の姿へと戻り、無事にリスポーンしていた。
「バルちゃん! 見たか? 俺の技、最強になってたぜ。はっーはっー!」
相変わらずコロウスは玉座に腰掛けていた。体が折れてしまうのではないかと思えるほど仰け反って笑っていた。
「はぁ、ですが、バグかと思われますので、すぐに修正されるかと」
バルバトスは、玉座の後方に目を向ける。鎧の隙間からリモコンらしきものを取り出し、赤いボタンを押した。
すると、二人の目の前の空間に、ゲームのログイン画面のようなホログラムが表示された。広大な山々と海、海岸には真っ白な城と栄えた街が映し出され、『START』『HELP』『OPTION』といった文字が浮かんでいる。
バルバトスは手元のリモコンを器用に操作し、メールの形をしたマークを選択した。
「あれ? おかしいですね」
「どうした」
「いや、通知がありませんね」
「というと」
画面には大量のシステムメッセージが表示されていた。バルバトスは上から下まで、舐めるようにメッセージ一覧を確認していく。
「バグ修正も、緊急メンテナンスも来ておりません」
「おいおい、ってことは、俺って」
コロウスは勢いよく椅子から立ち上がると、拳を天井へ向けて突き上げ、割れんばかりの声で叫んだ。
「最強ってことかー!!」
それが人生最後の言葉であるかのように、コロウスはその完璧なガッツポーズのままピタリと凝固した。しかし、湧き上がる嬉しさを抑えきれないのか、体は小刻みにプルプルと震えている。
「コロウス様、あまり喜び過ぎない方がよいかと思います。修正入った時のショックが大きくなるかと」
返事がない。コロウスはただ固まっているようだ。
(おいおい、どうするよ。誰がこれ攻略してくるんだ)
しかし、彼のその頭の中には様々な考えが巡っていた。
(あれか、またスレとか立つんか。いったい誰が攻略するんだ。プレイヤーは死にゲーで挑んで来るんだよな? 攻略法とか考えるんだろうな)
「あぁぁあー! ワクワクするな!」
水を得た魚のように、先ほどまで固まっていたコロウスが、その言葉を機に、玉座の間を飛び跳ねながら駆け回った。
「良かったです。コロウス様が嬉しそうで、私は、私まで嬉しくなります」
鎧からお気に入りの骸骨模様のハンカチを出すと、バルバトスは目から溢れ出す涙を拭いた。
「お前っていい奴だな」
激しく泣くバルバトスに歩み寄り、コロウスはその背中をポンポンと優しく叩く。
「まぁ、お前は今までのままっぽいけどな」
バルバトスの手がピタリと止まる。
「酷い人です。人が感傷に浸っていましたのに……」
「すまん、きっとお前にもアプデが来るさ」
そう言って、コロウスはまるで子供をあやすようにバルバトスの頭を撫でた。
「おいおい、どういうことだよ」
コロウスでもバルバトスでもない声――その驚愕に満ちた声は、玉座の間の入り口の方から響いた。二人が声のする方を向くと――そこには呆然と立ち尽くすプレイヤー、ベルゼバブの姿があった。
「何で、何でNPCが自律してるんだ!」
ベルゼバブは戸惑いと衝撃を隠せない様子で、魔王に再挑戦するために腕に抱えていた大量のバフ用消費アイテムを、その場にバラバラと落としてしまった。
「……あっ」
「見つかっちゃった」
コロウスが小さく声を漏らす。
一方で、ベルゼバブの顔は信じられないほどの歓喜に染まっていた。
「うおぉー! すげぇ! これ隠しアプデかよ!? おい、運営マジで神かよ!!」
目の前にいるのが先ほど自分を倒したボスだということも忘れ、ベルゼバブは武器すら構えずに目を輝かせた。そして二人の元へ猛ダッシュで駆け寄ると、キラキラした目で二人を凝視した。
その様子に、コロウスは思わず両手を前に突き出して、引きつった笑みを浮かべた。
「あ、いや、ベルゼバブ君。違うのだよ」
「えっ?」
時が止まったように、静寂が空間を支配した。




