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第二一話 NPC

「初めての方もいるから、自己紹介しとくねー。精霊人エルフのマイリスだよー」


 円卓を囲む一同の視線が集まる中、真っ先に口を開いたのはマイリスだった。顔の前で横向きのピースサインを作り、いたずらっぽく微笑む。


「おぅ、俺はコロ――」


「あー、変態さんとそのお連れさんは大丈夫。この前ベルゼバブ叫んでたの聞いてたから知ってるよー」


「……へ、へん――そうか」

(変態さん……)


 何か言いたげなコロウスであったが、右頬を擦ると、それ以上は何も言わず、口を横一文字に閉じた。


「コロウス様。――そんな趣味があったのですか。私としたことがそんなことを知らないなんて、申し訳ございません」


 その場に起立し、深々と頭を下げるバルバトス。


「ち、違う、バルちゃん! 俺にそんな趣味は断じてない! 誤解だ!」


「どうか恥ずかしがらないでください、コロウス様。個性は人それぞれでございます。何があっても、私は生涯お仕えする所存でございます」


「はぁー」


 コロウスは深いため息を吐くと、力なく項垂れた。


「……変な人達。……で、そっちの赤い鎧の人、カルテットだっけー? あんまりみない顔だねー」


 マイリスは呆れたようにパチクリと大きな目を瞬かせると、すぐに興味を切り替えて視線を動かす。


「は、はい。い、いつもソロでやってる。……です」


 肩をすぼめたカルテットは、もじもじと、胸の前で両手の人差し指を交差させる。


「それよりだ! 教えてくれ、カルテット! 君に何があったんだ!」


 ベルゼバブが円卓を激しく叩きつけた。あまりの衝撃に、テーブルの上の食器が踊ってみせた。


「――ひっ……ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」


 そのベルゼバブの剣幕に驚いたのか、両手を広げてカルテットは仰け反った。


「バブちゃん。怖がらせちゃ駄目じゃない。大丈夫よ。ここにいる皆は優しいから、話してみて」


 カルテットの目を見つめながら、ササキは彼の手を優しく握り締めた。手を握られたカルテットは何度か深呼吸を繰り返すと、やがて落ち着きを取り戻し、ゆっくりと口を開いた。


「僕は、あ、あの、モエンに負けた。……です」


「モエンに? そのレベルだったら大丈夫だと思うが……予想より強かったのか?」


「は、はい……普通のモエンと違う。……ました。ぼ、僕が戦う前に、見た感じだとまだ未熟なパーティが挑んでいた。けど、皆やられて、モ、モエンが大きくなっていきました」


「レベルアップしたんじゃないか?」


 コロウスのその低い声が空気を僅かに揺らす。一同が息を呑む中、コロウスはそのまま話を続けた。


「信じられない奴もいるのだろうが、俺は正真正銘のコロウス――NPCだ。――不思議だったんだよな。今まで返り討ちにしても、俺達はレベル上がることなんてなかった。でもよ、紅蓮の館ではボンボンとレベル上がったろ? おかしくないか?」


「確かに、コロウスさん、あきらかに強くなっていってるもんな」


 すんなりと納得するベルゼバブに対して、マイリスが突っかかる。


「え、えっ、ちょっと待ってー! 変態さんが、あの雑魚ラスボスのコロウス本人だっていうのー?」


「あぁ、俺が保証する。その話は本当だ」


「う、うそぉー。コロウス好きだったのになー……残念」


 何かに失望したように蔑んだ瞳で、コロウスを睨みつけるマイリス。


「……お、おほん。そ、それよりカルテット君。モエンにやられて、その後どうなったのだ?」


「モ、モエンにやられたら、視界が真っ暗になった。……です。い、いつも通り、宿屋にリスポーンされると思っていたら」


 カルテットの言葉が詰まった。思い出すだけでも恐ろしいのか、両手を激しく震わせながら頭を抱え、奥歯がガタガタと音を立てて鳴る。それでも彼は、襲いかかる恐怖を必死に押し殺すようにして、掠れた声を絞り出した。


「プロ、プログラムが、僕の中に入って来たんだ! ぼ、僕をゲームの住人にしようとしてたんだ!」


「――! カルテット君! 落ち着いて、詳しく話してくれ」


「は、はい。真っ暗の中に、み、見えたのは書き変わっていくプログラムコード。……でした。そしたら、ぼ、僕はなんかぼんやりしてきて、ゲームと現実の境界線が、わ、分からなくなった」


「それで、その後は」


 ベルゼバブが息を呑む。


「ぼ、僕を呼んでるモエンの声が聞こえたんだ。そしたら、僕は皆さんの前にいて、ゲ、ゲームの命令に従って戦わなくちゃって。そ、そんな考えになって、で、でも、薄っすらと現実の記憶がの、残っていて……ぁああああー!」


 喉を引き裂くような悲鳴が酒場中に響き渡る。その声は、街中にまで届いたかと思えるほど凄まじかった。


 そして、酒場は再び、死んだような静寂に包まれた。

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