連携
「先陣は俺が行く」
ベルゼバブは両手を広げる。
右手から雷光が瞬き、激しい稲妻が彼の掌へと収束していく。空間を引き裂くようなジリジリという風切り音が、鼓膜を激しく震わせた。
やがて、雷光は眩い輝きを放って収束する。光が晴れた後に現れたのは、ルビーのように赤く輝く刀身を持つ聖剣だった。
彼はその柄を力強く握り締めた。
応じるように、今度は左腕が共鳴を始めた。放たれる光は虹の帯となり、一筋の軌跡を描いた。彼の拳を核とするように、綺麗な楕円の輪を形作っていった。
集まった虹色の光は実体化し、色を残しながらも透き通る、ベルゼバブをすっぽりと隠すほどの巨大な盾だった。
ベルゼバブが手にしたのは虹彩の盾。それはエデファンにおいても貴重な使い捨てアイテムだった。本来であればミーナとの戦いまで温存する予定だったが、ここで使うことに一切の躊躇はない。
「これなら今のモエンの攻撃でも数回は耐えれる筈だ。……ササキ、【鬼気爆凰】の準備をしといてくれるか」
「えっ? それ使っちゃったらそれこそ全滅しちゃうわよ」
「大丈夫、その為の盾だ」
ベルゼバブは虹彩の盾を身体の正面に構えると、ニヤリと片方の口角を上げて見せた。
「俺はどうすれば良い。まだ後一回なら死ねるぜ」
コロウス自身、レベルが違い過ぎることなど分かっていた。だからこそ、自分に出来ることを選んだ。
「悪いなコロウスさん……死んでくれるか」
「はっはーは! 相変わらずはっきり言う男よ」
コロウスは目を丸くしたあと、不敵に笑った。
「ベルゼバブ君にしては脳筋な作戦だな。まぁ、面白い。やってやろうではないか」
「行くぞ!」
それが合図だった。
ベルゼバブは盾で全身を隠すようにモエンへと向かう。
「【知識・屍人】」
モエンが唱えた。
次の瞬間、地下から蠢く音が聞こえる。
大地が裂け、深紅の手甲を装着した手が這い出す。
(なんだこのスキル! 聞いたことないぞ!)
這い出した手は地面を掴むと、凄まじい力で残りの肉体を地上へと引きずり出した。土煙を上げて大地の底から現れたのは、頭からつま先まで深紅の鎧に身を包んだ人の姿であった。
その頭上に文字が浮かぶ。
『Player カルテット(LEVEL495)』
「はっ!?」
勢いよく駆けていたベルゼバブの足が、地面を削って止まる。
あり得なかった。ボスがプレイヤーを召喚するなど。
考える暇などない。
深紅の鎧の騎士――カルテット。彼は腰の鞘から剣をゆっくりと引き抜く。金属が擦れる甲高い音が耳を刺激する。現れたのは白い刀身を持つ、ありふれた片手剣。それが――ベルゼバブへと牙を向く。
「――早いっ!」
閃光のよう、まさに一瞬だった。
カルテットはベルゼバブとの間合いを詰めると、縦一閃に剣を振り下ろした。
『2741』
『HP 97256/99997』
ベルゼバブは咄嗟に盾を構え、その一撃を受け止めた。白刃と虹色の盾が激突し、火花が散る。カルテットの剣はなおも盾を押し込み、ベルゼバブへと迫った。
ベルゼバブも全身の力で押し返す。
「おい! カルテットって、お前プレイヤーだろ。何故、こっちに攻撃する」
「……に……げ」
攻防が続く中、兜に覆われたカルテットの頭から、微かに声が聞こえた。
「――!」
ベルゼバブがカルテットに気を取られていた時だった。
不意に右から影が差す。
ベルゼバブは咄嗟にカルテットの剣を盾で受け流し、そのまま影の方向へと向けた。
『Critical 25836』
『HP 71420/99997』
そこにいたのは右手を振り下ろしたモエンだった。
盾により致命傷を防ぐことは出来た。だが床は割れ、ベルゼバブの足は地中へと埋まっていた。
「残念」
振り下ろした右腕を引き戻すことなく、今度は左手が無防備なベルゼバブの右半身へと襲いかかる。
(殺られる!)
「――魔技【点死突】」
『Critical 4231』
『Abnormality DEATH』
『GUARD』
『HP 67189/99997』
「即死耐性があって良かったです」
横たわるベルゼバブの視界に映ったのはバルバトスの姿だった。
稲妻のような速度で駆け抜けたバルバトスは、ベルゼバブの肩を剣で貫き、その勢いのまま強引に間合いの外へ弾き飛ばしていた。
「いつも私の存在を忘れないで下さい」
バルバトスはベルゼバブから剣を引き抜いた。
「すまない。ありがとう」
「……に、……ろ」
またしてもカルテットだった。剣を振り上げ、ベルゼバブと肉薄する距離まで迫っていた。
ベルゼバブはバルバトスを退かせるように蹴り飛ばし、上半身を起こして――盾で迎え撃つ。
『1423』
『HP 65766/99997』
反撃へ移ろうと剣を繰り出すベルゼバブ。
(相手はプレイヤー……だ)
その考えが剣を鈍らせた。
カルテットは容赦無く、再度、手にした剣を振り上げた。
――その瞬間、カルテットの背後に黒い霧が漂う。
『8951』
カルテットの身体が大きく吹き飛んだ。
「ベルゼバブ君。俺はプレイヤーに容赦なんか出来ないぜ」
声の先には、闇の剣を薙ぎ払ったコロウスが立っていた。




