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仲間

「私としたことが取り乱してしまいました。コロウス様、申し訳ございません。」


「いや、俺の方こそ無謀過ぎた」


 バルバトスを慰めるように、コロウスは彼の肩を優しく二回ほど叩いた。


「いや、バルバトスとコロウスさん。あんた達のおかげこっちは命拾いしたよ」


 二人に声をかけるも、ベルゼバブは視線をモエンから外せなかった。

 歴戦プレイヤーのベルゼバブにとっても、モエンの強さは想定外だった。もし、先陣を切ったのがコロウスより防御の低いササキがだったら――そんな嫌な想像が、彼の背筋を這い上がらせる。


「なぁ、本当にモエンってのはこの強さなのか?」


 コロウスが尋ねる。


「全然違う……。そもそもモエンは知識の番人。スキル主体の攻撃だ。あの腕は基本的に防御でしか使用しない」


 コロウスの違和感は正しかった。

 モエンに起こった変化、それに異常なまでの火力は、エデファンのゲームバランスから逸脱していた。


「とにかく、このままだと確実に全滅だ。……一度引こう」


 ベルゼバブはじりじりと、足を地面に擦りつけながら、一歩、また一歩と後退を始める。


「ベルゼバブ君。正気か! ここまで来て逃げるのか!」


「うるさい! コロウス! お前は最強になるんだろ!? ならこんな所で負けていいのか!」


 誰かに叱責されること、それはラスボスとして君臨してきたコロウスにとってはじめての体験だった。仲間の訴え、それがコロウスの胸に深く突き刺さった。

 そして、コロウスは思う。


(魔王たるもの、仲間を見捨てることなど出来ない)


「……分かった。今回だけだぞ」 


「コロウスさん。ありがとうよ」


 安堵の息を漏らすベルゼバブ、彼の願いはただ一つ。全員生きてここから帰ることだった。まさか、NPCにそんな情が沸くとは、彼自身も思っていなかったであろう。


「……水刺してごめんね。……後ろを見て、それは無理みたいだから」


 震えるササキの声。

 その指示に従って、ベルゼバブ達は振り返った。


「……っ」


 視界に映った景色に言葉を失う。

 何もなかったのだ。扉も壁も。空間を隔てるように、書斎室の一定のラインからは虚無に満ちた黒い世界が広がっていた。


「――なんだよ。これ」


 ベルゼバブは黒い空間へと手を運ぶ。だが、見えない壁に手がぶつかる。二つの空間は遮断されていたのだ。

 この状況に、彼は慌ててメニュー画面を宙に展開する。真っ先に確認したのは『LOGOUT』ボタンだった。画面右下に表示されたそれは、問題なく機能してそうに見える。


「ササキ! ログアウトは出来そ――!」


(コロウス達はどうなるんだ)


 ベルゼバブの脳裏によぎった疑問。


(この異常な状況だ。やられてもリスポーン出来るのか。もし、リスポーン出来なかったら……)


「何をしている? 早く逃げろ、俺達は大丈夫だぞ。ベルゼバブ君の言う通り、確かに負けたくはない。だが、俺達は何度も倒されてきた。だから大丈夫だ」


「コロウス様の仰る通りでございます。私も何度となくコロウス様に倒されておりますゆえ、これぐらい大したことありません」


「コロウスさん……」

(駄目だ。……残していけない)


 下唇を強く噛みしめるベルゼバブ。


「バブちゃん、コロウスさん達ってやっぱり……」


「あぁ、彼等はこちら側のキャラクター。NPCだ」


 ササキの中でも薄々はそうかとは思っていた。それが、現状とベルゼバブの言葉によって確信へと変わった。


 「はぁ」


 大きな溜息がササキの口から漏れ出した。


「皆、うじうじとして、お姉さんを困らせないでくれる。簡単じゃない。倒せばいいだけでしょ。死なずに帰るわよ」


 ササキは手にした呪鬼ジュキを構えると、再度モエンを睨みつけた。


「仕方ないな。付き合ってやるよ」


 ベルゼバブは開かれたままの画面から、今度は『MESSAGE』、『PARTY』の順で選択を行なった。表示されているのはササキが送ったパーティ申請。それを――迷わずに承認ボタンを押下した。


「ベルゼバブ君、約束が違うぞ」


「うるさい。今回だけだ」


「全く。仕方ない。助けてやろう」


「どっちのセリフだよ」


 コロウスとベルゼバブは背中を合わせるようにして立つ。


「……あの、私もいることをお忘れなく」


 そんな二人の間でバルバトスも剣を構えていた。

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