第十四話 続・探索
ササキ達と合流したコロウス達。
主を置いていったバルバトスが、コロウスに怒られていたのは言うまでもなかった。
館の通路は一本道だった。時折、深紅の扉がついた小さな部屋が現れる。中には宝箱が設置されているのだが、ササキとベルゼバブは開けようともしなかった。このあたりのアイテムは、もう彼らにとって必要ないのだろう。
「そういえば、バブちゃん知ってる?」
「んっ? 何をだ?」
ササキは少しだけ表情を曇らせた。
「今、変なバグが出てるらしいの」
「バグ?」
「うん。ボスに倒されたプレイヤーがログアウト出来なくなるんだって」
「はっ?」
ベルゼバブが思わず足を止める。
「いや、それ結構やばくないか?」
「やばいわよ。でも、運営からまだ正式な発表もないし、掲示板でも本当かどうか分からないって感じ」
「それに……」
「それに?」
「動作が急に重くなったり、勝手に同じ言葉を繰り返したりとかそういう不具合も起きるらしいのよね」
ベルゼバブはササキの発言に強い違和感を覚えた。
――エデファンを何千時間も遊んできた。ラグや不具合など嫌というほど見てきた。だが、妙だった。メンテ後に新たな不具合が発生すること自体が珍しい。しかも、それにコロウスの件――タイミングがあまりにも不可解だった。
「いやいや、もし本当なら大問題だろ」
「……そうなの、特にコロちゃんバルちゃん。あの二人はまだレベルが低いから、あんまり無理はさせられないわ」
ササキは、言い争い合うバルバトスとコロウスに視線を送る。
「コロちゃんが嫌がるかも知れないけど、私からバブちゃんにパーティ申請送っておくわ」
「あぁ、いざとなったら承認するよ」
「よろしくね。重課金最強勇者様」
「やめろよ、その呼び方」
ベルゼバブは顔をしかめたが、ササキはいたずらっぽく笑みを深める。
「まぁ、今回の相手はモエンだし、大したことないはずよ」
「だな。ササキもいるし、事故ることはないだろ」
並んで歩く二人。内心は問題ないと思っていても、その表情に笑顔はなかった。
「――!」
その直後、ベルゼバブの左肩を何者かが掴んだ。影が彼を呑み込む。
反射的に腰を大きく捻り、右の拳を丸め、渾身の力を入れて――その正体も確認せず殴りつけた。
『Critical 26810』
「な、なんで」
聞き覚えのある声。鈍い金属音。骨が軋む音がした。
黒い影が、ベルゼバブから見て後方に飛んでいった。
何やら、バルバトスが慌てている。
ササキが口を両手で塞いでいる。
その光景に、ベルゼバブ自身も驚きを隠せなかった。
吹き飛ばされたそれの正体はコロウスだった。
ベルゼバブのパンチがもろに顔面に入ったのか、鼻からは鮮血が流れ出ていた。
「す、すまん! 流れ的につい咄嗟に手が出てまった!」
「……ベルゼバブ君、また私で経験値稼ぎするつもりか」
「本当にすまん! ほらっ、癒しのポーションで回復を」
ベルゼバブの右手に球体の薬瓶が召喚される。中には青く透き通った液体が揺れていた。
それをコロウスに目掛けて――投げつけた。
『GUARD』
本来であれば、身体に吸収されるポーション液。しかし、アイテムが効かないコロウスは、頭からポーション液でびしょ濡れになっただけであった。
「……いじめか」
コロウスは頭から滴るポーション液を拭った。
「ベルゼバブ君いじめか。みじめにいじめか……なんつって」
「……本当にすまん。うちのパーティ回復役いないから、その、つい……うん、時間経過の回復で何とかしてくれ」
コロウスはベルゼバブの態度に、いつか仕返ししてやる、と思いつつ無言で歩き出した。
「……なぁ、ササキ。ログアウト不可のプレイヤーって何人ぐらいいるんだ」
先程のことなどなかったかのように、ベルゼバブはササキと話題の続きを話し始める。
「さぁ、四時間ぐらい前にメンテがあったでしょ。なんかコロウスのスキル関連の不具合で。どうやら、そこかららしいのよね」
「なるほど、まだ人数は分からないか」
(また、コロウス……か)
「うん、もしかしたらモエンも人気のボスだから、やられた人もいるかもね」
「まぁ、用心するに越したことはない。気を付けて行こう」
――モエンが待つ紅の書斎室は、もう目の前まで来ていた。




