探索
「喰らえ!」
赤い床が続く狭い通路。自身のその掛け声がコロウスを掻き立てる。
目の前には敵。人間で表すのであれば、少年ぐらいの身長だろう。赤い傘に紫の斑点模様を浮かべた茸の怪物、手こそないが、四本の足を器用に使い、縦横無尽に床や壁を動き回る。牙の生えた巨大な口は獲物を飲み込む為にあるのだろう。
茸の怪物はコロウスの背後に回り、噛みつこうとする。しかし、その攻撃は届かなかった。先にコロウスの闇の剣の刃が茸を二つに割いたのだ。
赤い稲妻のようなエフェクトを発しながら茸の怪物は消滅した。それを見ながらコロウスが呟く。
「うーん、レベルが上がらなくなってきたな」
ステイを倒してから順調に紅蓮の館を探索していた一行。ここに来る道中で幾度となく戦闘を行なって来た。その度にレベルが上がっていたのだが、その流れも緩やかになりつつあった。
コロウスは空中にステータス画面を展開し、現在の数値を確認する。
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NAME:コロウス・ゾ・コラ
LEVEL:131
HP:30000:30000:50000
ATK:609
DEF:935
INT:56
AGI:375
JOB:魔王
WEP:闇の剣
GEAR:魔王の鎧
EX:NON
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「そうだね。雑魚モンスターだと、経験値はあんまり貰えないからね」
隣を歩くササキが、先ほどまで怪物がいた空間を指差しながら同意する。
「ちなみにササキのレベルはどれくらいなんだ」
「あっ! そうだね。私のステータスも見せておくわね」
ササキが何かを思い出したように空間に指を滑らせると、コロウスの画面の隣に、もう一つのステータスウィンドウが展開された。
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NAME:ササキ
LEVEL:531
HP:85020
ATK:2780
DEF:521
INT:353
AGI:121
JOB:鬼人
WEP:呪鬼
GEAR:力の鎧
EX:破壊の腕輪+47
EX:剛力の腕輪+67
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「ご、ごひゃく、さんじゅう、いち……」
展開されたササキのステータスを凝視したまま、コロウスの口から魂の抜けたような声が漏れる。
あの破壊力の技から、ササキのレベルはもっと高いと思っていた。だが、ベルゼバブに比べたらまだ半分程のレベル。それであの火力。そう考えるコロウスは、思わず身震いを起こしてしまった。
「そのレベルであの火力ってエグくない」
「そうね、鬼人のスキル補正もあるから、あれぐらいの火力は出るのよ」
「スキルかぁ……」
ボソッと小言を吐くと、今度はスキル画面の表示を行った。
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SKILL
魔王の加護(常時)
闇の剣・破斬(使用不可)
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「それも、第一フェーズだけのぽいな」
コロウスのスキル画面を覗き込むベルゼバブ。
「第二フェーズだと、常時で霧に消えるスキルとかあるはずだしな」
「せめて【破斬】が使えればなぁ」
あからさまに肩を落とし俯くコロウス。
せっかく得ることが出来た最強スキル。それは玉座限定という縛りのせいで使えない。常時である魔王の加護も、ありとあらゆる状態異常だけでなく、回復薬や強化といったアイテムの恩恵すら受けられない。
そんな何とも言い難い内容に嘆くことしか出来なかった。
「なぁ、……ラスボスってこんなに弱いものなのか」
ベルゼバブに問いかけるコロウス。
いつものベルゼバブのことだ。弱いとか、まぁ初期ボスだからな、と言った返答が来るものだとコロウスは思っていた。
しかし、ベルゼバブはその場に立ち止まり、顎に手をあてて何か考えている素振りをみせる。
「確かに変なんだよなぁ」
「えっ?」
想定していた答えと違った為、思わずコロウスは聞き返す。
「確かに、ラスボスとはいえ、リリース当初のボスだから弱いは弱い」
「お、おぅ」
(やめて、ちょっとはオブラートに包んで)
「だけど、コロウスさんとバルバトスはずっと二人なんだよな」
「はっ? 意味が分からん」
「いや、人気のあるボスってさ、追加アプデとか、レイドイベントとかで、強化バージョンが出てくるんだよ。普通はな」
「ほぅほぅ」
「コロウスさんとバルバトスさん、エデファンの中でも人気高い……俺はそんなだけど」
「んっ?」
(えっ? いる? 今の一言いる? 傷付くんですけどー)
「でも、追加アプデもなく、強化バージョンも存在しない。ずっと二人のままなんだよな。単純に人気があるから、どっか記念のタイミングで実装検討しているのかなぁ」
「そうなのか。自分が何人もいるなんて、俺からしたら考えられないがな」
「確かに、コロウスさんさぁ――」
『2647』
「いっ、痛たたた!」
ベルゼバブが何か言おうとした時だった。あの茸の怪物がコロウスの尻に噛み付いたのだった。その牙は想像以上に鋭く、コロウスの鎧を貫通し、肉体にダメージを与えた。
「この野郎!」
コロウスは後ろに手を回すように闇の剣を振った。風を切る音がし、続いてまるで食材でも切っているような音が鳴る。
茸の怪物の身体が胴体から二つに切り裂かれ――光って消滅した。
「リスポーンしちゃったな……ササキ達も先に行っちゃったし、また沸く前に俺達も急ごう」
「……あ、あぁ、そうだな」
(いつの間に二人は移動したんだ。ってかおいて行くなよ)
一行はさらに紅蓮の館の奥へと突き進む。
とりわけ、ベルゼバブは自身の中にある懸念を振り払うかのように走った。




