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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第465話 蜘蛛女(1)

「くそっ、硬い……!」


 トリモチ状のもの──よく見れば大量の粘ついた「糸」の束のようだ──に上半身首から下を包まれ拘束された俺は、どうにか脱出を試みる。


 だが、かなり厳しい。

 力づくで引き千切ることができなくはなさそうだが、それもすぐには無理だ。


 一秒や二秒で脱出できるような代物ではない。

 この拘束から脱するには、どうしてもその十倍ぐらいの時間はかかると思った。


 そしてその十秒や二十秒が、秒単位で刻々と変化する戦場にあっては、果てしなく長い。


 この拘束状態では、スキルや魔法を使うこともできない。

 いつぞや砂漠の都ラダージャで拘束されたときには、その気になればいつでも脱出できたからよかったが、この粘糸(ねんし)は冒険者拘束用ロープよりもはるかに強靭だ。


「くそっ……! 悪い、すぐには脱出できそうにない! 何とかもたせてくれ!」


「わ、分かった──【ミリオンスラッシュ】!」


「クアーッ!」


「先輩抜きで戦えって、キッツイっすね──【フェニックスストライク】!」


 風音とグリフの白兵攻撃が、弓月の魔法攻撃が、蜘蛛女に次々とダメージを与えていく。

 だがそれですぐに倒せるような相手ではない。


 一方では、蜘蛛女が再び、その口から大量の粘糸を吐き出した。


「うそっ、こっち来たっす!? ──うぁあああっ!」


「火垂ちゃんまで!?」


「ご、ごめんっす、風音さん! これじゃ魔法もフェンリルボウも……!」


 今度は弓月が標的となった。

 弓月も回避しようとはしたようだが、それが逆に仇となった。

 とっさに横に跳んだところを粘糸に捕まって、上半身首から下をまるまる拘束された芋虫のような姿で転倒してしまった。


 これで自由に動けるのが、風音とグリフだけになってしまった。


「ふふふっ、二人目よ。そろそろ絶望の感情(こえ)が聞けるかしらぁ?」


 対する蜘蛛女はというと、その身に治癒の輝きが宿り、受けたダメージの一部が回復していく。

 一度目の粘糸を吐いた直後にも、同じように治癒の輝きを見せていた。


「また100回復! 残りHP、1873/2400っす!」


「うそ、まだそれだけ!? 硬すぎる……! けど、やるしか──やぁああああっ!」


 一度間合いを取っていた風音が、再び敵の懐に踏み込んで二度目の【ミリオンスラッシュ】を放つ。

 さらにグリフの爪やくちばしによる連続攻撃が重なった。


 だが蜘蛛女の動きも速い。

 こちらの全員が【クイックネス】の影響下にあってなお、すべての攻撃が命中することはなく、たびたびミスが発生している。


「残りHP、1375っす!」


 弓月からの報告。

 着実にダメージを与えてはいる。

 与えてはいるが──


 これ、ひょっとしてヤバくないか?

 俺の背筋に、うすら寒いものが走る。


「まったく、強い子たちが寄って集って、酷いわねぇ……! そろそろお仕置きが必要ね。さあ、いらっしゃい──『闇の(いかずち)』!」


 二度目の粘糸を吐き出した後、蜘蛛女はその身に闇色の燐光をまとわせていた。


 やがて、その鎌状の両腕を天に向かって掲げると、闇の輝きが頭上へと立ち昇る。


 それは瞬く間に周囲へと広がり、無数の闇色の稲妻となって降り注いだ。


「ぐっ……!」

「きゃあああああっ!」

「クァアアアアッ!」

「うふふふっ……!」


 その範囲攻撃の効果範囲に含まれたのは、俺、風音、グリフ、そして蜘蛛女自身。


 風音とグリフが至近距離にいたから、同時に多くの標的を攻撃するには、やつ自身も巻き込まざるを得なかったのだろう。


 とはいえ闇属性は耐性持ちだったはずだ。

 自爆攻撃でも、さほど大きなダメージにはならないと予想できる。


 ちなみに、いくらか離れていた弓月は、効果範囲から外れたようだ。


 稲妻の雨が止む。

 範囲攻撃なこともあってか、即座に戦闘不能に陥るような威力ではなかった。

 俺が受けたダメージは、あと二度同じものを受けたら倒れるかもしれない、といった程度だ。


 風音やグリフのほうが、いくらか被害は大きいだろう。

 それでもこの威力なら、どちらもHPの半分は削られていないと思う。


 一方の蜘蛛女自身はというと、自らの闇の雷を受けた直後に、治癒の光を宿していた。


「残りHP、1407っす……!」


 自身の巻き込み攻撃で受けたダメージより、再生能力による回復のほうが大きいか。


 このままだと、まずい──が。


「──うぉおおおおおおっ!」


 俺は雄叫びとともに、トリモチ状の粘糸を勢いよく引きちぎった。

 ようやく自由を取り戻すことができた。


 なお引きちぎられた粘糸は、体や盾にへばりついたまま──かと思ったら、不思議なことにすぐに消え去ってしまった。


「あらぁ……? ずいぶん早くに抜け出すのね、すごい力。ほかの子たちもだけど、本当に人間なのかしら」


 蜘蛛女は少し驚いた顔を見せているが、いまだに余裕ぶっている。


 ここで俺の脳裏に、この先の立ち回り方として、二つの選択肢が浮かんだ。


 一つは回復手として動くこと。

【グランドヒール】や【エリアアースヒール】を使って、俺や風音、グリフの傷を癒して継戦能力を高める戦術だ。

 俺の回復力では、敵の攻撃力には追いつかないだろうが、戦闘継続可能な時間を多少長引かせるだけでも一定の意味はある。


 もう一つは、攻撃手に回ること。

 神槍による【三連衝】は、控えめに見積もっても風音や弓月の最強技と同等程度の威力はあると考えられる。


 蜘蛛女は「再生能力(100)」を持っている。

 ヤマタノオロチの「再生能力(200)」と比べると回復力は劣るが、それでも十分に厄介だ。


 敵が「再生能力」持ちである以上、大火力で一気に攻めるのは合理的だ。

 危惧すべきは、敵の敏捷力が高いせいで、俺が攻め手に回っても攻撃を外す可能性が低くないことだが──


 どちらがいいかは、正直分からなかった。


 今、回復をしなければ、敵の次の一手で風音やグリフが落とされるかもしれない。

 特にグリフがHPを削り切られるのは、モンスターとしての消滅を意味する。

 それはゾッとしない。


 だがグリフは戦力としては、うちのパーティの中で最も小さい。

 その攻撃力は、俺や風音や弓月と比べたら、三分の一か四分の一程度しかないかもしれない。

 そこに回復リソースを集中したせいで、パーティ全滅なんてことになったら──


 迷っている暇はない。

 即断しなければいけなかった俺は、直感に従った。


「グリフ、下がれ! 弓月の脱出を手伝ってやれ!」 

「クアーッ!」


 従魔に指示を出しつつ、俺自身は神槍を手に突進した。


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