遺言
「畜生。おい!大丈夫か。」海紫は慌てながらその男に話し掛けた。
「ええんです。これで…私は、今まで何にもしてやれなかったから。」
「おっさん!しっかりしろ!」海紫は大きな声で話しかける。
「これを、我が娘に。」男は血塗れになった封筒を彼に手渡す。
「おい!誰か医者は居ないのか?」
「無駄だ…もう、村の全ては取り壊された。良いんです。これ…で。私は、南原…南原兼政や…この村の村長をしとった者。」
「そんな偉大なる村長がここで死んでしまうなんて駄目です!」海紫は必死に叫んだ。この村を守れずして元の世界に帰る権利は俺にはねぇんだ!「南原…まさか!おい!おっさんはアイツの…」返事がない。もう死んでしまったようだ。
「おっさん!…おっさん。う…うわああぁぁぁ。」彼は、号泣し、涙で周りの血液が薄まった。「許さない!あの男。せめて俺がここにいるときは。」復讐の念が彼を駆り立てた。一体、何が書いてあるんだ?見てはいけないのかもしれない。だが、彼はその封筒を開けて読むことにした。
『親愛なる我が子孫へ。あなた達が、この手紙を読んでいるとき私は、もうこの世にはいないでしょう。私は、この数時間でここが我が世の宿命だと気がついたんです。だから、これからについて書き遺しておきます。パパは、何一つ遺してあげられなかった愚か者です。どこにも連れていけなくてごめんな。家族旅行に行きたかっただろう。長男の隆介。お前は、もう立派な大人や。気が向いたときで良い、村長代理を務めてやってくれ。初めての息子だったから、色々と迷惑をかけたと思う。御免な。その妹の蒼依。まだ成人を迎えてない思春期真っ只中の蒼依にとって、私の死は耐え難い辛い経験になると思う。でも、悲しまないで前に進んで下さい。父ちゃん、天国からバンドのデビュー見守ってるで。長くなったけど、天国に来たら今度は、一緒に旅行に行きましょう。 南原兼政』
ごくありふれた最期の言葉やと思う。でもとても悲しかった。
「おっさん。俺は、なんて事をしてしまったんだ。畜生。」
海紫は落胆した。蒼依は、俺の護衛対象の一人だ。よりによって、その父を俺の前で殺させるなんて。
電話がなった。「もしもし、桜坂だ。実習期間は終わりだ。戻ってこい。」「そんな。俺はまだやるべき事が…」「そうかい。だが規則は守ってもらおう。」
私の初めての重い内容のお話です。ほぼ、番外編なので辛くなったら見なくても良いですが、見ていただけると有り難いです。




