第37話:『血文字の拒絶』
ズブチュッ……!!
「え……?」
胸の真ん中に走った、焼けた鉄串を突き刺されたような絶悪の違和感。
神谷創太の口から漏れたのは、言葉にすらない間の抜けた吐息だった。
視界が真っ赤に染まる。創太が自らの胸元へ視線を落とすと、破れた制服の真ん中――胸骨の真っ直ぐ中央から、黒い血液を撒き散らしながら、湿ったドロドロの肉の刃先が、メリメリと音を立てて前方に突き出していた。
背後から刺されたのだ。
「カハッ……! げほっ……っ!」
創太の口から、体内のすべての血液が凝縮されたかのような熱い血液の塊が、大量に床の血泥へと吹きこぼれた。
崩壊し、光の粒子となって消え去ろうとしていた鳴海詩織の残影。その chest(胸)の奥――創太の拳によって粉々に打ち砕かれたはずのカセットテープレコーダーの残骸から、ズズズ……と音を立てて、テープレコーダーの磁気テープと詩織の神経組織が融合した『真っ赤な太い肉の神経根』が、サソリの毒針のように突き伸び、創太の背中から胸へと一直線に貫通していたのだ。
『――ふふ……あはははははっ! 痛いですか? 苦しいですか、神谷くん……?』
胸を貫く神経根の表面から、壊れたスピーカーのノイズ混じりの、刺すような詩織の声が直接響いた。
『テープレコーダー(心臓)を砕けば終わり……そう思いましたか? 甘いですよ。このテープに刻まれた私の怨念は……すでにこの校舎の壁、この街の空気のすべてに【磁気】として染み付いているのです!』
ズズズズズズズズズッ!!!!
詩織の声に呼応するように、砕け散ったテープレコーダーの破片から、何万メートルにも及ぶ黒い磁気テープが、蛇の群れのようにドバドバと溢れ出した。そのテープは周囲の肉壁へと潜り込み、崩壊しかけていた巨大な胃袋の壁面全体へと一気に網の目のように根を張り巡らせていったのだ。
「創太ぁぁぁぁぁっ……!」
声を奪われていたはずの白石葵の喉から、声帯の激痛を無視した、魂の底からの叫びが漏れ出た。
葵は自らの右腕の激痛も忘れ、血の海を這うようにして創太のもとへ駆け寄り、胸を貫かれて膝を折る創太の体躯を、自らの小さな身体で懸命に支え抱いた。彼女の涙が、創太の血塗られた顔面へポタポタと落ちていく。
「葵……逃……げ……ろ……っ」
創太の視界が、急激に暗転し始めていた。
胸を貫かれた致命傷。体内の全血液の三分の一が一気に失われ、脳への酸素供給が途絶えかけている。
過剰な聴覚が、自らの心臓の不規則な細動音(心室細動)と、脳細胞が一つ、また一つと死滅していく乾いたパチパチという音を拾い上げていた。
さらには、胸を刺し貫く神経根から、詩織の絶望の毒が直接創太の血管へと注入され、彼の意識を「永遠の死の眠り」へと引きずり込もうとしていた。顔面の怪物化を留めていた楔が外れ、右頬のハサミと左目のガラスが、創太の肉を完全に食い破り、脳髄へと達しようとしている。
(だめだ……意識が……遠のく……。このまま……俺は……死ぬのか……?)
創太の指先から、一瞬で感覚が失われていく。
背中の葵の体温すら、遠い世界の出来事のように薄れていく。
(俺が……倒れたら……葵が……葵が一人で……この地獄に……取り残される……!)
「――絶対に……倒れてたまるかぁぁぁぁぁぁっ!!」
創太は自らの消えゆく正気に向かって、魂の咆哮を上げた。
創太は自らの怪物化した右手――第28話以降、手の甲や指先から長谷川さくらの鋭利なハサミの刃が何本も肉を破って突き出している、あの異形の右拳を固く握りしめた。
そして、そのハサミの刃が群生する右拳を、自らの『左の太もも』に向かって、骨に届くほどの力で深々と突き立てたのだ!
ズブスッッ!! バキバキッ!!
「が……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
創太の口から、屋上全体を破裂させるほどの凄絶な絶叫が上がった。
自らの肉をハサミの刃で抉り、大腿骨の表面を削り取るという、正気の沙汰ではない『過激な自傷行為』。
その想像を絶する超高圧の痛撃(激痛の電流)が、途切れかけていた創太の脳神経を一瞬にして激しく打擲し、消失しかけていた彼の意識を、死の淵から強引に引きずり戻したのだ!
「はぁッ! はぁッ! はぁッ! はぁッ……!」
創太の目球に、赤黒い血走った生の光がバチバチと戻ってきた。
太ももの傷口から溢れ出るフレッシュな激痛の波が、詩織の毒による麻痺を強引に相殺する。創太は自らの右拳を太ももに突き立てたまま、ハサミの刃を肉の中でゴリゴリと捻り回し、痛みのボルテージを極限状態に維持し続けた。
「俺は……死なない……! 葵を……お前を元の世界へ還すまでは……俺の命は、一ミリだって渡さない!!」
創太は自らの胸を貫く神経根を、左手で力任せに掴み取ると、メリメリと音を立てて自らの身体から引き抜き、血みどろになりながら立ち上がった!
だが、創太が意識を取り戻したその瞬間、彼らの周囲の空間全体が、さらなる「真の絶望」へと変貌を遂げた。
ズババババババババババッ!!!!
巨大な胃袋の全周囲――上下左右のすべての肉壁の表面に、ドロドロとした赤黒い血液が噴き出し、それが文字の形を結んで、壁一面を隙間なく埋め尽くし始めたのだ。
何百、何千、何万という『血の文字』。
それは、カセットテープが破壊されたことで、テープの全トラックに録音されていた詩織の「無数の怨嗟の言葉」が、肉壁というスクリーンの上へ一斉に血文字となって浮き出たものだった。
『私を笑った』
『誰も助けてくれなかった』
『教科書を破られた』
『雨の中で無視された』
『お前たち全員死ね』
『許さない』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』――!!
壁一面を覆い尽くす血文字が、まるで生き物のように不気味にドクドクと蠢き、空間全体の温度を急激に上昇させていく。
ジーーーーーッ! ジジジジジジジッ!
壁の血文字そのものが音を発していた。
テープレコーダーというスピーカーを失った怪異は、空間の壁全体を「視覚と音響の巨大な暴力」へと変換し、創太たちの精神と肉体を全方位から押し潰そうとしていたのだ。
そして、その膨大な血文字の群れの中から、創太と葵を直接殺戮するための『壁一面の連続問答(血文字の拒絶)』が、怒涛のハイスピードで立ち上がってきた。
壁の真ん中に浮き出た、他よりも数倍巨大な真っ赤な血文字が、ギラギラと狂暴な赤光を放ち始める。
『――言葉を破棄し、暴力を選ぶ者たちよ』
空間全体から、何十万人もの怨霊が重なったかのような、地鳴りのような重低音の問いが響き渡る。
『第一の拒絶!』
『一年前のあの日、お前たちが面白半分に破り捨てた【私の教科書の白紙】と掛けまして』
『私をいじめ、追いつめたお前たちが重ね続けた【卑怯な沈黙】と解く。……その心は?』
『制限時間は、三秒!』
「三秒……! 冗談じゃないっ!」
創太の過剰な聴覚が、血文字から発せられる死の振動を捕捉した。
答える間もなく、壁から数十本の血の文字が長槍のように物理的な質量を持って伸び出し、創太と葵の頭上へと迫っていた。
一秒足りとも迷う時間は与えられない。
思考の停滞は、即座に血の槍による全貫通と死を意味していた。
創太は左太ももに刺さったハサミをさらに深々と突き刺し、痛撃のボルテージを限界まで跳ね上げさせた。
(考えろ……! 教科書の白紙……! 卑怯な沈黙……! どちらも……どちらも!)
二秒――。
創太は口から血の泡を巻き散らしながら、壁一面の血文字に向かって咆哮した。
「第一問! 正解は! 『どちらも、記されるべき真実(言葉)を拒み、何もないフリをして傷つきと罪から逃げた、最悪の空白』だぁぁぁぁぁっ!!」
ガギィィィィィィィンッ!!!!
創太の回答が空間に轟いた瞬間、迫り来ていた血文字の長槍が、創太の眼球わずか一ミリ手前で粉々に爆砕し、赤黒い血の雨となって飛散した!
『――正解』
壁の血文字の一部が、ジュッと音を立てて黒焦げになり、消滅した。
だが、間髪入れず、第二の血文字群が壁一面で一斉に光り輝いた。
怪異は、創太に呼吸をする猶予すら与える気は毛頭なかった。テープレコーダーの破壊によって暴走したシステムは、連続問答によって創太の思考能力を物理的に焼き切ろうとしていたのだ。
『第二の拒絶!』
壁から、新たな巨大な血文字が蠢き出し、創太たちの目の前へとせり出してくる。
『雨の放課後、お前たちの袖を掴んだ【私の濡れた手】と掛けまして』
『私からのSOSを気味悪がって見捨てた【お前たちの冷酷な境界線】と解く。……その心は?』
『制限時間は、同じく三秒! さあ、正解してみせなさい!』
「くっ……あぁぁぁぁぁっ!」
創太は激しい吐血とともに膝をつきかけた。
胸の貫通傷からの流血が止まらず、視界がチカチカと明滅を繰り返す。自傷の痛みすら、血流の低下によって薄れかけていた。
(だめだ……意識が……途切れる……!)
その時だった。
「……っ! ……っ!」
背後から、葵が創太の身体を力任せに抱き締め返した。
彼女は自分の血塗られたノートを創太の視界の端へと突き出し、そこに書かれた自分の血の文字――『私を置いていかないで!』という言葉を創太に見せた。
葵の温かい体温と、命懸けの叫びが、創太の冷え切りかけた心臓に、劇的な熱を再注入した。
(葵……! そうだ……俺には、お前がいる!)
創太は太もものハサミをさらに一捻りし、強烈な痛みの電流で脳を再駆動させた。
(詩織の濡れた手……! 俺たちの冷酷な境界線……! 概念の核は……!)
二秒――。
「第二問! 正解は! 『どちらも、互いに触れ合うことを拒まれ、一方は救いを断たれ、一方は罪から逃れるために引いた、惨酷な一線』だぁぁぁぁぁっ!!」
バガァァァァァァンッ!!!!
第二の血文字群が、創太の叫びとともに破裂し、壁面から大量の血が吹き出した!
『――正解』
二つの問いを破破した。
だが、壁一面を覆い尽くす無数の血文字は、減るどころか、さらに怪しい光を増して何千何万という文字へと増殖を開始していた。
自傷の激痛で意識を繋ぎ止める創太。
彼を支え、命を繋ぐ葵。
二人の前に、連続問答のさらなる地獄の波が、嵐となって押し寄せようとしていた。
ズズズズズズズズズズズッ!!!!
壁一面を覆い尽くす無数の血文字が、まるで沸騰した油の表面のように不気味な泡を立て、狂暴な赤光を明滅させた。
壁の表面から滲み出る血の量は増す一方であり、二人の足元には、ドロドロとした赤黒い血の池が再び溜まり始めていた。テープレコーダーという「器」を失ったことで、校舎の壁そのものが鳴海詩織の怨念の巨大な増幅器官と化し、彼女が生前に蓄積させたすべての絶望の言葉を、文字の暴力として空間全体に吐き出し続けていたのだ。
ジーーーーーッ! ジジジジジジジジジッ!
壁の血文字全体から発せられる高周波のノイズが、創太の覚醒した「過剰な聴覚」をダイレクトに叩きつける。その音は、何千人もの人間が同時に呪詛の言葉を囁き合っているかのような、脳髄を直接腐らせる凶悪な音圧を持っていた。
(休む間……なし、か……!)
創太の胸の貫通傷からは、今この瞬間も絶え間なく血液が溢れ出し、彼の制服をどす黒く染め上げていた。視界の端が黒く欠け落ち、頭骨の奥で脳細胞が死滅していく乾いた音が鳴り響く。胸の傷からの失血と、太ももへの自傷による激痛。二つの致命的なダメージが、創太の命の蝋燭を急速に溶かしていた。
だが、創太は太ももに深々と刺さった右拳のハサミの柄を、決して緩めなかった。
肉を抉り、骨の表面を削り取るたびに走る、脳を焼くような強烈な電流。その超高圧の痛撃だけが、詩織の毒によって死の眠りへと引きずり込まれそうになる創太の正気を、冷酷なまでに現実へと繋ぎ止める唯一の鎖だったのだ。
『――間髪入れず、第三の拒絶!』
壁面の血文字が狂ったように蠢き、中央に浮かび上がった新たな二つの概念が、血の泡を吹き散らしながら創太と葵の目の前へせり出してきた。
『教室の隅で響いていた【お前たちの嘲笑と噂話】と掛けまして』
『私を追い詰めた【お前たちの歪んだ歪曲の言葉】と解く。……その心は?』
『制限時間は、同じく三秒!……さあ、答えを吐き出しなさい!』
三、二――。
「三秒……!」
創太の過剰な聴覚が、壁の血文字から発せられる物理的な殺意の波動を察知した。
壁の表面から、文字の形をした何十本もの血のスパイクが、音速を超えんばかりの速度で突起し、創太と葵の胸元目掛けて一直線に射出されようとしていた。
迷いは即死。
思考の停滞は、二人の肉体が千切り取られる破滅を意味していた。
創太は太ももに刺さったハサミの刃を、肉の中でさらに九十度ゴリゴリと捻り回した。
「ガァァァァァァァァっ!!」
創太の口から、血の泡とともに凄絶な咆哮が上がった。
太ももの筋肉繊維がブチブチと千切れ飛ぶ激痛が、麻痺しかけた脳の全シナプスを猛烈な速度でスパークさせる。
(嘲笑と噂話……! 歪んだ歪曲の言葉……! どちらも……! どちらも!)
一――。
「第三問! 正解は! 『どちらも、真実を塗り潰して対象を傷つけ、自分たちの正当性を誇示するためだけに撒き散らされた、悪意の汚物』だぁぁぁぁぁっ!!」
ガギィィィィィィィンッ!!!!
創太の吐き出した解答が空間を揺るがした瞬間、射出されかけていた何十本もの血のスパイクが、創太の胸元わずか数ミリの空中で、ガラスのように粉々に爆砕した!
『――正解』
壁の血文字の三分の一が、ジュッと音を立てて激しく黒焦げになり、壁面から剥がれ落ちて消滅した。
だが、怪異のシステムは、それでも止まらなかった。
ズバババババババババッ!!!!
黒焦げになって消えた文字の隙間を埋めるように、残された血文字が壁面を縦横無尽に走り回り、より巨大で、より複雑な血の図形と文字の群れを形成し始めたのだ。
『あはははははっ! 無駄です、無駄ですよ神谷くん! あなたの命が尽きるのが先か、私の怨念が潰えるのが先か……!』
空間全体から、詩織の嘲笑が重層的に反響する。
『第四の拒絶! 第五の拒絶! 第六の拒絶――!!』
なんと、壁面は一度に『三つの問答』を同時に展開し始めたのだ!
壁の左側、中央、右側に、それぞれ異なる血文字の問いがギラギラと発光し、制限時間のカウントダウンを示す三つの歯車音が、狂乱の旋律となって創太の鼓膜を破壊せんばかりに鳴り響いた。
カチカチカチカチカチッ! カチカチカチカチカチッ!
「しまっ……! 同時に三つだと……!?」
創太の目が、激しい衝撃に剥き出しになった。
ただでさえ三秒という極限の制限時間の中で、三つの独立した問いの概念を同時に処理し、解を導き出すことなど、人間の脳の処理能力を完全に超えていた。
(だめだ……脳の処理が……追いつかない……! 視界が……真っ赤だ……!)
胸からの出血量が限界を超え、創太の残された右目の視界すらも、暗い赤と黒のモザイク模様で埋め尽くされようとしていた。太ももを削る痛撃すら、神経の伝達速度が落ちたことで、遠い皮膚の表面の出来事のように痺れ始めていた。
三つの問答が、同時にカウントダウンを刻む。
左の壁:『飛び降りた【私の壊れた肉体】と、教室に残された【破れた教科書】』
中央の壁:『誰も助けてくれなかった【冷たい雨】と、私を見殺しにした【お前たちの視線】』
右の壁:『奪われた【私の一筋の未来】と、お前たちが守ろうとした【身勝手な日常】』
三、二――。
(三つの問い……同時に……答えなければ……! 葵が……葵が殺される……!)
創太の頭蓋骨の奥で、過剰な聴覚が悲鳴を上げた。
脳血管が圧力で数本弾け飛び、彼の鼻と耳から、熱い血液がドバッと吹き出した。
「創太ぁぁぁぁぁぁっ!!」
その時だった。
声を失っていたはずの白石葵が、自らの声帯を完全に破殺する覚悟で、創太の耳元で叫んだ。
彼女は、自らの血の手で創太の首を強く抱きしめ、自分の血濡れたノートを創太の視界の真ん中に突き立てた。
そこには、剥がれた指の爪から流れる生血で、ノートの一ページ全体に、大きな一つの言葉が書き殴られていた。
『全部! 私たちの【身勝手な拒絶】が、詩織さんを壊したの!』
『私たちが逃げたから! 私たちが目を背けたから!』
『創太、過去を恐れないで! 私たちの【罪の根源】を、全部まとめて叩きつけてぇぇぇっ!』
葵の血の言葉。
それは、個別の方程式を解くためのヒントではなかった。
三つの問いすべてを貫く、創太と葵が背負うべき『真の罪の核心』そのものだった!
葵の叫びとノートの文字を目にした瞬間、創太の脳内で、バラバラに散らばっていた三つの問答の概念が、一つの巨大な「解の結晶」として劇的に融合した。
(そうだ……個別に解く必要はない! 詩織の怨念が突きつけているのは……俺たちが彼女に向けて放った【拒絶の論理そのもの】だ!)
一――。
壁の三方向から、無数の血の槍が、二人を完全にミンチにするべく、音速を超えて襲いかかってきた。
創太は自らの太ももからハサミの右拳を力任せに引き抜き、溢れ出る血のしぶきとともに、壁一面の血文字に向かって、自らの魂の全存在を懸けた「一括の解」を大音量で叩きつけた!
「三つの問答! すべての正解を……ここに提示するぅぁぁぁぁっ!」
創太の喉から、血と肉片が撒き散らされる。
「正解はすべて! 『自分たちの身勝手な日常と保身を守るために、一人の人間の存在、未来、そして悲鳴のすべてを切り捨て、存在しないものとして処理した、最悪の免責(逃避)の証明』だぁぁぁぁぁっ!!」
ズバババババババババババババババババババァァァァァァンッ!!!!
創太の咆哮が空間の全原子を震わせた、その瞬間。
四方八方から迫っていた何千、何万という血の槍、そして壁一面を埋め尽くしていた膨大な血文字のすべてが、まるで超高圧の爆風を正面から浴びたかのように、一斉に、完全なる粉塵となって爆散した!
ガギィィィィィンッ! ガギィィィィィンッ! ガギィィィィィンッ!
三つの死の歯車が、空間の奥深くで同時に粉々に砕け散る、凄絶な破壊音が響き渡った。
『――正解……正解……正解……(ととの……いました……)』
鳴海詩織の怨念の声が、壊れたテープの最後のように激しく歪み、ついに完全な悲鳴へと変わった。
『アぁ……アぁぁぁぁぁっ! なぜ……なぜ答えることができるのですか……! なぜあなたたちは……自分たちの醜い罪を認めてまで……生きようとするのですかぁぁぁっ!』
壁一面の血文字が、白熱した炎のような光を放ちながら、ボロボロと紙くずのように剥がれ落ち、燃え尽きて灰となっていく。
空間全体を侵食していた「文字の暴力」が、創太と葵の逃げない覚悟と、自らの罪を完遂した論理によって、完全に無力化されたのだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁッ……!」
血文字がすべて消え去った肉壁の前で、創太は自らの右拳を床につけ、荒い呼吸を繰り返した。
太ももの傷口からは大量の血が流れ出し、胸の貫通傷からも赤黒い体液が溢れている。だが、彼の瞳からは、怪物化の侵食を押し返すほどの、人間としての気高き光が放たれていた。
背中に寄り添う葵もまた、血濡れたノートを強く抱きしめ、途切れ途切れの息を吐きながら、創太と共に立ち上がろうとしていた。
壁一面の血文字の拒絶を、二人は自傷の激痛と揺るぎない絆によって、ついにすべて破破したのだ。
だが――。
血文字が消え去った肉壁の最奥。
そこに残された「真の核」が、最後の崩壊とともに、いよいよ二人の前にその姿を現そうとしていた。




