第二十八章:茶子の異変
茶子を保健室に運び込んだ和兎ときいは、急いで応急処置を施した。幸いにも大きな怪我はないようだったが、茶子はまだ意識を取り戻さなかった。
「先生、これはどういうこと?」きいが焦ったように聞く。
和兎は眉をひそめ、茶子の顔をじっと見つめた。「意識はあるが、反応が鈍い。何かを飲まされたかもしれない。薬物の可能性もある。」
「薬物!? そんなことまで…」きいの表情は強張った。
「落ち着け、きい。まずは様子を見るしかない。茶子が目を覚ましたら、何があったのか聞けるだろう。」和兎は冷静に言ったが、内心では茶子がここまで追い詰められた理由に疑念が膨らんでいた。
茶子の状態が少し安定したところで、和兎は周囲を調べ始めた。保健室の窓は閉まっており、特に侵入の形跡はない。しかし、保管庫周辺で感じた違和感が再び頭をよぎった。
「やっぱり…何かがおかしい。」和兎はつぶやいた。
「何か見つけたの?」きいが尋ねる。
「いや、まだ何も具体的な証拠はないが、犯人はここに来た形跡を残していない。それなのに、茶子は倒れている。どうやってここまで手を伸ばしたんだろうか?」和兎は考え込む。
「じゃあ、茶子がここに運ばれる前に、何かに巻き込まれたってこと?」きいは困惑した表情を浮かべた。
その時、保健室の電話が鳴り響いた。和兎が受話器を取ると、相手は無言のままだった。
「もしもし?」和兎が問いかけても、返事はなく、ただ静かな呼吸音だけが聞こえた。やがて、相手は電話を切った。
「誰だったの?」きいが聞いた。
「分からない。だが、今のは明らかに何かのメッセージだ。」和兎は険しい顔で受話器を置いた。
「どういうこと?」
「何者かがこちらの動きを見ている。茶子が倒れたことも、我々がここにいることも把握しているはずだ。」
きいは背筋に冷たいものが走った。「そんな…じゃあ、どうすればいいの?」
「次の手を読むしかない。犯人は常に先を見越して動いているが、必ず隙がある。」和兎は自信を取り戻し、茶子の側に戻った。
茶子は依然として目を閉じたままだが、その表情には一瞬の苦悶が浮かんでいるように見えた。
「茶子…君はいったい何を隠しているんだ?」和兎は茶子の手を軽く握りながら、心の中で問いかけた。
その瞬間、茶子の指が微かに動いた。
「先生、今、茶子が…!」きいが声を上げた。
和兎はその動きを見逃さなかった。「茶子、聞こえるか? 目を開けて、話せるか?」
茶子はゆっくりと目を開け、かすれた声でつぶやいた。「…きい、和兎先生…」
「茶子、君は何があったんだ? 何か見たのか?」和兎は優しく問いかけた。
茶子は一瞬躊躇ったが、何かを決意したかのように小さく頷いた。「…見た…犯人…」
「誰だったんだ?」和兎の問いに、茶子は震える声で答えた。
「…誰かが…監視してる…ずっと…私たちを…」
その言葉に、和兎ときいは顔を見合わせた。犯人は彼らの全ての動きを掌握している可能性が高い。しかも、その狙いはまだ見えない。
「茶子、落ち着いていいんだ。少し休んでから、もう少し詳しく教えてくれ。」和兎はそう言って、茶子の手を握り直した。
「…うん…ありがとう…」茶子は目を閉じ、再び静かに呼吸を始めた。
和兎ときいは、今後の動きを慎重に計画しなければならないと強く感じた。




