第十六章:違和感と学び
保健室の静けさの中、和兎は眉をひそめながら考え込んでいた。脅迫状、旧校舎への誘導、残された匂い――全てがあまりに手慣れたものに見えた。
「……あまりにも手馴れ過ぎている」
和兎は小さくつぶやいた。
「ん? 何か言った、ワトソン先生?」
きいが元気よく声をかけてきた。
「いや、ちょっとした違和感を感じているんだ。犯人がやけに慣れているような気がしてね。まるで計画通りに全てが進んでいるかのように感じるんだが、それがヒューリスティックだとしたら……」
「ヒューリスティック?」
きいは首を傾げた。「それ、何?」
和兎は一瞬驚いたように見たが、すぐに納得した顔をした。きいはいつも素直にわからないことを聞いてくるタイプだ。表面上は少し抜けて見えることもあるが、実際には常に学年トップで、知識を吸収する力がある。
「ヒューリスティックっていうのは、簡単に言えば経験則や直感で判断する方法のことだ。細かい分析をせずに、これまでの知識や経験に基づいて物事を解決するんだ」
和兎は説明しながら、少しでもわかりやすく伝えようとした。
「ふーん、なるほど!」
きいはすぐに納得したように頷いた。「つまり、犯人は直感で動いてるわけじゃなくて、計画をしっかり立ててるってことだよね?」
「そうだな。あまりにも全てが整然としている。だからこそ、逆に違和感があるんだ。何かが引っかかる」
和兎は思案し続けながら言葉を選んでいた。
「でも、そういうのって難しく考えるより、スパッと動いた方がいいんじゃない?」
きいはにっこりと笑った。「私も昔、難しいこと考えすぎて頭がぐるぐるになったけど、結局は行動したらなんとかなったことが多かったし!」
「それも一理あるな」
和兎は苦笑いを浮かべながらも、彼女の無邪気な一面に感心していた。
「それにしても、試験も近いし、勉強もちゃんとしないとね」
きいがあっさりと勉強の話を持ち出すと、和兎は一瞬驚いた表情を見せた。
「そうだ、君は学年トップだったな。こういう事件のことばかりに集中して、試験を忘れないようにな」
和兎は少し感心したようにきいを見つめた。
「もちろん!事件も勉強も両立するのが、名探偵への第一歩だからね!」
きいは鼻息を荒くして、やる気を見せた。
和兎はそんな彼女を見て、どこか安心しながらも、犯人に対しての違和感を忘れることはできなかった。何か、もっと根深いものが背後にある――それが和兎の頭の片隅に残り続けていた。




