第十五章:匂いと罠
旧校舎に駆けつけた和兎ときいは、辺りを見回しながら慎重に足を進めた。暗がりの中、物音一つせず、不気味な静けさが漂っている。犯人の痕跡を探す二人は、息を殺して進むが、ふときいが何かを感じ取った。
「ワトソン先生、あそこ!」
きいが指さす先には、人影がかすかに動いた跡があった。しかし、二人が急いで駆け寄った時、既にその人物の姿は消えていた。
「……一足遅かったか」
和兎は冷静にその場を見渡し、何か手がかりが残っていないかを探す。
きいは辺りを嗅ぎ分けるように、顔をしかめて鼻をひくひく動かした。「ん? 何か匂うよ、ワトソン先生。この匂い、どこかで嗅いだことがあるような……」
「匂いか……」
和兎も鼻を利かせてみるが、それほど強い香りではないものの、確かに何かが漂っていることに気づいた。「人工的な香りだな。消毒液か、それとも香水……?」
「前にもこんな匂いを感じた気がする……でも、どこでだったかな?」
きいは頭を悩ませるように考え込んでいた。
「確かに、この匂いは手がかりになるかもしれない。けど、油断するなよ」
和兎はその匂いに疑念を抱きながら、周囲をもう一度確認する。「もしこれが、わざと残されたものなら……」
「え? わざと?」
きいは驚いて和兎を見上げた。
「そうだ。犯人が何も残さないはずはない。だが、この匂いが強すぎる。あまりに露骨だ……まるで、こっちを引き込むための餌にしか思えない」
和兎は思案しながら、ゆっくりと辺りを見回した。匂いが手がかりになるかどうかはまだわからないが、罠の可能性が頭をよぎる。
「……くっそ、そう言われると気になるじゃん!」
きいは小声でつぶやきながら、なおも匂いを追いかけたい気持ちを抑えようとする。
「一旦戻ろう。保健室に情報をまとめ直して、冷静に考える時間が必要だ」
和兎はきいを促し、二人は一度旧校舎を後にした。
保健室に戻ると、そこには更なる不穏なものが待っていた。和兎のデスクに置かれた封筒。差出人不明のそれは、先日の脅迫状と同じ不気味な気配を漂わせていた。
「また、脅迫状か……」
和兎は手袋をつけて封筒を慎重に開け、中から出てきたメッセージを読む。
「“ご苦労だったな。旧校舎に向かったことは想定通りだ。だが、その先は思い通りにはいかないだろう。次にお前たちが踏み出す一歩が、お前たちをさらに深い迷路へと引きずり込む。”」
きいは封筒の中身を覗き込み、少し顔をしかめた。「何これ、めっちゃ悪意あるじゃん! 完全にこっちの行動を読んでる……」
「計算されていた、というわけか」
和兎は冷静に言いながら、その内容に込められた意図を探るように目を細めた。「旧校舎に誘い込まれたのも、そして今の匂いも。全てがこちらを混乱させるための罠だったんだろう」
「ってことは、次の一手を考えないといけないってことだね?」
きいは気を取り直して和兎に問いかけた。
「そうだ。奴は一歩先を行っているつもりかもしれないが、逆にこちらもその先を読まなければならない」
和兎はさらに手がかりを探すべく、メモを取るためのペンを握り直した。
「今度は、こちらが先手を打つ番だ」
和兎はきいに向かって強い決意を込めた声で言い放った。
「よーし、やってやろうじゃん!」
きいは拳を握り、再び気合を入れた。
二人は再び犯人の手のひらの上から脱出し、次なる手を打つべく、作戦を練り始めた。




