第十一章:笑顔を取り戻す手品
きいの過去を聞いたことで、保健室の空気は少ししんみりしてしまった。和兎は、その重さを感じつつも、今の状況に不釣り合いな暗さを取り除きたいと考えていた。
「それにしても……今日はずいぶん真面目な話をしたな。お前が探偵を目指す理由も聞けたし、ちょっと重たくなってしまったけど……お前らしくないぞ、きい」
和兎は軽くため息をつきながら、きいをからかうように言った。
「え? 先生、それってどういう意味?」
きいは驚いたように目を見開いて和兎を見た。
「いや、ただ思ったんだ。普段はもう少し元気いっぱいで、何か面白いことやらかすタイプだろう? それとも、今日は『お父さんから借りてきた』あの謎の道具がないのか?」
和兎はニヤリと笑いながら、きいにそう尋ねた。
その瞬間、きいの顔がぱっと明るくなり、いつもの彼女らしい元気さが戻ってきた。
「あるよ! 実は、ちょうどいいものがあるんだ!」
きいは勢いよくバッグを漁り始め、何かを探し出した。
「まさか……また何かすごい道具を持ってきたのか?」
和兎は少し警戒しつつも興味を示した。
「今回はね、ちょっと違うんだよ。見て!」
きいが取り出したのは、何と手品の道具だった。銀色に輝くステッキや、小さなトランプのデッキ、そして不思議な箱など、まるでマジシャンが使うようなセットが揃っていた。
「お前……本当に高校生か?」
和兎は呆れつつも微笑みながら言った。
「ふふん! これも『お父さんから借りてきた』んだよ! 探偵が手品くらいできなきゃ、格好がつかないでしょ?」
きいは自信満々に言いながら、ステッキを軽く振り回した。
「いや、探偵に手品は必要ないだろう……」
和兎は笑いながら突っ込みを入れたが、きいは気にせずステッキを操り続けた。
「それじゃあ、先生に一つ見せてあげるね! はい、こちらのトランプを選んで!」
きいは真剣な顔を作り、トランプのデッキを和兎に差し出した。
「俺がやるのか?」
和兎は戸惑いながらも、渋々トランプを一枚引いた。
「そのカードを覚えて……えーっと、見せなくていいから、心の中でしっかりと念じておいてね」
きいは慎重な手つきで、和兎が引いたカードをデッキに戻した。そして、何度かトランプを切ると、自信満々に最後の一枚を引き出した。
「これが先生のカードでしょ!」
きいは見せびらかすようにカードを和兎の前に出したが、それは全く違うカードだった。
「残念だな。俺が引いたのは、これじゃない」
和兎は冷静に言い、笑いをこらえた。
「えっ、嘘!?」
きいは驚きつつも、すぐに「まあ、そういうこともあるよね」と言って肩をすくめた。
「まあ、探偵としての手品の腕はこれから磨いていくんだな」
和兎は軽くからかいながら、きいの失敗に優しくフォローを入れた。
「くっそー、次こそはもっとすごいの見せてやるんだから!」
きいは悔しそうにしながらも、再び元気を取り戻して笑っていた。
その時、ふと和兎は思った。きいはただ明るく元気なだけではなく、その背後に強い意志と決意を抱いている。しかし、今はその強さを無理に出さず、彼女の自然な笑顔が保たれていることに、どこか安心感を覚えた。
「そうだな、期待してるよ、探偵きい」
和兎は優しくそう言って、彼女を見守るのだった。




