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第十章:探偵への想い

和兎ときいは、これまでの調査の合間に少し休憩を取るため、保健室に戻っていた。きいはいつものように明るい表情を見せていたが、どこか遠くを見つめているようだった。


「お前、どうして探偵になりたいんだ?」

和兎は、ふとした思いつきで問いかけた。今まで直接的に聞いたことがなかったことだ。


きいは少し驚いた様子で和兎を見つめ返し、それから小さく笑った。「え? 先生、そんなこと興味あるんだ?」


「いや、ずっと不思議に思ってたんだ。探偵って、普通の女子高生が目指す職業じゃないだろう?」

和兎は眼鏡を直しながら、静かに彼女の話を促した。


きいは一瞬、遠い昔のことを思い出すように黙り込んだ。やがて、少しずつ語り始める。


「ありがちかもしれないけど……小学生の頃、学級費が無くなる事件があったんだよね。で、体育の時間に忘れ物を教室に取りに戻った私が犯人だってことにされて……ひどいイジメにあったんだ」

きいの声は一瞬だけ沈んだが、彼女はすぐに明るさを取り戻すように微笑んだ。


「子どもの世界って、残酷だよね。小学生にとっては学校が全ての社会だから、噂はすぐ広がっちゃうし、嘘の情報まで増えていくんだ。正直、転校も考えたよ。でも……負けたくなかった。親にも言えなくて、学校に行けなくなることもあったんだけど……」


きいは少し息をつき、続けた。「そんな時だった。ある日、泣きながら学校から帰ってる途中で、夕焼けを悲しそうに見てるお兄さんに出会ったの。何だか、この人なら話を聞いてくれそうな気がして……思い切って話しかけてみたんだ」


「そのお兄さんは、しっかり話を聞いてくれたの?」

和兎は静かに聞き入りながら、優しく質問を重ねた。


「うん、ちゃんと話を聞いてくれてね。『家族を信じて相談してみな』ってアドバイスをくれたの。すごく温かい言葉で、すぐにその通りにしてみたんだ。そしたら、親が探偵を雇ってくれて、事件はあっという間に解決したの」

きいは懐かしそうに笑った。


「なるほど。探偵が事件を解決したわけか」

和兎は興味深げにうなずいた。


「そう。犯人を見つけるのが探偵だけど、それだけじゃないんだよね。私みたいに困ってる人を助けることができるのも探偵だって、その時に気づいたんだ。それでね、私もそんな人になりたいって思ったの。困ってる人を助けられる探偵になりたいって!」

きいの目は輝いていた。


和兎はその話を聞きながら、きいの強い意志と優しさを感じ取った。彼女が探偵を目指す理由がただの興味や憧れではなく、過去の苦しい経験から来ていることを知り、少し胸を打たれた。


「そうか。お前が探偵を目指す理由、よく分かったよ」

和兎は笑みを浮かべながら、きいの頭を軽く撫でた。「だが、探偵は簡単な仕事じゃない。今みたいに危険なことも多い。お前、本当にやる覚悟はあるのか?」


きいは真剣な表情で和兎を見つめ返し、強くうなずいた。「もちろん! 先生も一緒にいてくれるんでしょ?」


和兎は苦笑しながら頷いた。「ああ、そうだな。俺はお前の助手だからな」


二人はその場で笑い合い、少しだけ緊張の解けた時間が流れた。しかし、和兎の心には、きいが抱えている過去の重さと、彼女が目指す未来への責任感が深く刻まれていた。

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