九十九話 九百九十九ノ薔薇/バラ
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「なっ……なんなのよ、コイツら」
「ッ…思ったより早く来たな」
「葵。なんか知ってんの?」
「思い出して。遥達は今この国の王を殺した大罪人でこの国の侵略を目論む指名手配班だろ」
「ああ。そんな事もあったわね。忘れてたわ」
「奴らは遥の首にかけられてる懸賞金目当てで集まった兵士や冒険者達の成れの果てだ。正義だなんだって言って呼びかけて仲間を集めてたみたいだけど結局は金に目が眩んだ愚かな集団さ。此処を襲撃するって話は前から噂になってたからな。それにどっかの誰かさんが全財産使って懸賞金を上乗せしたって話だしな。それで奴らもいよいよ行動に移ったってわけだ」
「しょうがないわね。病み上がりだけど、いっちょやりますか。葵」
「いや、その必要はない」
「どうしてよ?もしかして、2人一緒でもこの数はヤバいだからなんて理由じゃないでしょうね」
「そうじゃない。いや、少しはそれもある。1人1人は大した事ない雑魚の群れ。だけど今の状態でこの数を相手にするのは流石にリスクが高過ぎる」
「葵はリスクなんて考えて動く性格じゃないでしょ」
「それだけ今の状況は気をつけた方がいいって事だ」
「なるほどね。だからって何もしないわけじゃないんでしょ?」
「当然だ。戦う事なく勝負に負けない方法がある」
「いいわね。それどうすんの?」
「今から、奇跡を起こして遥を日本へ帰す。奴らの目的は遥だ。目的がいなければ勝ちようもないからな」
「代わりに残った葵が恨みを買うかも」
「それでもだ。今はその方が1番現実的だ」
「……分かった。奇跡を起こすのが現実的。その言葉に私は賭けた!信じるわよ葵」
「ああ!!」
すると、下にいた1人の兵士が屋上にいた遥達の存在に気づく。
「いたぞ!あそこだ!!」
「目的は奴の首だ。邪魔する者にも遠慮はするな!正義は我らにある。全員突撃!!上へ急げ!!」
隊長らしき男を先頭に集団は一斉に校内へ侵入を始める。
「やっぱ見つかったわよ」
「そりゃそうだ。もうちょっと隠れてるべきだった」
「じゃあ急いで!!それで全部チャラになるわ」
「分かってるよ」
葵は屋上の中心で体に秘める力を解放する。
すると快晴だった天候がみるみるうちに荒れ模様になっていく。空は曇り雨が降り風が吹き始める。
次第にそれは強さを増していく。
「傘でも持ってくれば良かったかしらね…」
「どっちにしろこの風じゃ役には立たないだろうけどね!」
天候は大雨となり強風が吹き荒れ遥達を襲う。強風の影響で立っていられるのもやっとな程だ。そして曇った空に一筋の光が見えると雷が何処か近くに落ちた事を示す轟音が聞こえる。
そんな中遥は急いでこちらに向かって来てるであろう兵士達の侵入を防ぐ為扉を閉める。
だが、直ぐに兵士達がやって来ると扉をこじ開けようとする。
「いくらなんでも来るのが早すぎやしないかしら……葵!そっちの方はまだなの!?」
遥は扉を押さえ抵抗する。
「天気は荒れ模様。こんな天気だ。何が起きてもおかしくない。つまり奇跡が起こっても何ひとつおかしくないって事だ」
「今の所、それらしい何かが起きる気配はないけど!?」
「知るかよ!もうちょっと待ってろ!今俺達に出来るのはそれしかない。遥は黙ってそっちに集中してろ!」
「ったく……本当ワガママなんだから!アンタは人使いが荒いのよ!」
遥はとにかく扉が開くのを嫌がり押さえることに集中する。
だがそれに比例するようにあちら側の扉を開けようとする思いも力も次第に強くなっていくばかり。
そんな時だった。
「遥!」
「なによ!?」
「来たぞ」
「誰が!?」
「そういう意味でも無いし誰でも無い。日本へ帰るための一方通行の帰り道が現れたんだよ!」
「マジで!?あらま…奇跡って起こそうと思えば本当に起こせるもんなのね」
奇跡が起こり希望が見えた事で遥に一瞬の隙が生まれる。
その隙を見逃さず奴らは無理矢理扉をこじ開け、大量の兵士達が屋上に流れ出る。
扉が強引に開いた事で遥は衝撃と強風によって葵の側まで吹き飛ばされた。
「遥!しっかりしろ、もうちょっとなんだからな!」
「言われなくても分かってるわよ…」
遥は葵に支えられながら、空に出来た時空の裂け目を眺める。
「あれが帰り道……でもさ、あれで本当に合ってるんでしょうね?悪いけどあの先が日本へ繋がってるとはとても思えないんだけど?」
「なんでだよ?」
「なんでって…見た目が禍々し過ぎるのよ!あの先が地獄に繋がってる言われても私は信じるわよ」
「かもな」
「かもなって……」
「俺だってあの先が日本に繋がってるだなんて自信も確証もねぇ。なんせこれ自体が奇跡なんだ。その先に待ってるものなんて予想できるわけないだろ」
「こんな状況でもっともらしいこと言わないでくれる?不安になるじゃない」
「別にいいだろ。どうせ俺達にはこれしか方法がないんだからよ!…遥。覚悟出来たらさっさっとあの中へ飛び込め」
「葵は?」
「時間稼ぐんだよ!この強風のお陰であそこにいる兵士達も面食らって今は動けずにいるけど、いつまでそうやっているほどバカなな奴らじゃない!ここは俺に任せて先へ行け!」
「バカはアンタよ!流石に葵でもこの数は無理でしょ!?やっぱり私も手伝うわ…」
「バカ言うな!言ったろ?命を賭けてでもお前を日本へ帰すって!それとも俺の覚悟無駄にする気か?」
「そういうのは自分で言うもんじゃないでしょ…アンタ死ぬ気?」
「……行け!大丈夫だ。俺を信じろ、遥!!」
「ったく、何度も言うけど本当にワガママな親友ね。分かったわよ……行けばいいんでしょ!行けば!こうなったらあの先が地獄だろうがなんだろうが何処にでも行ってやろうじゃないの!」
「それでいい。……達者でな遥」
「葵もね…」
「おう」
覚悟を決めた遥は強風の中、時空の裂け目へ飛び込む為助走をつける。
「あの女、一体何する気だ!」
「させるか!捕えろ!」
遂に兵士達が遥に刃を向けようとした瞬間。
「聞いてだろ?行かせるかよ」
遥が兵士達の前に立ち塞がり道を塞ぐ。
「邪魔だぁ!!」
「邪魔してんだよ!!」
葵と兵士達の交戦が始まる。
「葵……」
遥は葵の様子を横目にしながら、呼吸を整え集中する。
「真っ直ぐ走って、あそこの塀を飛び越えて落ちるギリギリで更に飛ぶ。それならあそこまで多分届く……」
遥の心配をかき消すかのように、吹き荒れる風が遥の背中を押す。
「これは行けってこと?……」
鳴り響く雷の轟音が遥を焦らせ、雨の音が周りを忘れさせ、風が遥の背中を押し勢いをつけさせようとしている。
まるで嵐そのものが遥を時空の裂け目へ飛び込ませようとしているように。
「ったく、気象までワガママとはね。ここまで来たら潔いわね。…いいわよ、やってやる!」
遂に遥は覚悟を決め、走り出した。
その時、ふと視界が開け遥の視線は葵の方へ向く。
見えたのは、大量の兵士や冒険者相手に1人で立ち向かう葵の姿。そして葵の背後に気配を消し今にも襲い掛かろうとしている冒険者の姿だった。
「!!」
その数秒後、冒険者の刃は確かに女の腹部を貫いた。
「!、……遥?」
腹部を刺されたのは急遽葵を庇う事を選んだ遥だったのだ。
それに気づいた葵は遥を刺した冒険者を蹴り飛ばし、直ぐに遥を介抱する。
「なんで……なんでお前が!!」
「……目の前で死なれるほど、後悔するものは、ないのよ……」
「それを今、俺に言うのか……」
「そうね……ごめん」
「謝んなよ…」
「やったぞ、やった!!これで懸賞金は俺たちの物だ!!」
「これでこの国は守られたんだ!俺達の勝ちだ!!」
遥をに血を流させた事でその結果に喜ぶ兵士や冒険者達。
「テメェら……」
その様子に腑が煮え繰り返る葵。
「待てお前ら。喜ぶのはまだ早いぞ」
彼らを率いる隊長風の男は周囲を落ち着かせる。
「奴はまだ死んではいない。それに首が無ければ証拠にならん。喜ぶのはトドメを刺し首を取り上げてからだ!!」
「オォォォォ!!」
彼らもまた、それぞれが望む希望が見えた事で一気に士気が上がる。
男達が葵達を囲み刃を向ける。
「おいそこの女、命が惜しかったらソイツを見捨てて服を脱げ。俺達に忠誠を誓うんだ。所詮女は女。男には敵わないのだから!!」
「……」
「安心しろ。俺達は嘘をつかん。すれば決して命を奪う事はない。約束だ。命を惜しめ、そして希望を見捨てるな」
隊長風の男が葵に近づくと舐め回すように葵の体を見つめる。
「さぁ、掴め。掴むんだ」
男は手を差し出す。
「…………」
葵の手が男の手に伸びる。
「それでいい」
男がその手を掴もうとした瞬間、葵の手がすると抜けると男の頬を思いっきり叩く。
「お断りだよ、クソが!!テメェらみたい大馬鹿野郎がな、希望を語るんじゃねえよ!!」
「そうか……なら死んで絶望しろ」
男の刃が葵を襲う。当然、葵はそれを反撃しようとする。
だが葵の反撃が決まろうとするその瞬間。
葵の目に一筋の眩い光が映ると男は倒れる。
「なっ……」
その様子に兵士達が戸惑っていると、少し遅れて雷の轟音が鳴り響く。
葵に手をかけようとした瞬間、男は雷に撃たれたのだ。
それに続くように大雨が兵士達を襲い、視界を奪う。
強風は吹き荒れ周囲の兵士達を吹き飛ばし一掃した。
「何が起きてる……」
葵は慌てて屋上の安全柵を掴み、吹き飛ばされないように力を入れる。その片手は遥の手を必死に繋いでいる。
強く吹き荒れるその強風は遥を繋ぐ手を断ち切るように部分的にだけ吹き荒れだす。
「なんで……何がどうなってんだ!」
葵は力を入れ、遥の手をギュッと握り強風の猛威に耐える。
だが、強風と同時に襲う大雨が葵の手を滑らせる。
遂に葵と遥を繋ぐ手は断ち切られる。
「遥!!」
必死に手を伸ばし遥の手を掴もうとするが、葵の手は僅かな所で届かない。
強風はまるで遥を攫うように吹き飛ばし、時空の裂け目へと引きずり込んだ。
「遥ぁぁぁ!!!」
葵の叫びは雷の轟音と大雨がそれをかき消した。
「この国一帯を突如覆った曇り空。瞬く間に天候は嵐に変わった。神の怒りかそれとも……」
窓越しに呟く1人の女。
すると駆け出しの冒険者らしき男が慌てて女の元へとやって来る。
「……遅かったわね。1人だけなの?まあいいわ、目的は果たせたんでしょうね?」
「それが……」
「何よ?」
「嵐により全部隊は壊滅。目的の女も嵐の影響で行方不明です……」
「行方不明って、生きてるの?それとも死んでるの?どっちかハッキリしなさい!!」
女の怒声は男をビビらせる。
「…あの状況です。とても生きてるとは思えませんが」
「それじゃあダメなのよ!!それじゃ!!あの女は無茶苦茶なのよ!とてもじゃないけど、嵐に巻き込まれた程度で死んだとは思えない。さっさっと私の目の前にその女の首を持って来なさい!!そうじゃなきゃ私はあの女が死んだとは思えない」
「ですが……」
「口答えするな!!目的も果たせてない以上、報酬も払う気はないから。金が欲しいなら死ぬ気であの女を探して殺して来なさい!いいわね?」
「……どうしてそこまでその人の死を望むんですか?私財を投げ打ってまでその女の死にこだわる理由はない筈です」
男は恐る恐る女に質問する。
「簡単よ。私がアイツを憎んでるから。アイツさえいなければ、自分勝手な奴が神を殺すこともなかった。私達がこの世界に来ることも、、好きな人を奪われることもなかったからよ!!私はアイツを絶対に許さない……」
「コハルさん……」
それから長きに渡り1人の魔法使いは復讐に生きたらしい。
だが、その復讐は望みとは裏腹に永遠に果たされる事はなかったという。
彼女が無能だったからでも、運命的に失敗したわけでもない。
何故なら……
ふと目が覚めた。
今日の夢は近年稀に見る程嫌な夢だった。
腹は突き刺され強風に吹き飛ばされるそんな夢。
夢だからこそな支離滅裂な出来事な数々に私は笑った。
だから目覚めとしては悪くない。
私はカーテンを開け空を眺める。
夢と違って今朝は快晴そのものだ。
そのまま庭に視線を向けると私の兄と父親が特訓をしている。
木刀片手に打ち合い、時には魔法で応戦する。そんなごく普通にありふれた特訓の日々。
私ももうすぐ5歳になる。私もあんなふうに特訓をする日々が来るのだろうか?
いや、来るに決まってる。父は私が女だからといって容赦はしないだろうし甘えもさせない。それはきっと私の母親も一緒だろう。
母は元女兵士。父はこの町で知らない人はいない結構なの知れた凄腕の冒険者。
その2人の娘が強くなる事を望まれないわけがないのだから……
「クラハ!起きてるなら、さっさと下へ降りて来なさい。貴方の好きなパンケーキ一緒に食べましょう?」
「うん。すぐ行くね!」
母が私を呼んでいる。見た目は結構ゴツいし力も強い母は周りから距離を取られがちだけど、私達家族にだけ見せる甘い顔と、意外と甘いものが好きな母の事が私は大好きだ。
さぁ、早く母のもとへ急がなければ!せっかくの母特製ふわふわパンケーキが萎んでしまう。
だけど、一言だけ。大きな独り言を叫んでから母の元は急ぐことにしよう。
この世界にも大分慣れた。正直言えば夢が夢じゃないって事も内心分かってる。だけど、だけどさ!
「結局最後は異世界転生もんって、それは流石に無茶苦茶過ぎるでしょうが!!いい加減にしろーー!!」
都合よく異世界に転移した女子高生、桐生遥は都合悪く腹部を刺され嵐に巻き込まれ時空の裂け目へ飲み込まれた。そんな彼女に待っていた未来とは、剣と魔法を武器に戦うありがちな超ファンタジーな異世界へ都合良く転生した。
どんな人生でも世界でも結局は都合よく物事が進み時間が過ぎていく。
きっと。
上手くいく。
そう信じて。
「クラハーーなんか言ったー?」
「別にー!!すぐ行く!あ、ママ先に食べないでよねーー」
END
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勝手に祈ってお待ちしております。