第2話 この世界のクオリティ
まだまだ序章です
一日目の夜は本当に大変だった。
夏だからだろうか、寒さはなかったので凍えることはなかったのだが、魔物が急増した。
どうやらこの世界の魔物は夜行性らしい。
もちろん戦闘は試みたが、リンゴームのようにはいかない。
巨大なリスのような魔物や巨大な蜘蛛のような魔物だ。
名前は忘れた。
途中何度かリンゴームにも遭遇した。
だが、あいつらは食えるわけでもなければ、大した経験値をもらえるわけでもない。
相手にするだけ時間と体力の無駄だと思い、無視している。
それにしても、腹が減った。
食料に困っている。
途中で川が流れていたので、水は飲めたが、それでも腹は膨れない。
そろそろ何かを口に運ばないと、リンゴームにすら殺され兼ねない気がする。
そんなことを考えていると、ほら、また魔物だ。
巨大リス、名前はバッドリーズ。
ランクはDだ。
夜に出てくる魔物の方がランクが高いってことは、やっぱり夜行性が多いってことだろうな。
とりあえず、無視。
「シャーーッ!」
そう上手くもいかないようで、バッドリーズは俺に噛み付いてきた。
ふくらはぎを噛まれた…痛い!
「痛いんですけどォ!」
腹が立って、左足で思い切り顔面を蹴ってやった。
この程度じゃ倒せないのは百も承知。
俺は蹴りを決め込んだ瞬間に、逃げ去る。
川まで行き、とりあえず傷口を水で洗う。
忌々しいリスの歯形がくっきりだ。
こんな時こそ、回復魔法が使えるのではないか?
「えっと……ヒ、ヒール!」
適当に魔法を唱え、手をかざすと、掌から淡い桃色の光があふれた。
おおっ!素晴らしい!
暫くそのまま傷口に当てていると、やがて光は消えた。
傷跡が消えているかの確認…。
ん…?
血は止まったし、痛みも軽減したのは確かだが、傷跡はうっすら残っている。
それに、若干まだ痛いんだが…
もう一度ヒールを使ってみるが、結果は変わらない。
俺はこのとき、マジで泣きそうになった。
頼みの綱とさえ思わなかったヒールでさえ、このクオリティだ。
ポンコツにも限度ってものがあるだろう?
それともなんだ?これがこの世界のクオリティなのか?
アホなんじゃないんですかね!
その後、夜の間は一匹も魔物を倒すことが出来ないと踏んだ俺は、とりあえず街の中に入った。
街はすっかり人気がなくなっていた。
俺の住んでいた世界で言うと、夜の10時とか11時とかそのくらいだろう。
代わりに、槍や剣を持った兵たちがところどころに立っている。
夜の警備だろうか。
「おい、君」
声をかけられた、たぶん俺だ。
振り返ると、目の前にシンプルな鎧を身にまとった男が立っていた。
剣を腰に携えている。
ダンディな顔をしていて、演歌が上手そうだ。
「は、はい?」
「今君のステータスを見させてもらったよ」
ステータス?
人のステータスを勝手にみることが出来るのか?
プライバシーの侵害じゃないか?
だがこっちの世界では常識なのかもしれないな。
ここで突っ込んでしまえば、俺は完全に怪しいヤツだ。
別の世界から来たなどと、できればほかの連中には黙っていたい。
「なんだね、君のその職業…ふざけているのかね?」
職業どうでしょうのことだな。
よし、適当なこと言ってごまかそう。
「知らないんですか?今若者の間で流行ってるんですよ?」
「なに?」
「ま、まあいわゆる何でも屋さんみたいなものですよ」
うん、もうなんでもいいや。
兵士は腕を組み、何やら考えている…というよりは困っているようだ。
それもそうだ。
俺だって今、自分で自分が分からない。
「聞いたことないな。少し上の者に聞いてみるとしよう」
やばい、大事になる。
俺は兵士が俺に背中を向けたすきに、そそくさとその場を後にする。
街の中にいたのでは危険だ。
とりあえず、草原に出る。
そして、何とか魔物に見つかりづらい茂みのようなところを見つけ、座り込む。
月明かりが綺麗だ。
こっちの世界は自然豊かというか、幻想的だ。
まさにファンタジーの世界…という感じだな。
ノスタルジックな感じが何とも言えず良い。
草原で横になると、俺は目を閉じた。
――――――――身ぐるみ全部剥げよ。
――――――――その必要はねえぞ?こいつ何も持ってねえ。
――――――――仕方ねえ、とりあえず連れてくぞ。
何やら話し声が聞こえる。
ま、まぶしい…。
目を開けると、眼前に太陽の光…そして、3人のおっさん。
何やらロープ片手に俺をぐるぐる巻きにしてやがる。
「…は?」
「おとなしくしてろ!」
おっさんに思い切り後頭部を殴られた。
痛ェ…。
口にもガムテープを貼られ、声を出すことも出来なければ、ロープで縛られ、自由に動くことも出来ない。
寝起きドッキリにしては一線を越えてしまっているぞ?
「おい!兵士の朝の見回りだ、急げ!」
「ちぃ、これだから管轄内はめんどくせぇ!」
おっさんは俺を持ち上げ、馬車の荷台に放り投げる。
また痛い!
おっさんのうちの二人が続けて荷台に乗り、一人は馬を走らせた。
これが俗に言う、拉致監禁という奴だろうか。
「んーっ!んーんー!」
「黙ってろ!」
今度は平手打ちだ。
覚えてやがれ、臭そうな顔しやがって…。
馬車がどんどんと走り、どこかへ向かっているのが分かった。
途中、ゴツゴツとした道でも走ったのか、何度も馬車が弾んだ。
その拍子に俺はいちいち体を荷台に叩き付けられる。
そろそろアバラにヒビが入ってもおかしくないんじゃないかな…。
ああ、こんな時、俺にも攻撃的な魔法があれば…切り抜けられるんだろうなぁ。
草原、某所。
「ジャッカル、さっきの馬車、見た?」
「あぁ、マーク無しだったな。ありゃ違法だわ」
「行くわよ」
「おっす」
ジャッカルは緑色の髪をたなびかせて、巨大な虎に飛び乗る。
そして、先に馬車を追う。
後から、シータが馬に乗った。
「取り締まり、取り締まりっと」




