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第3話 謎の回復力

 暫く進んでいると、馬車はピタリと止まった。

 荷台に乗っていた二人のおっさんのうちの一人が荷台から降り、何やら外にいる誰かと話をしているようだ。

 ここに来る途中、馬車の荷台を覆っていた屋根と白い布の間から、外の様子はチラチラと見えていた。

 ここは恐らく森の中だろう。


「んー!んーんー!」

「ったくうるせぇな。もうすぐ口だけ自由にしてやるから、待ってろ!」


 また平手打ちだ。

 馬車に乗り始めてすでに4回も食らっている。

 それも全部左頬…左利きだからってたまには右にやってくれないと気を失いそうだ。


 少しして、荷台から降りるように言われた。

 おっさんの一人に抱えられ、巨大な洞窟の前まで来た。

 松明やらでかなり明るくなっており、もはや洞窟というよりは巨大なドーム状の空間という方が適切かもしれない。

 馬車のおっさん3人と似たようなおっさんやおばさんが、洞窟内には大勢いた。

 目算で20人以上はいそうだ。

 そして中央には、岩にもたれ掛かる者の姿があった。

 こちらの様子に気付いたようだ。


「アネキ!例の小僧を連れてきました!」

「ん?」


 おっさんは、アネキと呼ばれる、ローブを着て顔を隠した者の元へ、俺をぶん投げた。

 擦れる!圧倒的摩擦ッ!!

 ローブの者はしゃがみ込み、俺の顔をじっと眺めた。

 そして、俺の口に貼ってあったガムテープを躊躇せず剥がした。


「こいつじゃねえ、ターゲットが違うぞ!」


 ローブの者が叫んだ。

 その声に、おっさん3人は思わず縮み上がる。

 それにしてもこのローブ野郎、女だ。

 ボーイッシュな感じの声だ。

 まあ、アネキって呼ばれるのも分かる。


「確かに髪は白銀だが…全然見た目が違う!」

「すっ…すいませんでしたァ!」


 白銀…?

 誰の髪が白銀だって?

 俺は子供の頃からサラッサラの黒髪で人生を歩んできたんだぞ。

 中学の頃のあだ名はキューティクル健人。

 俺の髪が銀色のわけ…。


「え…?」


 なんとなく髪を引っ張って抜け落ちた毛に、唖然とする。

 髪が…黒じゃない…!?

 だっ、誰か鏡を…!


「とにかく、こいつは用済みだ。さっさと殺せ」

「はっ、はいィ!」


 殺せ…?

 俺は殺されるのか!?

 急に髪が銀色だって事実を知ってまだ間もない俺を、殺すのか!?

 お前らに人の心はないのかァァァ!


「殺さないでェ!」

「静かにしろ!」


 再び平手打ち。

 今度もまた左頬だ。

 くそっ、俺にも何か攻撃手段があれば…!


「ぐあっ!」


 突然、俺に平手打ちを食らわせたおっさんが吹き飛ばされた。

 ローブ女が蹴り飛ばしたのだ。

 ローブ女は倒れこむおっさん向けて歩き、しゃがみ込む。


「聞こえなかったのか?ウチは殺せと言ったんだ」

「は、はいィ!」

「ターゲットの捕獲ミス、ウチの命令無視。お前、アウト」


 ローブ女はそう呟くと、おっさんの胸倉をつかみ、軽々と持ち上げた。

 女のくせになんという怪力…というか、そのおっさんをどうするつもりだ?


「ヒィィィィ!」


 ローブ女の手からは炎が巻き上がり、おっさんを一瞬で包み込んだ。

 凄まじい轟炎と轟音が、俺の目と耳を襲った。

 仲間を…焼き殺すつもりか…?


「お、おいお前!そんなことしたら死んじゃうだろ!」

「ジューシーになれるんだ。死ぬことくらい許せよな!」


 ローブ女が炎に包まれたおっさんを放り投げ、洞窟の壁に叩き付ける。

 火は消え、焼き焦げたおっさんが俺の目の前に倒れこんだ。

 白目を向き、嫌な臭いが漂っている。

 おっさんはうめき声をあげている。


 俺を結んでいたロープがいつの間にか切れていたことが、ローブ女の炎の凄まじさを物語っていた。

 炎に触れてもいないのに、ロープが焼き切れたのだ。

 だが、これで自由だ!


 まだ、治せるんじゃないか?

 俺は焼き焦げたおっさんに手を当てた。


「ヒール!!」


 桃色の光がおっさんを包み込む。

 回復力はたかが知れているが、やらないよりはマシだ。

 だが、回復途中で俺はローブ女に蹴り飛ばされる。


「がっ…!」

「誰が勝手に治していいって言った?あんたもウチの機嫌を損ねるのかい?」

「アネ…キ…」


 ローブ女の後ろで、焼き焦げたはずのおっさんが立ち上がった。

 まだ焼かれた跡は残っているが、おっさんは確かに立ち上がっていた。

 立ち上がれるほどに…回復していた。


「なにィ…?」


 ローブ女が呆気にとられている。

 その場にいる誰もが呆気に取られている。

 それは、回復した張本人の俺もだ。

 リスの歯形すら消せなかった俺のヒールが、恐ろしい炎に包まれて焼かれた男を、立ち上がれるまでに回復したのだ。

 これは…どういうことだ?


「これが女神の…御加護…?」

「あァ!?おまえ、今なんて――――――」


 ローブ女が俺の言葉に反応を見せた直後、洞窟入り口付近のおっさんおばさんが、洞窟内に吹き飛んできた。

 同時に爆音が鳴り響く。


「ふぅ~、案外あっさり見つかったね」


 洞窟の入り口付近には、緑色の髪の男と巨大な虎の姿があった。

 どこまでファンタジーなんだ、この世界…。


「あんたが…この集団のボスだな…?……そこのローブ野郎!」

「……」


 ローブ女は急に黙り込んだ。

 さっきまであんなに口を開いていたのに…。

 緊張してんのかな?


「とりあえずお前ら全員、このジャッカル様がとっ捕まえてやるよ!」


 ジャッカルと名乗ったその男は、おっさんおばさんに向かって突撃してくる。

 そして、鋭い爪で、次々と敵をなぎ倒していった。

 強い、このジャッカルとかいう男、まるで獣のように強いな。



 あっという間に、俺とローブ女以外の全員が、ノックダウンだ。

 どんだけ強いんだ、こいつ…。


「あとはお前だけだぜ?自首するなら手は出さねえで置くぜ」

「……ふっ」

「何がおかしい!」


 ジャッカルは再び爪を伸ばし、構えの姿勢をとる。

 しかし、ローブ女はいつの間にかジャッカルの背後に移動し、洞窟から出ていた。


「なにっ!?」


 ローブ女はそのまま、森の中へと走り去っていく。

 ジャッカルはすぐに、洞窟入り口付近に待機させていた巨大な虎に跨った。

 俺のことなんてすっかりどうでもいい感じだな。

 

「俺の鼻から逃げられると思うなよ!?」


 ジャッカルは鼻をくんくんさせて、虎を走りださせようとした。

 しかし、すぐに動きを止める。


「な、なんだぁ…?匂いが…急に……消えた…?」


 ジャッカルと虎はその場で茫然自失としていた。

 俺はとりあえず起き上がり、ジャッカルにやられて倒れているおっさんとおばさんを踏まないように、洞窟の外へ出た。




 さて、とりあえず便所行きたい。


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