第15話
ある晴れた日のローレンス家の庭で2人の男の子が木剣を握り模擬戦をしている。
片方は長男のユート・ローレンス。もう片方は弟のシリウス・ローレンス。隅の方ではシリウスの双子の妹であるシャルロットが兄2人を見ている。
「はあ!」
「・・・」
優勢なのは兄の方かと思いきや圧倒的に弟の方が優勢である。
ユートの素早い袈裟斬りを完全に見切っていたシリウスは持っている木剣でそれを受け流す。受け流した流れのまま横薙ぎに斬り払う。咄嗟に後ろへ跳んで回避したユートであったがシリウスはその好機を逃さず追撃する。
シリウスの怒涛の連続攻撃にユートはただ、防戦一方である。
そして、ついに1本の木剣が宙を舞う。
「はあ、剣術はシリウスにはもう勝てないね」
「ありがとう、兄さん!」
「でも、兄としては少し情けないかな」
「そんなことないよ。剣術では俺が勝つけど魔法に関しては兄さんには勝てる気がしないよ」
「まあね。 でも、ちょっと悔しいな。 マルコのやつも警備隊のロベルトさんに訓練?してもらってるから強くなってるし。それになぜかクロエはうちで次女見習いやってるし」
「あははは」
父のアランから剣術は教えてもらってはいるがユートには剣術は普通の才能しかないようだった。反対に弟のシリウスは恐らく天才なのだろう。
習い始めたのは2年前だがあっという間に上達した。剣術ではもう勝つことはできないだろう。
もっともユートの戦闘スタイルは本来、魔法陣による魔法の飽和攻撃でありそもそも相手の剣の間合いに入らせずに一方的に攻撃する。相手が魔法を使ってきてもそれ以上の量の魔法で攻撃する。
養父と前世の妻は例外だが。どんなに大量の魔法で攻撃してもいつの間にか懐に入り込まれているのだ。
恐ろしいことである。
あの盗賊騒ぎから5年経ち13歳になったユートは来年の春には王都にある王立学園に通うことになっている。
幼馴染のマルコとクロエは盗賊騒ぎで何か思うことがあったのかそれぞれ修行をしている。
マルコは警備隊の訓練という名の筋肉の洗礼を受けて見事な細マッチョになった。
クロエの方はエリザのもとでマリアと一緒に武装次女見習いとして鍛えられている。それに加えて祖父からみっちり特訓させられているらしい。
アルマは家業の薬草を使った薬の制作をするため修行中。
「ユートお兄様、シリウスお兄様お疲れ様です!」
模擬戦が終わったので妹のシャルロットがトコトコやってきて2人にタオルを渡す。
「ありがとう、シャル」
「サンキュ、シャル。 ああ! やっぱりシャルはかわいいなぁ!」
そして、毎度のことながらシリウスのシャルロットへの愛情ゲージが振り切れておかしくなる。
「シャルは絶対に結婚させん!」
「あまり言ってるとそのうち嫌われるぞ」
「シャルが好きな相手なら考えなくもない」
ユートの言葉にあっさりと前言を撤回するシリウス。家族全員シャルロットのことは好きだがシリウスはあまりに好きすぎてブラコンになりつつある。
「シャルはユートお兄様もシリウスお兄様も大好き!」
「やっぱりシャルは結婚させん!」
「・・・」
満面の笑み、まるでニパッと音が聞こえそうなシャルロットの笑みを受けたシリウスが再びブラコンをこじらせた。
だめだこいつもう手遅れだと死んだ目で弟を見るユート。
「お父さんもシャルのことが大好きだぞー!」
どこからともなく現れてぎゅーと娘を抱きしめるローレンス家現当主アラン・ローレンス。
もう、娘を目に入れても痛くないほど溺愛している。娘離れができるか非常に不安である。
ユートは「ここにも手遅れがいた」と完全に白眼をむいている。
仕方がないのでユートはルーチェを撫でて現実逃避する。
「だめだ、あの2人。もう手遅れな気がする。どうしようルーチェ」
「きゅー? きゅきゅきゅ!」
そんなユートに「元気出して」と元気付けるルーチェ。
「ありがとうルーチェ!」
「きゅきゅ!」
ユートはルーチェの白銀に輝く鱗を撫でながらシャルロット大好きな2人を眺めた。
ーーーーーーーーーー
その日、ユートは父アランに執務室に呼び出された。
ユートが父の執務室に呼び出されることは少ない。これが学院を卒業すれば政務の手伝いなどをするので毎日行くことになるだろうがそうでない今のユートでは執務室を訪れた回数など片手で数えるほどしかない。
いったい何の用だろうと首を傾げながら入室の許可を取り執務室に入る。
中に入るとなぜか母のナタリアもいた。そして、両親揃ってニコニコと微笑んでいる。
あの顔はないかを企んでいる顔だ。
何を企んでいるかはわからないがあの顔の後には毎回驚くことをいわれた。今回は何があっても驚かないぞとユートは心のうちで誓う。
「えっと、ご用はなんでしょうか?」
「さっそくだが・・・」
貴族の当主の顔となった父を見てユートは自然と背筋が伸びた。
「アルマちゃんのことはどう思う」
「え? どう・・・・・・思う、とは?」
あまりの予想外の質問にユートは頭が真っ白になった。
「異性としてどう思う?」
「え、えっと」
戸惑うユートに母のナタリアから追撃が来る。
「アルマちゃんに小さい頃から魔法について教えてるみたいだし、ちょくちょくアルマちゃんのお家にも遊びに行ってるわよね」
「いや、それは、回復薬をもらいに・・・」
思わず顔を赤くしながら言い訳を言うが意味はなかった。
確かに最近のアルマは可愛くなってきてちょっとドキドキするがそれだけだ。 多分。
「うんうん。わかってるわ」
全然わかっていない! とユートは心から思った。
母はニヤニヤと擬音がつきそうに笑っているし、隣の父もすべて承知しているとばかりにキラッキラの笑顔でウンウンと顔を縦に振っている。
「その顔を見る限り満更でもなさげじゃないか。
というわけで、アルマちゃんとユートは婚約するということで進めるよ」
「いや、ちょ、ちょっと待ってください」
「なんだい? 何か不満でも?」
ニヤニヤと面白そうに笑いながら首をかしげる父にユートは質問する。
「そもそも。我が家は末席とはいえ貴族でしょう。アルマは平民だから婚約は難しいのでは?」
「逆だよ。準男爵だからできるんだ。こんな辺境を治めている新興貴族なんて相手にされないしね。それにアルマちゃんの家の回復薬は我が領地にとって貴重なものだ。彼女を我が家に迎え入れることで回復薬の技術を独占することができる。まあ、建前だけどね」
「ええ!」
キリッと真面目な顔して父は堂々と建前だと言い放った。父よそれでいいのか。
「で?」
ニヤニヤとそれはいい笑顔で結局のところどうなのかと聞いてくる。
「・・・アルマのことは、好きですよ」
「それは異性としてかな?」
「・・・最近異性としてドキドキすることがあります。でも、妹的な感じの方が強いですね」
「そうかい? まあ、そこら辺は婚約してる間になんとかなるかな? 頑張ってねアルマちゃん」
「はい!」
ユートの背後の扉が開き笑顔のアルマが入ってくる。は、嵌められた。
父と母を思わず睨みつけるがニコニコと全く相手にされない。
「ああ、そうだ。アルマちゃんも花嫁修行として一緒王立学園に行ってもらうことになったから」
「よろしくね。ユート君」
「あ、うん」
こうしてアルマも一緒に王立学園で学ぶことになった。
前世の経験から言って貴族はいろいろめんどくさいからな。ちゃんと守らないとな。ユートはそう決心した。




