第14話
アランを襲おうとしていた盗賊たちはむさ苦しい筋肉ダルマの襲撃を受け甚大な被害を出した。
「な、何なんだ。こいつら!」
「お答えしましょう」
筋肉ダルマの集団からメガネをかけたイケメンが出てきて、クイっと人差し指と中指でメガネを持ち上げる。
警備隊副隊長のアーロンである。首から下は、服の上からもわかるほど筋肉が隆起している。
要するに、こいつも筋肉ダルマである。
「我ら、ローレンス領警備隊!」
「「「1に筋肉、2に筋肉、3、4も筋肉、5に筋肉!!!」」」
「総員、今こそ我らの筋肉を見せつける時です。突撃っ!」
「「「ぅおおおおおお!!」」」
アーロンの号令のもと警備隊が盗賊に襲いかかる。
想像してほしい。夜の闇の中、ガチムチでむさ苦しい男たちが集団で襲ってくるのである。身の危険しか感じない。
「アーロン、助かったよ。ありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
あたり一帯に熱気と汗臭さが充満する。
そんな事は気にせずアランとアーロンはこの後どのように盗賊を追い詰めていくかの算段を話し合う。
「フハハハ。刮目せよ、我が上腕二頭筋を!」
「我輩の筋肉の前に剣など無意味である!」
「ふん! (ムキッ!)」
「俺の筋肉に不可能の文字なし」
「むんっ! (ムキムキッ!!!)」
押し寄せる筋肉集団。
盗賊たちの阿鼻叫喚地獄が始まった。
「オエェ。く、くさ、い。ダレカ、ダレカアアア!」
「嫌だー。こんなの嫌だー!」
「く、来るな! 来るなぁぁぁぁぁ!」
「あべしっ!」
「djsfkべああdjcjdん!」
逃げ出そうとした盗賊もアーロンの指示で待ち構えた筋肉ダルマたちにより残らず殲滅されていく。
「総員、筋肉にかけて1人も逃してはなりません」
脳筋の筋肉ダルマ集団に的確に指示を出すアーロン。
かけているメガネは伊達ではない。
馬で逃げる盗賊。
悪寒を感じて後ろを振り向くと
「ほっほっほっほ!」
キンニク ダルマガ オイカケテ キタ。
「ヒイイイイイイイ!」
涙目になりながら、必死に馬にムチを打ち加速させる。しかし、彼我の差はちっとも離れない。寧ろどんどんなくなっていく。
土煙を上げながら、やたらと綺麗なフォームで走ってくる筋肉ダルマ。
その光景は当事者からすれば恐怖である。いや、第3者から見ても恐怖である。
とうとう馬の横に並ばれ引き摺り下ろされる。
「捕獲完了。 ほっほっほっほ」
また1人、盗賊が無力化された。
物陰にこっそり隠れてやり過ごそうとした盗賊。
盗賊が隠れ終わった直後、曲がり角から巌のような男がやってきてキョロキョロとあたりを見回す。
「見失ったのである。この辺にいるのは確かなのである。仕方ないである。
奥の手を使うのである。 ふんっ! (モワァ)」
「く、くせー!」
男がマッスルポーズをした途端一帯になんとも言えない異臭が漂い始める。そのあまりの臭さに堪らず隠れ場所から出てくる盗賊。
「見つけたのである!」
「ブクブクブク」
近寄ってきた筋肉ダルマ余りの臭さに盗賊は気絶した。
「バカな! 何なんだ、お前らは!」
盗賊の頭領は混乱していた。
今回も前回同様、楽に制圧して、女で遊ぶ予定だった。実際、途中まではうまくいっていた。
領主は謎の男から貰った魔法具で追い詰め、撹乱していた女の獣人も無力化したし、屋敷も部下に襲わせて制圧した。
なのに、あの訳のわからない筋肉の集団が出てきたせいですべてが台無しになった。
こちらは400人なのに、たった50人ほどの筋肉共に全て無茶苦茶にされた。ありえない。
「先ほど名乗った通り、ローレンス領警備隊です」
人差し指と中指でメガネをクイッと持ち上げるアーロン。メガネが松明の光を反射して、キラリと光る。
「うるせぇ! 俺様の計画は完璧だったんだ。なのに何で・・・」
「ふむ。 それはあなたに筋肉が足りないからです」
「は?」
「だから、筋肉不足、と申し上げているのです」
「いや、何訳わかんねぇこ・・・」
「筋肉不足、と申し上げているのです」
「おい、話聞・・・」
「筋肉不足、と申し上げているのです」
「あの・・・」
「筋肉不足、と申し上げているのです」
「・・・・・・・・・」
メガネをかけたイケメンであり、紳士的で礼儀正しく、アランの参謀を務めるほどの頭の良さを誇るアーロン。彼の唯一の残念な欠点は筋肉バカである事だ。また、彼は2つ年下の妻を愛する愛妻家であり、隊の中で彼のみが既婚者なので隊長のロベルトや隊員たちの間で羨ましがられている。
捕虜となった盗賊たちは、一旦村の広場に集められた。
今回、アランやエリザ、警備隊の活躍によりこの規模の盗賊の襲撃としては、少ない被害で鎮圧できた。しかし、97名の尊い命が奪われた。
盗賊たちは今後、王都まで送られてそこで裁きを受ける事になる。
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ローレンス領西の森
「せっかく魔法具をもたせたというのに、やはり盗賊は盗賊でしかないという事ですか」
遠くに見える村の様子を見ながら呟く男。
モノクルをかけ、燕尾服を着こなす初老の男性。彼こそが盗賊の頭領の言う「謎の男」であり、ここでローレンス領を盗賊たちが襲撃するのを観察していた。
「あわよくばここの領主も殺して王国の力をそぎ落としたかったのですが、さすがに無理でしたね。試作品のデータが取れたので良しとしましょう。 !!!」
執事の姿が一瞬にして掻き消える。
直後、さっきまで執事がいた場所に電光とともにアランが現れる。
「やはり、気のせいか?」
アレンは、しばらく辺りの様子を伺っていたが何もないと判断し帰って行った。
アランが去ると、どこからともなく執事が現れた。
「いやいや。先ほどは危なかった。あと少し気がつくのが遅かったら気づかれていたでしょうね。さすが”電光石火”のアラン、といったところでしょうか。
目的も達成したので早く旦那様のところへ帰るとしましょう」
その言葉を最後に執事は姿をくらます。
(なんか、面倒な事になりそうだ)
執事が消えるまでの様子を放った小型ゴーレムで盗み見ていたユートは自身の警戒レベルを引き上げるのだった。




