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制空猟兵  作者: 九木圭人
嵐の中、過ぎ去った後
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嵐の中、過ぎ去った後6

「用意……」

 軍曹の声、意識を集中。

 一拍置いて聞こえたスタートを表すブザー。

 そしてそれを耳が理解する頃には、既に機体左肩に書かれた「02」の表記が滑るように遠ざかっていく。


「ッ!」

 その数字を自分の足で追うようにアクセルペダルを踏み込み、一歩ずつの軽い振動が尻を突き上げた。

 まずは直線を走り、そびえ立つ壁に向かって突っ込んでいく。

 クラウドウォーカーは人型二足歩行兵器だ。故に、その訓練で走ることになるコースも人間の兵士の訓練に用いるそれと、サイズ以外はほとんど同じ。


「フォボス4!遅れるな!」

 少しでも動きが鈍れば練兵係の鞭が入るのも同じだ。

「くっ……!」

 再び肩部ハンガーにライフルを任せ、壁の前で腰部ブースターを起動。

 本来は雲から水蒸気を吸収し、そこから水素を取り出して着火し、爆発的な燃焼を起こして瞬間的に強大な推力を得る装備だが、地上では訓練用の水蒸気デバイスを装備しての使用となる。

「ぐぅっ!」

 とはいえ、その推力も、それによって発生するGも正確に再現されている。

 ズシンと体にのしかかる衝撃を受けながら、飛び上がった機体の両手を壁の一番上に掛けて、残りの推力と腕部のCNT(カーボンナノチューブ)人工筋肉の出力とで一気によじ登る。

「しっ……」

 即座に乗り越えて飛び降りつつ、空中で肩部ハンガーからライフルを受け取って着地。その頃には既に、軍曹の機体は先を行っている。


 機体は自分の手足と同じように扱え。戦場で手足を縛って戦う気か――教育隊で教官から何度も飛んできた檄が頭に蘇る。

 あそこを卒業して、こうして配属されたという事は、教官のいう手足のように扱うということが合格ラインに達した――少なくともその見込みがあると判断されたということだろう。

 だが、目の前を先行する機体は、小崎軍曹のそれは別次元だ。同じ手足のような扱いでも、俺とあの人とでは素人とアスリートの差だ。


「フォボス4!遅いぞ!!それで全力か!!」

「はい!」

 とはいえ、舌を巻いている場合ではない。

 アクセルをベタ踏みして加速し、そのままハードルを飛び越え、アジリティトレーニングのようにパイロンの間を小刻みに縫って走る。


「前方標的に射撃を実施!」

「了解!」

 叫び返し、そして足を止めずに、三枚の標的に銃口を向ける。

 機体のアイカメラと銃にマウントされたガンカメラとで銃口と視線のズレ、機体と銃のズレ、自機の位置や移動する方向、標的との相対速度や未来位置の予測等を元にFCSが即座に正確な弾道を算出して高精度の射撃が可能になっているとはいえ、それを扱うのは乗っている人間だ。


「ッ!!」

「正確に狙え!弾を無駄にするな!」

 初弾が一番右のターゲットを飛び越え、訓練用ペイント弾が地面を青く染める。

 即座に修正してその後の三発を命中させ、障害物だらけのエリアへと飛び込んでいく。

 と、同時に軍曹機が止まり、俺に道を譲った。

「ポイントマンを任せる」

「了解しました!」

 ここから先は人間でいうキルハウス。即ち、遮蔽物だらけの中で、どこからターゲットが飛び出してくるか分からない状況だ。


 ここでのポイントマン=先行して敵を見つけ出し対処する能力を示せということ。


「……ッ」

 神経を研ぎ澄ませ、視界の隅に表示されるレーダーを、そのまま隅に置いた状態で確認しつつ進む。

 左手に壁――その向こうから飛び出してくる可能性。

 右手にも壁――こちらも同様。

「……」

 まずは近い左側に意識を向ける。

 角の向こうに対し、機体の露出を最小限に抑えつつ銃身と視界を確保。

「クリア……」

 即座に180度振り返り、銃のストックを左肩にスイッチして右側を確認――同時に動きが視界の左隅。

「くっ!!」

 体の向きを左=エリア入口から見て正面に向き直りつつ、そのまま右の角に飛びこみながら銃口を向けた。


「コンタクト!」

 叫ぶと同時に二発がターゲットに命中。どうやら後続する軍曹に射線を開けて正解だった。

 撃破判定になったターゲットが倒れ、同時に今しがたチェックを中断した右側から同じものが現れる――再び視界の隅で知る。

「ちぃっ!」

 反射的に左に飛び退いて、同時に右に機体と銃口を向け、着地と同時に引き金を引く。

 ばら撒かれた弾のうち二発が命中。これまたターゲットが倒れる。

「……クリア」

 気が付けば止まっていた息を大きく吐いて前進を再開。最初のターゲットが出てきたその奥へと足を進ませる。


 周囲は雲を再現したような白い壁。正確に言えば、雲と青空が描かれた壁に囲まれた不思議な空間。

「……」

 その中を、周囲に常に意識を向けながら進んでいく。

「ッ!」

 また飛び出してきたターゲットに速射を叩き込み、倒れたそれのすぐ後ろから突っ込んでくるもう一枚にも即座に銃を構えなおして銃撃。射撃後に気を抜きそうなタイミングを正確に測って突っ込んでくるのが油断ならない。


「……クリア」

「コンタクト!」

 無線越しの軍曹の声と同時に響く銃声。

 振り向いた瞬間目に入った、軍曹機の肩越しに倒れていくターゲット。

 そして同時にレーダーが伝える、それまでの正面から更に突っ込んでくる新たなターゲット。

「ちぃっ!!」

 壁昇りの応用=片方だけの腰部ブースターを点火。爆発の推力によって片足を軸に回転して反転。即座に一発発射。突っ込んできたところを始末する。


「クリアじゃなかったのか?」

「すいません」

 口で謝罪し、心で苦虫を噛み潰し、それ以外は更なる襲撃に備える。我ながら嫌なマルチタスクが身についたものだ。


(つづく)

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