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制空猟兵  作者: 九木圭人
嵐の中、過ぎ去った後
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嵐の中、過ぎ去った後3

 翌9日、自衛隊及び在日米軍による決死の反撃が開始された。

 とはいえ、彼らとて未知の人型兵器との決戦など映画やアニメでしか見たことがない。

 加えて、悪天候のため航空機は飛行できず、艦艇も接近できない、さらに十分な数の戦闘車両すらない状態では反撃などたかが知れている。


 10日、沖縄駐留米軍及び自衛隊沖縄派遣部隊はほぼ全軍において戦闘能力を喪失。

 沖縄全土にわたる電波妨害により外部との通信が閉ざされる中、奇跡的に生き残った海底ケーブルを使い、得られた情報を日米両政府に送信。

 その誰も信じられない事実=人型兵器は上空の台風から降下してきており、台風は明確に意思を持って地上を攻撃している。という点を伝えた。


 この最後の通信と、衛星から得られた情報により、日米合同による反攻作戦が開始、佐世保に停泊していた米海軍及び海上自衛隊・航空自衛隊による台風に対する一斉攻撃が実施され、遂にこの未知の新型台風の撃破に成功。加えて、降下した人型二足歩行兵器二機の鹵獲に成功した。


 世界中で仮想敵国による侵攻からエイリアンの侵略まで、様々な説が現れては消え、また似たような陰謀論やオカルトが現れる。

 そんな混乱の中、年が明けた2036年2月11日、北海に現れた、沖縄同様の低気圧が南下を開始。翌12日には同様の人型兵器の大部隊が、ドイツ軍の抵抗を受けながらもドイツ北部を強襲。空軍の防衛線を突破し上陸すると、沖縄同様に無数の人型兵器が地上へと着上陸を開始、上空の台風と共にエルベ川を遡上し、ハンブルクへと到達。後にハンブルクの悲劇と呼ばれた凄惨な地上戦が行われた。


 この戦闘により、人類は都市一つを焼き払われながら、人型兵器及びこの特殊な台風についていくつかの新情報を得ることとなった。

 そして、そうした情報を元に下された結論=沖縄及びハンブルクを襲った台風は従来の自然現象ではない。

 信じがたい事に、それは、徹底して明確な敵意をもって人類への攻撃を企図している。最短のルートで人口密集地に向かい、その地に留まって徹底的に蹂躙する。


 敵性低気圧。人類が初めて経験する「悪意ある災害」だった。


 ことここに至り、遂に世界各国でこの新たな脅威への対策に取り組むことが決定。

 しかしながら、衛星写真などから得られた新情報=台風の目に相当する部分に存在するルーラーと命名された存在に対しては、沖縄とハンブルクどちらのケースにおいても、航空機による攻撃は致命傷を与えるには不向きだった。


 高度一万メートルを超える上空で、人型兵器やそれより大きな機動兵器の苛烈な迎撃を受けながら航空優勢を確保し、シェルター並みの堅牢さを誇るルーラーを打ち破るだけの火力を投射するなど、従来のあらゆる通常戦力では不可能と思われた。通常の対地ミサイルの類は火力が足りず、地中貫通爆弾(バンカーバスター)を正確に命中させるには爆弾を抱えたままスーパークルーズ(超音速巡行)すら捕捉する対空砲火の中に飛びこんでいく必要がある。防空網を突破できるHGV(極超音速滑空体)の使用も試みられたが、ルーラーがソリッドクラウド内に潜行可能ということが判明しただけだった。


 ならば核兵器を――という議論も当然巻き起こったが、答えはノーだった。ルーラーを破壊してもしばらく周囲の台風は残ることが判明していたため、下手に核攻撃を行えば、仮にルーラーを破壊しても、残留した低気圧によって放射性降下物(フォールアウト)が辺りにまき散らされるのは容易に想像できた。


 結局、航空機による攻撃以外に有効な手立てはない。HLPS(Hostile Low-Pressure System)=敵性低気圧が出現する度に貴重な戦闘機とそれ以上に貴重なパイロットを消耗品のように突っ込ませ、その迎撃のために浮上したルーラーに高価なHGVを複数発撃ち込むしか。

 後に数敵主力を無人機に置き換えることも行われたが、決定打を欠くという点では変わらない。HLPSが発生するや否や、数を揃えた無人機とかき集めた有人機とをひたすら叩きつけるだけだ。そしてそれらによってルーラーを釣り出すことが出来るかどうかは、ほとんど魚を釣る場合と変わらない。つまり、最後は運だ。


 事態が変わったのは2042年。沖縄で鹵獲されたHLPS側の人型二足歩行兵器の解析が終了、彼らを構成しているのがヌアザ粒子と命名された新物質によって生み出されたソリッドクラウドと、それを元にした装甲。即ち、従来とは異なる性質を持ってはいるものの雲であると判明し――人類側の既存技術によって再現が可能であるという結論と、実証機の製作が行われた。


 HLPSの人型歩行兵器。後にトルーパーと命名されたそれを模した、人型兵器。

 洋の東西でHLPSの初期の犠牲となった日独両国及びアメリカで行われた兵器開発と、その運用法の研究。その結果、人類は新たなHLPS対策を生み出した。


 シュトゥルムヤークト。クラウドウォーカーと命名された人型兵器を用いてソリッドクラウド=陸地のように固まった雲によって形成されたHLPSに上陸、ルーラーに肉薄攻撃を行い、差し迫った脅威に対して防衛のため浮上したルーラーの、その装甲の隙間にダメージを与えて破壊するというこの狂気の作戦は、2045年デンマーク沖に現れたHLPSに対し実行に移され、その有効性を証明したとこで、クラウドウォーカーと共に各国に急速に浸透した。


 普及と共に様々な技術更新が行われ、パイロットや空挺出身者等のエリートを選抜して運用されていたクラウドウォーカーは、いつしか訓練を終えたばかりの新兵でも動かせる代物となった。


(つづく)

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