タワーディフェンス8
小隊規模での移動方法にはいくつかやり方があるが、今回の場合は二機が先行する形をとった。
更に言えばその二機も一機がポイントマンとなり、もう一機がバックアップに回る。その間残された二機は後方と周囲を警戒し、ポイントマンが安全を確認すると後続がそこに到着、それから別のポイントマンを立てて同じく警戒しつつ前進。
ポイントマンの仕事は哨戒――実情に即して言えば、半分ぐらいは「死に番」だ。仮に伏兵があった場合、こいつが撃たれることでその位置を後続に知らせることが出来る。
「……」
その番が回ってきたのは、軍曹がそれを無事に勤め上げた後、二番目だった。
全体の流れを止めず、しかし周囲の警戒を怠らず、一定のペースを維持しながら同時に周囲に切れ目なく警戒し続ける。
訓練では何度もアンブッシュを受けて死亡判定を出されて鍛えられた結果、伏兵がどこにどうやって隠れているのか分かるようになってきたが、それでも当然ながら緊張感は半端なものではない。何しろこちらは撃たれた場合腕立て伏せや走り込みでは済まないのだ。
「その前方の峡谷だ。そこに入る」
「了解」
小隊長の指示が飛び、前方にそびえ立つ雲の山脈の隙間に歩を進める。
それまで多少の起伏程度しかなかった平坦な雲は、ここに来て地上のような切り立った崖にぶつかった。
左右を100m近くありそうな崖に挟まれた、それなりの広さの崖。
その手前にある小さな丘――というか雲の瘤のような隆起の前で機体の膝を折る。
「前方クリア……左右上クリア……」
ここで襲撃するならまず迷うことなく崖の上に布陣する。
そこから撃たれれば逃げ場はない。
勿論、そんなことは小隊長も、他の二人も分かっているだろう。
この谷底を進んでいった先にある崖を登っていった先に目標となるフラックがいて、このルート以外でのアクセスは不可能。
そうでもなければ選ばないルートだった。
「よし、前方クリア」
「交代するぞ4」
こちらが安全を確保したところで、その射線に入らないギリギリのところを伍長機が、続いて小隊長が駆け抜ける。
どうやらこれで俺の死に番はひとまず終わったようだ。
「ふぅ……」
勿論、それで作戦が終わったわけではない。
だが、ようやく的の役目を終えたところで、ぐっしょりと汗に包まれていることに気づくぐらいに気を張っていた体は、自然と安堵のため息を吐いた。
そのまま、伍長が先頭に立って谷底を進んでいく。
左右のほぼ垂直に切り立った崖はほとんど変わることなく、また100mには満たないだろうが相応の広さのある谷底も、その入口と同様に不規則な隆起が連続していた。
その隆起の稜線を盾にして進んでいた伍長機が停止したのは、谷底を進み始めて二分ほどのことだった。
「前方にトルーパー複数」
伍長の、つい先程までと異なる感情を殺した声。
「まだ気づいてはいないか……」
普段と変わらない小隊長の声。
その声が、二機に追いついた俺と軍曹に、一切振り向かずに指示を続ける。
「連中が全て射程に入ったところで撃つ。機先を制し、敵の戦線が崩れたところで300m左前方まで移動する。この地形では逃げ場がない。挟まれる前に一気に駆け抜けるぞ」
「「「了解」」」
応えつつ、改めて前方の敵部隊にカメラを向ける。
未だ射程外ではあるが、アイカメラの望遠機能は問題なくその周囲を警戒しつつ一定間隔を維持して向かってくるトルーパーの群れを捉えている。
「フォボス2、左端をやれ」
「了解」
「3はその隣。4は一番右だ」
「「了解」」
振られたターゲットに照準を合わせ、レーザー測距儀が示す距離が開戦までのカウントダウンのように減少していくのを見る。
「……」
恐らく、実際の時間で言えば一分も経っていないだろう。散開したというか、ただ谷底の幅を機体数で割って等間隔で並んでいるだけのように見えるトルーパーたちが、全機射程に収まったのと同時に、小隊長の淡々とした指示。
「……各機撃て」
返事は銃声が代わった。
曳光弾がFCSの想定した場所に吸い込まれ、一発の反撃もしないまま四機のトルーパーがその場に崩れ落ちた。
「300m左前方の稜線!全機前へ!」
それを見届けるか否かと言うほどの速さで続いた指示に、反射的にそれまで隠れていた隆起から飛び出す。
俺たち全員が離れたところで、まるで初めからそういう計画だったかのようにそれまで身を隠していた隆起めがけて連中の反撃がパラパラと降り注いだ。
腰部ブースターを使い、或いは全速力で走り、連中の弾着修正が終わるまでに目指すべき次の遮蔽物へと突っ込んでいく。
と、その間にも伍長の放った射撃が一機のトルーパーを黙らせた。
「ターゲットダウン」
その宣言と同時に、生き残った二機が後退を開始する。
「よし……」
連中を押し込んでいる。このまま行ける――頭の中にその考えが一瞬浮かび、それからすぐ、走りながら空に銃を向けた軍曹機に何が起きているのかを教えられた。
「!!」
奴らは逃げたのではない。俺みたいな間抜けの目を引き付けるために後退したのだ――崖の上から飛び降りてくる新手に無防備な姿を晒させるために。
「クソッ!!」
軍曹に倣って、落ちてくるそいつらに銃口を向けながら引き金を引く。
瞬間発生する、空と陸との銃撃戦。
「ッ!!!」
あと少し気づくのが遅ければ、バラバラになっていたのは俺の方だっただろう。
「全機無事か!?」
叫ぶ小隊長。その声に反射的に彼の機体の方を見ると、片手で持ったライフルが着地したトルーパーを即座に撃ち抜き、そうしながら背後を取ったもう一機の首部分に対装甲ナイフを突き立てて仕留めている。
「フォボス2無事です」
「フォボス3無事です」
そう応答した軍曹と伍長も、それぞれ落ちてきた相手を空中で撃ち落としている。
「……フォボス4無事です」
何とかそれに加わった時、背中が氷のように冷えているのに気が付いた。
(つづく)
投稿遅くなりまして申し訳ございません
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