タワーディフェンス7
大佐がそう結ぶと、同時に画面の中央にワイプが出現。その中に表示された物体に再びレーザーポインターの赤い点が走る。
「これが確認されたフェルディナントのルーラーだ。詳しい武装等は不明だが、繰り返しになるもののレーダー機能を有している以上、何らかの誘導兵器の存在を疑うべきだろう」
つまり、接近するサックチームにはかなりの危険が伴うということだ。
これまでトルーパーやフラックのように武装して抵抗するルーラーの例は当然存在したが、そいつらも誘導弾の使用はしてこなかったはずだ。
その姿を目に焼き付ける。
他の連中と同様のグレーのボディー、四発の飛行艇のようなデザインのそれは、その見た目通り雲の上を滑るように動いている姿を納められていた。
と、そのルーラーの居場所を示す赤い点が表示され、そこに向かって北から矢印が伸びる。
「今回のサックチームは、ガニメデ、エウロパ両隊によって構成する。他の部隊は、それぞれに示した場所でのバックアップを担当することとなる」
大佐の言葉に合わせて、無数の矢印がソリッドクラウド全域に伸びていく。俺たちフォボス隊は、ダイモス隊と共にルーラーまでの進路上に投入されることになりそうだ。
「先程も言った通り、今回はHGVの弾数に余裕がない。サックチームによる釣り出しと、それに続く初撃が失敗した場合に備え、バックアップチームは適時ルーラーへの攻撃支援に回れ。その指示については管制機から行う」
どうやら相当忙しいことになりそうだ。
弾に余裕がなく、しかし退くにも後がない。
「……面倒なことになったな」
会議室を後にした時、隊長がぼそりと漏らした。恐らく部隊の誰もが同じ気持ちだっただろう。つまり、俺以外の二人も。
だが、それで盛り上がるのにはあまりに周囲に人が多い。
結局、他の連中と同様、ここに送ってくれた車で滑走路のある人工島まで戻り、一晩の荷物を置いた臨時の宿舎によってから仕事道具の納められたハンガーへ。
「確認だ。出発は0550時。0500小隊ハンガーに集合とする」
小隊長からの確認を終え、各自の機体へと向かうと、日も昇らぬうちからの出撃に合わせて作業してくれている整備班の中へ入っていく。
「硬度は5だそうだ。今回も12番か?」
「はい。12でお願いします」
「了解だ。それと、件の電波妨害弾の取り付けは終わっている。コックピット入って動作を確認してくれ」
「了解しました。ありがとうございます」
全高6mのエトナからすると小さく見える予備ハンガー上のそれ、人間が担げるような発射筒に予備弾用キャニスターが追加されただけのシンプルなそれは、実際にマスターアームをオンにして装備を選択した際のHMDの表示も非常にシンプルだ。
「ただのロケットだからな……」
使い方としてはほとんど打ち上げ花火みたいなものだ。タンジェントサイトを再現した目盛りの他には大した情報はない。
一応ハンガー上で旋回させることは出来るようだが、その意味があるのかはわからない。
とにかく、点検を終えると、後は実際にオーダー通りに上がるように手伝いの時間だ。
と言ってプロの仕事にあれこれ手出しすることはない。大体は雑用をこなし、必要に応じてコックピットで操作を行う。そうして一分一秒でも長く睡眠時間を確保するために作業を進める。
簡単な夕食とシャワーにありついてから、6時間の睡眠時間を確保できたのには、この協力が少しは役立ったと自惚れてもいいかもしれない。
「サックチームの支援や、場合によってはそちらへの合流なども考えられるが、まずは俺たちの仕事をこなすことが最優先だ。トルーパーを排除し、フラックを無力化する。色々考えるのはそれからでも間に合う。質問。……よし、それじゃ上で会おう。解散」
小隊長の号令一下、俺と軍曹は既にシームルグに積み込まれた自機を追う。
夜明け前、夜の一番暗い時間の中を、低く響くエンジン音を聞きながら上がっていく。
高揚している訳でも、沈んでいる訳でもない、緊張しているともリラックスしているとも言えない、奇妙な感覚。
夜の闇の中、そんな俺たちを抱えてシームルグは飛ぶ。
やがて一番暗い時間帯が終わりに近づき、一秒ごとに明るくなってくる。
「……ハッチが開いたら、朝になっているな」
不意に軍曹が呟いた。
まるで、もし俺が寝落ちしていたら起こさない様に気を使うような囁き声で。
「真っ暗なこのキャビンの、真っ暗なコックピットの中からそれを見ると、その時だけは悪い任務ではないと思えるよ」
一瞬だけだけどな、と付け足す。
その瞬間、ほんの少しだけ彼女がほほ笑んだのは、闇に慣れた目と計器類の僅かな光がしっかりと教えてくれた。
「コックピットよりキャビン。降下十分前。クラウドウォーカーパイロットは機体に搭乗。最終チェックを行った後待機せよ」
「よし、行こう」
「はい」
開始の合図のように彼女の手がポンと肩に触れる。
高揚しているのか沈んでいるのか、緊張しているのかリラックスしているのか、そのなんとも言えない感情をその手が打ち消した。
残ったのは、さてやるかという仕事にかかる肚だけだ。
「降下三分前!」
「フォボス2、機体動作異常なし」
「フォボス4、機体動作異常なし」
今回パスファインダーはいない。疑似ヌアザ粒子による欺瞞で敵が近づいていると気づかない連中の前に降下し、一斉に襲い掛かるまでは非常に静かなものだ。
「降下一分前!後部ハッチ開放!」
号令の直後、軍曹の言っていたものを体で味わうことになった。
「おぉ……」
真っ暗な世界に差し込む光。
コックピットのHMD越しではあるが、雲海のように広がった雲が朝の光を浴びて薄っすらピンク色に近い白さで輝いている。
神聖さすら感じるその光景に、軍曹の言葉の意味を体が理解するのを感じた。
「目標上空到達!降下用意……降下!降下!降下!」
「フォボス4降下」
ほんの数秒、ただじっと見ているだけでいい空と雲。
その終わりを告げる、お仕事の合図。
機体が空に放り出されれば、幻想的な光景はただの現実に変わる。
「……よし」
意識を切り替える。ここから先、白く輝く雲は全て敵の領土だ。
「フォボス4降着。機体異常なし」
「フォボス2降着。機体異常なし」
ほとんど同時に降り立った二機に報告しつつ、そちらに合流する。
「フォボス3降着。機体異常なし」
「フォボス1降着。機体異常なし。全機異常なしだな。フォボス1よりポラリス。フォボス隊全機、予定通り降着完了。これより指定された攻撃目標に向かう」
小隊長がそう言いながら、機体同士のハンドシグナルで進路を示して移動を開始。今回もまずはフラックを排除するのが目標だ。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




