タワーディフェンス6
俺たちを乗せた飛行隊は一路南へ。
アースターミナルに到着する頃には、既に日は傾き、海がオレンジ色に染まっていた。
「まだ夕日が拝めるか……」
併設された人工島への着陸態勢に入った機体の中で呟いた声は、誰に聞こえることも無かった。
この辺りには雲もほとんど出ていないようだ。オーストラリア部隊の抑制作戦はしっかりと効果を発揮しているのだろう。
とはいえ、現地の職員たちにとってはそれだけでは安心できないというのは、降り立ってすぐに分かった。
ティルトウィングの四発機が発着できるような滑走路を持つこの島は、その大部分が滑走路とハンガーによって構成されているが、目を合わせたスタッフは皆不安そうな表情を浮かべていた。
そして何より、その滑走路の周囲に地対空ミサイルやそのためのレーダー、アンテナ、発電車両、射撃管制車等々が展開していて、それを守るための自走対空砲まで置かれているのを見ると、戦争が起きたのかと思ったという感想は全く間違いではない――なんならその発言者より見慣れているだろう俺ですら同じ感想を抱いた。
「よし、全員揃ったな。前回は多国籍軍だったが、今回は我々だけだ。……ああ、挨拶が遅れたな。私は西太平洋方面軍司令部、野本忠義大佐だ。今回の作戦指揮を担当することとなった。よろしく頼む」
その飛行場からパシフィックピラーの足元へ、前回のものより広く、恐らく使われることがあまりないのだろう講堂を作戦会議室として転用した所に集合して今回の任務の確認だ。
当然、演壇のすぐ横、スクリーンに表示される内容も見慣れたものだ。
見慣れていないのは直立不動で自己紹介を受けることとなったこの人物だ。
方面軍司令部から直々においでとは、随分な力の入れようだ。
「さて、全員かけてくれ。早速だが本題に入ろう」
「現在のフェルディナントの中心気圧は985hPa、強風域の半径は170㎞と、決して強大なものではない。だが問題は、出発前に聞いた者もいるとは思うが、こいつのルーラーにはレーダーのような機能が備わっている。それに加えて――」
レーダーについて驚きの声はない。俺たち以外の基地から集められた連中にもこの話は行き渡っているようだ。
「こいつのソリッドクラウドの構成だ」
その一言と共に表示される、HLPSの衛星写真。その上に現れる青い円。いや、これは円とは言えない。利き手を使わず泥酔状態で書いたような、いびつな図形。東に向かっていくつも突起の生えたようなその独特の形状の上を、レーザーポインターの赤い点が駆け回る。
「こいつはソリッドクラウドを分離させようとしている。もしフリートを形成するとなれば非常に厄介だ」
レーダーについては聞かされていたが、これは初耳だった。
他の部隊についても同様なようで、一瞬だけ息を吐くような声が会議室に満ちる。
「もし我々の侵攻する方向にフリートが展開することがあればかなり厄介なことになる。この映像は今から1時間前のものだ。今のところ抑制作戦の効果によってこれ以上の変化は見られていないが、一刻の猶予もないのは間違いないだろう」
その恐れているフリートというのは、HLPS、もっと言えばルーラーが自らの纏っているソリッドクラウドをちぎり、自らの周囲に浮かべるものを指す。
当然、ただ切り離すだけではない。そこにはルーラーこそいないものの、複数のトルーパーが、或いはフラック等それ以外の戦力を分乗させ、ピケット艦よろしく前哨に、或いは地上侵攻の露払いに活用される。まさしく艦隊という名に相応しく、複数揃えられると本命への上陸はおろか接近すら困難になりかねない。
「抑制作戦は夜を徹して行われる。我々は明日夜明けと同時に連中の本体へ北からアプローチ。上陸後、画像に示したフラックをバックアップチームが排除。進路を確保したところでサックチームを投入。サックチームがルーラーを釣り出したところでHGVによる一斉攻撃を敢行する。だが今回はHGVの弾数に余裕がない。戦闘攻撃機による攻撃は二回が限度だろう。このため、サックチームは万全を期すため、ガイド用レーザーを装備しての出撃となる」
政府肝煎りのわりに貧乏くさい話だ。
「……もし二度のHGVによる攻撃が失敗に終わった場合、付近のバックアップチームも状況に応じてサックチームの火力支援に回れ。何としてでも、パシフィックピラーとヤタガラスを守らねばならない」
(つづく)
今日も短め
続きは明日に




