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制空猟兵  作者: 九木圭人
タワーディフェンス
24/32

タワーディフェンス5

 翌朝、目を覚ました時には既に件の低気圧は熱帯低気圧へと変わっていた。

 それ以外には特に何もない。前回と同様に集合して搭乗――の前に、中隊長からの訓示だ。

 だが、今回は少しばかり勝手が違う。正確に言うと、一つだけ手順が増えていた。


「先程、有志国連合軍気象観測センターはインド洋に発生した熱帯低気圧をクルーザー級HLPSと認定し、以降本HLPSを『フェルディナンド』と呼称することを決定した。現在は現地に駐留しているオーストラリア部隊により抑制作戦が行われており、HLPSは発生した海域からの移動は見られない。よって我々は現地到着後、即座にフェルディナントへの上陸及びルーラーの破壊作戦に移ることとなる」

 どうやら話は既に進んでいるようだ。

 幸いオーストラリア部隊により、これ以上の強大化を防ぐ措置は採られているようだが、あくまで奴の勢力を抑えて攻撃を行う部隊=我々が到着するまでの足止めだ。


「加えて、その攻撃に関してだが、オーストラリア部隊の派遣した無人偵察機が、フェルディナントのルーラーからレーダー照射を受け、誘導電波妨害弾を使用したという報告があった」

 一瞬だけざわめきが起きた――俺たちを含めて。

 通常、HLPSにレーダーに相当する能力と言えば、フラックの盾状のパーツが例外的にその機能を有している程度だ。こちらの捕捉は主に赤外線を探知するか、或いは目視――トルーパーの頭部のどの辺りに目があるのかは分からないが、少なくとも光を受容し、その情報を解析する機能は揃っていると考えられている――に頼っている。

 一応、電磁波を定期的に放射ているという例も過去に何例があったため、全く初めてのケースという訳ではない。

 勿論、俺より遥かに長いキャリアを持つ他の隊員たちならそのこともよく知っているはずだ


 問題は、それが火器管制レーダーであった場合だ。

 そしてそれは、連中にレーダーを用いた攻撃手段。即ち、従来より高精度の射撃統制か、或いは誘導兵器に相当する能力の獲得を意味している。


「現在事実関係を確認中であるが、当面はこの新たな脅威に対し、従来の欺瞞手段に加え、予備ハンガーに無人機が使用したものと同じ誘導電波妨害弾を装備して対処するものとする」

 それがあくまで急場しのぎの策であるというのは、説明している中隊長自身を含め、全員が理解していただろう――恐らく、最初にレーダー照射を受けた無人機のオーストラリア部隊の隊員も。

 クラウドウォーカーには欺瞞手段、即ち敵の目を晦まして身を守る手段が予め搭載されている。

 スモークディスチャージャーに加え、チャフ・フレアランチャーも――俺自身を含む多くの隊員はお守り代わりに――装備しているが、もし連中が本当に誘導兵器の類を持っていた場合、確かにそれだけでは心許ない。

 ――問題は、件の誘導電波妨害弾は予備弾含め一機当たり二発しか搭載できないという点だ。


「……」

 しかし、不安だから行きませんが通る仕事でもない。

 ましてや政府の肝煎りだ。結局は公務員である我々に逆らう選択肢などない。その二発と従来の欺瞞手段で十分であると信じて、そして十分となるように立ち回らなければならない。


 前回同様軍曹と共にシームルグに搭乗。離陸までの間、同じく乗り込んだ整備班の機付長と件の新装備を確認する。

「使い方は?」

「訓練で何度か」

 他の武器とやることは変わらない。こいつを選択して発射ボタンを押すだけ。

 人間用のMANPADS=携帯式防空ミサイルシステムとほとんど変わらないサイズの円筒が、それより一回りだけ小さく、半分程度の長さしかない別の円筒と共に置かれているのを見下ろしながら答える。

 小さい方の筒は、先頭付近に赤い線が一本ぐるりと一周していて、それが何度かの訓練で使用した訓練弾とは異なる点だった。

 MANPADSに似ているが、こちらに誘導能力はない。コックピット内で引き金を引けば、ただ小さい円筒=装弾筒が射出され、空中で中身が飛び出してまっすぐ飛ぶだけのロケット弾だ。

 今はこれがちゃんと機能してくれることを祈るしかない。


 きっと隣で自らの機体の機付長と同じことをやっていたのだろう軍曹も、同じ結論に達したのだろう。

「無人機が撃墜されたという話はなかった」

 呟くようにそう言って、それから彼女はこちらを見た。

「何とかなると信じよう。今気に病んでも仕方がない」

「……そうっすね」

 結論付けると、コックピットからの放送=間もなく発進の合図。


「座ろう」

「はい」

 そこで話は終わった。

 もう恐れていない――昨日の夜伍長に言われたその言葉を、今ならはっきりと首肯できるかもしれない。

 シートに腰を下ろした瞬間、頭の中には不安や恐怖よりも、この“出張”で滞る書類の枚数についてカウントが優先され、それも気が滅入ると辞めてしまった。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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